第33話 舞踏会場
「私は兵器しか造ることしか出来ない人間だ。それでも祖国の為になると信じて来た」
「オレも戦う事がそうなると信じていました」
「君の経歴は見たよ。一時、心的障害を患っていたそうだね?」
「はい」
「だが、君は再び銃を取り戦争へ行った。答えを見つけたのかな?」
「月並みですが」
「……人にはそれぞれ理想がある。既にソレを持つ君が羨ましい」
「ノート博士。貴方の造った兵器に戦争でオレは何度も助けられました。だからこれからも多くを救うために造ってください」
「兵器は兵器だ。人を救うことはできんよ」
「オレが証明します。貴方の造った兵器は多くの人を救える事を」
ノート・ブランドンはファウストにとって、戦争で幾度と命を救われた恩人であった。
「とりあえず、姿を現せ」
『人型強化装甲』の装甲が動き『EMP』を放つ。
周波数を変えた電磁パルスはアリスが居なければ相殺する事は不可能である。
「……」
『竜殺し』の剣を手放した襲撃者は距離を取るものの、バチバチと音を立てて姿が現れた。
金属の鎧。『人型強化装甲』に類似した姿をしているが細部が異なる。
『造形は飛行換装の本体だと思われます。しかし、部位に記録との差異があります』
「いじられてるな」
『装甲の劣化具合から推定2~3年は経過しています』
「……知恵を入れてる奴がいる」
『ワタシもそう思います』
素人目に見れば、見た目は完全に『人型強化装甲』と瓜二つ。情報を持たない限りは違いなどわからない。
「魔王殿下が間違う訳だな。ここで絶対に捕まえるぞ」
『了解』
ファウストは『竜殺し』の剣を持ちながら、所属不明の『人型強化装甲』を不確定者として登録する。
同時に背後で竜と向かい合うサハンの様子にも気にかける必要があった。
「援護が欲しい」
『彼女も事態に気づいてると思います』
姿の消えない事に不思議がるアンノウンだが、優先順位を『竜殺し』に変え、取り戻そうと攻めに入る。
「舞踏会は、もう始まってるんだがな」
ダンスのパートナーとして竜と人では相性が悪すぎる。
すると、アンノウンはファウストの持つ『竜殺し』の剣を指さした。
「! ダメだ!」
サハンの静止と竜がファウストに対して攻撃を仕掛けるのは同じタイミングだった。
巨大な爪がファウストを切り裂く為に振り抜かれる。
しかし、ソレを察知したアリスは推進バーニアを起動。弾けるように前に飛び出し、『人型強化装甲』はギリギリで攻撃範囲から外れる。
「っと。そっちのパートナーは間に合ってるだろ!」
そのタイミングを図ったかのようにアンノウンが襲撃する。ファウスト側のモニターには相手の『衝撃装甲』の発動が警告された。
「合わせろ!」
『了解』
アンノウンの首を狙った上段蹴打をファウストは腕で受ける。
刹那、互いの『衝撃装甲』がぶつかる事で生まれる波動が周囲へ拡散した。
『?!』
「ビックリしたか?」
ファウストの対応に全く予想していなかったアンノウンは残った脚を刈られて倒れる。
そのまま押さえ込むと『放電射撃』で『人型強化装甲』の機能停止を狙らう。
しかし、突如として竜が突風を発生させファウストとアンノウンを吹き飛ばした。
「ッチ!」
吹き飛ばされた際にアンノウンはファウストを蹴り飛ばし、落ちた『竜殺し』も回収する。
「ダメだ! 彼は違う! 敵じゃない!」
サハンは竜を説得しているように見えるが、当の竜はまるで聞く耳を持たない。
すると、アンノウンはサハンを指差した。
「まずい!」
ファウストは咄嗟に何が起こるのか察知し、『閃光手榴弾』を投擲。同時に可変銃を構える。
竜がサハンに爪を振り上げ、その目線に『閃光手榴弾』が入った瞬間、弾丸が強制的に炸裂させる。
周囲を光を凌駕する閃光がファウストとアンノウン以外の生物の視界を潰した。
「危険だ。お前は下がってろ」
「ファウスト……」
ファウストは目が眩んでいるサハンを抱えて離れた所まで移動する。
彼を庇いながら戦うには限界がある。竜と彼は無関係ではなさそうだが、攻撃された所を見ると、良い関係ではない様子だ。
「アリス、もう一度だ」
『了解』
「ファウスト。竜は……こんなことを望んでいない。彼は――」
「話は後で聞く。今は一秒でも時間が惜しい!」
ファウストは『人型強化装甲』の機能をフルに発揮し、アンノウンを捉える為に正面から竜の股下をスライディングで抜ける。
『――ふふ』
アンノウンは笑う。すると、竜がファウストを押し潰すように腕を振り下ろした。
地面と共に『人型強化装甲』が押し潰される。
『アハハハ!』
抑えきれなくなったのか、アンノウンは狂ったように高らかに笑う。
「おいおい、知らねぇのか?」
別の声がアンノウンの高笑いを停止させる。
「こんな物じゃないぞ? この『人型強化装甲』の真髄は――」
押し潰した腕を逆に持ち上げるようにその下からファウストは『人型強化装甲』の性能をフルに発揮する。
駆動音が辺りに響き、『衝撃装甲』で逆に竜の腕をはね上げた。
『――』
竜は怯む。しかし、『衝撃装甲』のコンマ数秒のインターバルを突いたアンノウンはファウストの首を狙って『竜殺し』を振り抜く。
「遅かったな」
『!?』
横から魔剣が飛来する。アンノウンは自分を狙った魔剣を咄嗟に『竜殺し』で反らすが、代わりに刀身は砕けて二つに折れた。
「……ハン組長が見れば確実に腰を上げる事案だな」
その場に現れたのは仮面を着けたディザロアである。放った魔剣――オーバーデスを引き寄せて手元に戻す。
「ディザロア、お前はどっちと踊りたい?」
「……相変わらずお前は回りくどいな、ファウスト」
それでも言いたいことは分かる。ディザロアは竜が無視できないレベルまで『呪魂』を解放して行く。
「竜は私がやろう。そっちは生け捕りだろう?」
「まぁな。だが、お前は竜を抑えられるのか?」
「この世界の者で、魔王以外に私とオーバーデスを恐れない生物は存在しない」
「ハハ。そいつは頼もしいぜ」




