◆ チートおばさんはいきなり忙しい
〈チートの目覚め〉の儀式を終えた、ジェネルが教会から出ると、周りがギョッとしていた。
それもそうだろう。 今度の〈チート〉持ちは誰かと興味本位な村人が何人か集まっていた・・・・・・・・・が、まさか歳のいったジェネルが〈チート〉を授かるとは、誰も…… 夢にも思わなかったからだ。
当のジェネル本人ですら、夢にも思ってないので当然だ。
ジェネルは慣れない視線を気にしないようにして自分の家に帰った。 孫のレイは最初こそ少し怖がってはいたが、熱いわけでは無いと分かるや、キャッキャと喜んで、いつものようにジェネルに甘え出した。
いつもなら5歳のレイが重く感じて、腰痛持ちだったジェネルはいつまでも抱いていられなかったはずなのに。
全く疲れる様子がないのだ。
ーー んー! 凄いよ〈チート!〉これなら少し楽になるじゃない! 〈チート〉凄いわ!凄い!
ジェネルは心底、久しぶりの身体の軽さと充足感に浮かれていた。
だが、喜んでいられたのもここまでだったと後から知るジェネルだった。
最近は細々と頼まれごとが増えていった。
それも何故か〈チート〉とは全く関係ない普通の雑用ばかり。
村人はせっかくの〈チート〉持ちになったジェネルを本当は頼りにしたかった。 しかし歳を考えて、あまり大きな頼み事をしなかったせいか、いつしか雑用ばかりを押し付けられるようになっていた。
だが、悲しいかな年の功…… 意外と年寄りの知恵は役に立つらしい。
最初は泣き止まない赤ちゃんのあやし方から、嫁と姑の喧嘩の仲裁。はては農地の肥料の配分とお祝いの席でのご馳走レシピなど…… まぁーここまでは良かった。 身体が若返ったみたいに軽いので、多少は忙しいと感じても苦ではなかったから。
しかし段々と村人は学ぶのだ。
やっぱり〈チート〉持ちは凄いなぁーと。
頼めば何でもイケる!と。
お人好しなジェネルおばさんに甘えてしまえ、と欲が増してくるのだった。
ジェネルは孫のレイとネスレ特産の山に生えているデュカ草を摘んでいた。
すると、そこに小さな魔物のデカイが現れた。
小さいくせにデカイって名前がムカつく紛らわしい魔物だ。
いつもなら、私一人走って逃げていたのだが、今日は孫のレイがキラキラとした目で
「おばあちゃん! ヤッつけて!」
と来たもんだ。
孫以外には、決しておばあちゃんとは言わせない私はギョッとして考える!
マズイ!〈チート〉の戦い方など聞いてない!習ってない!どうすんの?私!
こんな緊急事態に、鈍くなった年寄り頭には名案なんて浮かばない!
必死で孫のレイが助かる事だけを考える。
ーー駄目だ!!なんも浮かばない!!
やっぱり、こんな時は知らぬ間の神頼み。
「ディアン神さまお助けください!!」
と神に祈る言葉が飛び出した。
孫のレイまで魔物デカイの距離が近づいた時!! 私の髪が激しく炎を巻き上げた。
ーーああ、髪が!
ジェネルの炎髪は孫のレイを避けて、あっという間にデカイを焼き焦がしていた!
50歳の初〈チート〉炸裂である!
どうしてこうなった?
今、私が?私の髪が?攻撃したのよね?
はっ! 「レイ!!」
私は急いでレイの元に走って身体を確かめた。 勿論、声は涙声である。
「良かった。 レイ、どこも痛くない?」
レイはニコニコ笑って、ジェネルの胸に飛び込んだ。
「おばあちゃん!カッコいい!」
「レイ…… ポッ 」
『孫が命』のジェネルは世界の誰よりも、レイに褒められるのが嬉しいのだった。
…………
……
…
だが、それから気がつくと……
なぜか?
「 もう! 司祭の嘘つき! 何が自然体よ! 小さな出来事って何! 微妙に大きい出来事ばかりじゃない!」
割と大きな声で絶叫しながら、私はネスレ村の山の麓に降りて来る魔物達を村に入る前に狩っている。
孫を助けるために炸裂した〈チート〉を村人が聞きつけて、一番頼みやすいジェネルに頼むようになったから、本気で忙しい。
「 はぁーー! 誰か! 他のチートの人! 少しは変わって〜〜」
今日もネスレ村の森から、ジェネルの声がコダマするのだった。
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