第64話 戦場から帰還した者達
「帰って来ました!」
シャロンに見逃されたドレイクは国境まで飛行すると、退却時に分かれたダーレンと自分の配下たちと合流する。
「長時間の着用は疲れるね」
「ドレイク様。ダーレン様は?」
着地し、肩を回すドレイクにダーレンの配下の一人が問う。
「帰ってないの?」
「はい」
その時、草原にて巨大な亜空間が広がった。その様は国境からも視認でき、ドレイクを除く全員が驚愕する。
「なんだ?!」
「……ふふ。皆帰るよー」
「しかし、ダーレン様とレイア隊長がまだ――」
「あれって『ルルベルの釜』のエネルギーだから。ダーレンが持ってたって仮定すると、まともにあのエネルギーを受けて無事だと思う? レイアの部隊も死んだのは確認したし、待つだけ無駄だよ」
今まで見たことのない『歪』な力を遠巻きに見た面々はダーレンの生存は絶望的だと判断した。
「ほら、色々と噛みつかれる前に撤収ー」
場の最高位であるドレイクは手を叩きながら撤退を促す。急げ! と慌ただしく退却作業が開始された。
「『人型強化装甲』を随分と傷をつけられたようですね」
「あんたも来れば良かったのに、ナスカ」
ドレイク直属の臣下の男、『天翼族』のナスカは首を横に振る。
「ドレイク様の事案に水を差す様な真似は致しません」
「あんたのそう言うところ、好きよ」
自らの能力として『呪術耐性』を持つドレイクとナスカはディザロアと正面から相対することが出来る数少ない存在である。
「『楔』はどうでしたか?」
「“意識”と“能力”の剥離を確認したわ。分かれた“能力”の方は、ある程度『楔』の制御下に置ける事もわかった」
「それでは『竜族』に関してはもはや驚異ではないと?」
「それは早計ね。“能力”は意図して“意識”の方と接触し、元に戻ってしまった。“意識”の方も“能力”がどこに居るのか分かってたみたいだし、互いに引き寄せられてるのかも。その辺りは改良がいるわ」
「良い成果ですな。それと『竜殺し』が見えないようですが?」
「折れちゃったから捨てた♪」
ドレイクの奔放ぶりにナスカは額に手を当てた。
「……『竜族』への切り札の一つであり、製造に24年かかっておりますが、総統閣下へどう申し開きをするおつもりで?」
「『楔』の結果と将来性。少なくとも、今回の結果だけで『海上都市』で進行中の作戦に役に立つも思うわよ」
「それは、総統閣下もギリギリ納得しそうですな」
「でしょ? 『未来視の魔王』の“未来を見る力”を手に入れれば、もう世界をとった様なものだからね」
ドレイクは角笛が響き渡る草原の方を見る。
「またね、お姉ちゃん。次に会うときはもっと愛し合えるといいなぁ」
また会えると確信しているドレイクは退却する馬車に乗り込んだ。
「何度も言いました。私の口からは語るよりも機体の損傷と記録を確認すれば解るハズです」
元の世界に帰還したマークは着陸した空母の取調室にいた。
彼が異世界から戻ってから二週間。
空母に着陸したSKA-4の状態を見て、技術開発部は唖然とした。
「“炎の鳥”“ドラゴン”“影の軍隊”極めつけは“四つ眼の巨大な鳥”ときた。とても信じられる話ではないぞ、少佐」
軍部の監査官はSKA-4についていた損傷と搭載していた最新の武装が何に使われたのかを終始マークに問う。
「ファウスト大尉の安否はどうなんですか? 宇宙軍に確認すればすぐに解るハズです」
「質問してるのはこちらだ。少佐、これは新たな国際法に対しても大きな問題となる。英国の最新機が武装の半分以上も使用した。しかも、将校クラスの承認がなければ解除できないロックを外した上で、だ」
この件は決して無視できる事ではない。英国でもトップクラスの制限が機体消失した僅か数十分の間に解除され、戦闘があったかのように武装を消費していたからだ。
「君の進退にも関わってくるぞ、少佐。最後のチャンスだ。SKA-4でどこを攻撃した?」
取調べのデスクを叩き、詰め寄る監査官にマークも同じように詰め寄る。
「何度も言います。作戦行動中でファウスト大尉に協力を求められ、それに応じました。そして先ほど申し上げた存在と接触しました」
「……そうか。処遇を楽しみに待つがいい」
それだけを言い残し監査官は取調室を出ていった。
「……隊長、無事ですよね?」
マークはあちらの世界に残ったファウストの事を気遣う。
戦争の時、ファウストの隊にいたマークはある日、異動を言い渡された。
それは搬送機のパイロットが足りないからと言うもの。本来なら高官の身内を戦線に出さない為に作られた部隊であったが、マークは戦場での戦果が認められてそちらに配属になったのだ。
当然、戦果など身に覚えがない。自分は後ろで前に出る隊長達の援護をしていただけだ。何かの間違いだと、軍部に問い合わせた所、
“第24小隊隊長のファウスト少尉より、タネガシマ作戦の功労者はアナタだと進言がありました。これは第24小隊全員が同じ証言をしています”
調べるとファウストは自分の戦果を部下に譲り早期に戦線から離していたという。
「死なないで下さい、ファウスト隊長。必ず……助けに行きます」
その時、取調室のドアが開いた。
入ってきたのは一人の中年男性。その軍服にある階級章を見て、マークは立ち上がり敬礼する。
「楽にしてくれて良い」
そう言って握手を求めてくる。
「宇宙軍総司令オーランド・ベルウッドだ」
「マーク・ギレン少佐であります、少将」
そして、オーランドは席に着くとマークに着席するように告げて座らせる。
「君の記録を読んだよ。こちらとしては欲しい情報が幾つかあったので、直接話を聞きに来た」
オーランドは資料を広げる。そして、最初の質問は、
「ファウスト大尉の様子はどうだった?」
まるで子を心配する親のような眼と口調にマークはこう返す。
「少将へ、ファウスト大尉より伝言を預かっております」




