第32話 竜を呼ぶ青年
「それは一体、どれ程の事態と受け取ればいいのですか?」
スーランは人払いを済ませ、仮面をつけたディザロアから此度の情報を受け取っていた。
「私としても直接見るまでは……いや、見た後でも信じられなかった」
「それ程に『竜の魔王』様が殺されかけたと言う事態は異常だと言う事ですか」
「上は本気だ。現に今回の件に関与した三つの国は世界から消えている」
「それで……商人たちがさわがしい訳ですね……」
一夜にして国が三つも滅ぶなど常識的に考えて無茶苦茶だ。
しかし、それは『竜の魔王』の力は全く衰えていない事の裏付けでもある。
「今、『竜王会』は襲撃した犯人を捜してる。私も別口として調査をしていてな。協力して欲しい」
「それは勿論です」
「最近、変わった事は何かなかったか?」
「そうですね……いくつか心当たりはあります」
「一通り、分かってる範囲で教えてほしい」
スーランはここ数週間で起こっている事柄をディザロアに告げる。
“動かない金属の乗り物”
“南の大陸からの勢力”
“竜の出現”
「竜の出現とは?」
「二週間程前から、各地で飛行する竜の姿を確認しているのです。特に何か被害があるわけではないので、魔王様の手の者かと思っていたのですが」
「姿は分かるか?」
「お待ちを。確か……調査で模写した記録が」
スーランが調査報告書を探す間、ディザロアは外が薄暗くなっていく様が目に映った。
「こちらです。どうしました?」
「外が暗いな」
「おかしいですな。今日は雲一つない晴天のハズですが……」
その時、突風が吹き荒れ、窓ガラスにヒビを入れる程に建物を揺らした。
それにいち早く気づいたのはアリスだった。
ファウストの眼鏡に上空に捉えた『竜族』特有の膨大なエネルギー反応を表示する。
「! おいおい!」
真上を見上げると同時に陽の光を遮る巨体が広間に降下してくる様を視認する。
巨体――竜の姿に気づいた広場の人々は慌てて逃げ出すが、竜の着地と同時に発生する風に巻き上げられる。
サハンとファウストも有無を言わずにその気流に呑み込まれる。
「アリス!」
舞い上がったファウストに正面を開いた『人型強化装甲』が空中で装着される。
発生し続ける気流の中、ファウストはどうにかサハンを抱えるものの、他の者たちまではカバーに回れない。
「大丈夫だよ」
サハンがそう言うと、乱雑になっていた気流は意思を持つように巻き上げた人々を広間の外へ弾き、優しく降ろしていく。
ファウストも引き離される様に外へ降ろされ、広間にはサハンと巨竜だけが残った。
「君にはこんなことは出来ない。そうだろう?」
サハンは、語りかけるように巨竜に近づく。
巨竜は近づいてくるサハンに視線を向け、威嚇するように低く唸る。
「ボク達は、この国が――」
しかし、拒絶するような咆哮を向けられ大気が震えた。
ヒトなど、巨大な腕を一振するだけで死ぬ。にも関わらず、サハンは何一つ臆する事はなかった。
「ボクのせいなのは解ってる。君から目を反らした続けたから。だから――」
サハンは巨竜に触れられる距離まで近づく――
そのサハンの背後に『竜殺し』の剣を持った透明な“ナニか”が迫っていた。
風音によって気配と音は消え、サハンの意識は巨竜に向いている為に、振り向くことは絶対にない。
狙いは巨竜――ではなくサハンであり、『竜殺し』が彼を貫く。
「捕まえたぞ」
『竜殺し』はサハンに届く前に見えない“ナニか”によって止まっていた。
「イギリス宇宙軍特務小隊『スカルフラット』隊長のファウストだ」
『光学迷彩』を先に解除し姿を見せるファウストは、『竜殺し』を持っている者に告げる。
「お前の所属と名前は?」