124『秘宝守護兵』
白い石で作られた人型の像はゆっくりと歩き、アイテムボックスを守るように立ちはだかった。
俺と雪奈と五郎は、アイテムボックスが中央に置かれた円形紋様の中へ足を踏み入れた。
円形紋様の大きさは直径8メートルほどだろうか……学校の教室を半分に切り取ったくらいの広さだ。
すると、その円形紋様の“縁”から光がまっすぐ上に伸びた。
秘宝守護兵と俺たち3人は、円柱状の光の筒の中に入っているような状態になった。
「この光はなんだ? 雪奈、五郎、知ってるか?」
「こういうのは経験ない。でも私の《境界感知》は石像の剣士には反応してるけどこの光には反応してないから危険なものではないと思う」
「光の外に手を出すことはできるな。閉じ込められてるってわけじゃないっぽいぜ」
敵の正面に五郎が立ち、俺と雪奈は敵の斜め後ろに移動した。
五郎が突進する。しかし2メートル50センチくらいある石像はとんでもない速さで五郎の両手剣を弾いた。
その直後に俺と雪奈も斬りかかるが、まるで首と腰が同時に回転したかのような不自然な速度で振り向き、俺たちの剣を次々に円形紋様の外へ弾き飛ばした。
そして今度は五郎に斬りかかる。五郎は両手剣でなんとか受け止めた。
秘宝守護兵はこの大広間に来る前に戦った青銅の衛兵像とは何もかもが違った。
とにかく剣速がすさまじく、動きにいっさいの無駄がない。
俺たちは円柱の光から逃げるように出て、扉付近にいる仲間たちと合流した。
「雪奈の爆裂火球魔法と、真希の冷結魔法の矢であいつを攻撃してくれ! 近接戦では勝てなくても、遠距離から集中砲火で倒せばいい」
雪奈は手のひらから火球を出した。
真希は弓を構えて現れた魔素の矢に、冷結魔法を付与させた。
「爆炎球!!」
「氷晶の矢!!!」
火球と矢は秘宝守護兵に向かって一直線に飛んだ。
しかし、どっちの攻撃も光の筒にぶつかると消滅した。
「勇人君、あの光の中は魔法が無効になるみたい」
「ってことは俺の闇魔法でも倒せないってわけか……」
五郎は数歩前へ出ると肩を回して、両手剣をゆっくりと一振りした。
大広間に、重い風切り音だけが響く。
「純粋に剣と剣の勝負をするための円形の闘技場……リングってわけだ。俺がひとりで行ってくる」
そうするしかないのは、五郎が一番わかっていた。
一撃で剣をはじき飛ばされた俺と雪奈じゃ、まったく相手にならない。あの剣をまともに受け止められたのは五郎だけだった。
それに三人で戦っても五郎の間合いに俺たちまで入れば、かえって彼の剣筋を邪魔しかねない。
「ヤバそうだったら、すぐに諦めてくれよ」
「俺はベテラン探窟家だぜ、社長。引き際は見極められる」
久留里が「気休めかもだけど!」と五郎の背中に自動回復魔法をかけた。
五郎は振り向かないままそれにサムズアップすると、ひとりでまっすぐ光の筒へと向かい、円形紋様に足を踏み入れた。
俺たちは紋様の近くまで移動して五郎の戦いを見守る。
五郎は剣を前に構えて、ジリジリとほとんどすり足で寄る。
秘宝守護兵の間合いに五郎が入った瞬間、敵のロングソードが五郎を襲い、五郎は剣でそれを防いだ。
その後も秘宝守護兵の連撃は続き、五郎は攻撃を受け止め続けた。
スタミナという概念のない秘宝守護兵の攻撃は途切れることがなく、五郎のターンは回ってこない。
まるで刀鍛冶が鉄を打つような、ガキン、ガキン、ガキンという金属音が大広間に響き続け、火花が散っている。
やはり無理か、攻撃しようにもその隙がない……。
しかし五郎の顔を見ると、一撃一撃が重い剣の威力に耐えながらも笑っているように見えた。
その顔を見た俺は……五郎とふたりで飲みに行った帰りに聞かされた話のことを思い出していた。
それは五郎が学生時代に────陰惨なイジメを受けていたという話だ。




