◆ チートおばさん誕生
この小説を題材にYouTubeでご活躍されている『しろしろ白っP』さんが楽曲を提供してくださいました♪良かったらご視聴くださいね♪そしてBGMとしてもお楽しみくださいね♪
https://m.youtube.com/watch?v=BKr2RfhPuls
ノブレス国には沢山の都市や村がある。
その中でも突出して独創的な小さな村があった…… その名は《サクレ村》…… 。
村人は生まれてから死ぬまで、村から出ることは珍しく、だからと言って決して閉鎖的な訳でもなかった。
だが、このサクレ村が特別な理由…… それは、ひとえに〈チート〉にあった。
村人だからと、誰も彼も〈チート〉があるわけでは無く、生まれながらの〈チート〉があるわけでもないのだ。
この村の〈チート〉は、〈チート〉が人を選ぶ…… それはそれは珍しい場所であった。
その〈チート〉が発現する数は、何故か9個と決まっている。
まるで意志でも持つかのような〈チート〉は、決めた村人を見つけると死ぬまで寄り添う。
そして、その人が死ぬと同時に、また違う村人を探す。 探した村人が死ぬとまた…… その摂理を繰り返すのだ。
決して、肉親だからと〈チート〉を継げるわけではなくーーお金を払ったからとか、徳を積んだからとか……でもない。
まるで〈チート〉に、魂が宿っているように寄り添う人を決めるのだった。
そんなある日ーー
今日も今日とて、孫を寝かしつけ、ホッと一息入れたジェネルと名乗るおばさんがいた。
寝る前のお茶を楽しんでいると、ウトウトと眠気が襲ってきていた。
ーーああ、今日も忙しかったわね… 。
今日も朝から畑仕事をして、働きに出ている息子夫婦の代わりに孫のレイの面倒を見ていた。
50歳になり、身体の疲れや、最近では腰痛も悩みのタネの一つとなっていた。
そんな時…… この村唯一の教会から弔いの鐘の音が聞こえてきたではないか。
ーーあれは、弔いの鐘……
ハッと意識が浮上した、ジェネルは自然と独り言を呟いていた。
「おや? 今、どなたか亡くなったのかしら?」
ーーその時だ!!
「ん?…………な、な、なに?」
ジェネルの座る一人掛けソファーの下に突然赤い魔法陣が浮かび上がり、光の渦でジェネルをふわっと包み込んだ。
ーーき、気持ち悪いよ!?
ジェネルは足元からグツグツグツグツと血がたぎり、じっと座るのも苦痛に感じていた。 最初は、ムズムズとして…… くすぐったいような…… 今まで感じたことが無い感覚がどんどんと迫り上がってくるでは無いか!
ーー目が回る……
次第に…… 今、自分が立っているのか、座っているのか…… 平均感覚も無く、徐々に身体の中から引き裂かれそうな強烈な痛みが襲い、絶え間なく暴れまわっていた。 ジェネルは浅い息を繰り返し、何とかこの状況を理解しようとしているが……
ーー痛い!
痛いよ!?
何がどうなってるんだい!
ジェネルは歯を食いしばって、両手で一人掛けソファーを必死に握りしめて、この痛みと異様な状態を耐えるしかない。
ーー痛いよ! なんで? 一体、いつまでこの痛みに耐えればいいんだい!?
魔法陣の赤い光は、ジェネルの身体にゆっくり吸収されてゆき、いつしか魔法陣は跡形もなく消えていた。
ジェネルはソファーを握りしめていた、自分の手が…… 不思議な事に、みるみるうちに身体中に力が漲ってきている事に驚いていた。 だが身体を裂くような痛みは絶えず襲ってくる。
ーーあああああ…… 痛い! 痛いよ!
誰か、助けて… !!
頭はパニックだが、ジェネルはおばさんである。 人生の苦境には何度も立たされているせいか、とりあえず我慢が出来るところまでは我慢である。 そして漸く…… 暫く我慢をしていると、身体の中に…… 静かに何かが定着したのを感じた。
ーーえっ! これって、もしかして、〈チート〉!?
ジェネルは唾をゴクリと飲み込んで、またもや独り言にごちた。
「 やだ…… も、もしかして。〈チート〉かしら? そんな事ある? 私に? 今頃、この歳で!?」
この村で生きていたら、〈チート〉は聞き馴染みのあること。でもジェネルは、自分に生涯、関係無いものと…… 関心すらなかった。 ジェネルは額に手を当てて深く溜息を吐いた。
ーーああ……これからが大変じゃない。
「はぁー、どうしたらいんだっけ? 確か…… 教会で〈チートの目覚め〉の儀式をするのよね?……ダメだわ。 生涯〈チート〉なんて関わらないと思っていたから、うろ覚えも良いとこだわ…… 」
暫し立ち上がって、ブツブツと独り言を呟きながらウロウロしていたジェネルだったが、今出来ることがないと判断しては、素直に諦めて寝ることにした。
歳を取ったら諦めも肝心なのだと知っているから。
次の日の朝。 教会に行くと、司祭様が入り口で待ってくれた。 ジェネルと、この司祭は向こうが一つ上の幼馴染みである。
「 おや、誰が来るかと思ったら、ジェネルか。 こりゃまた随分と歳がいったチート持ちが現れたね。ハハハハハ 」
「 司祭! アナタ! 人の事は言えないでしょ! 」
「 ハハハハハ! そりゃそうだ 」
「 相変わらずの笑い上戸め! 」
さっきまで、口から心臓が飛び出そうだったジェネルだったが、司祭の気の置けない態度に自然と気持ちは落ち着いてきた。
(参ったな…… 流石は司祭ね )
「 では、早速祭壇に向かおう。ジェネルは歳だから階段に気をつけてね 」
ジェネルは折角、今見直したばかりの幼馴染に怒りが湧く。
(まったく……司祭は相変わらずだわ )
ムッとしながら、教会の中央に鎮座している祭壇に向かった。
幼い頃から…… もう何度も通った教会。 祭壇前まで来ると絶妙な配色のステンドグラスから暖かな光が差し込んで、
《ディアン神像》を柔らかく包んでくれる。
ん?…… なんだろ? なぜか
《ディアン神像》が何かを訴えているように見える?
気のせいかしら? と思ったが、年寄りは基本的に深く関わらないが己を守る事に繋がると学習しているので、考えないことにしてみるが。
「 さぁ、ジェネル。祭壇の前で目を閉じて〈チートの目覚め〉と唱えて 」
ジェネルは意を決して頷いてみせた。
「 分かったわ 」
私は祭壇の前で《ディアン神像》をもう一度、見上げた。
うーん、いつもより……
やっぱり、いつもより……
何か目で訴えているよーな?
気がする?
( ああ…… でも、とりあえず、やること先にやらなきゃだよね?)
昨夜の事を思い出して、少し躊躇するが、ジェネルは恐る恐る目を閉じて
〈チートの目覚め〉と呟いた。
「 うお! 来たね 」
呑気声で司祭が話し出す。
「 ジェネル、もう良いよ。目を開けて 」
私はそっと目を開けた。 特に変わった感じはない。 むしろ、昨夜に起きた身体の異変の方が遥かに違和感があった。
「ジェネル、この姿身鏡を見て。さぁ早く」
急かされた私は素直に従う。そこで
「 ヒャー!!」
一声あげて唖然とした。
確かに、元々から髪は赤かった。 最近、白髪も増えたけど…… だけど、姿身鏡に映っていた私の髪は激しくボーボーと燃えている!
「 えっ? 昨日亡くなったチート持ちは、炎のチート持ちの…… アリエルさんだったの?」
「 そうだよ。 アリエルさんは、流行病の時をやり過ごしていたのにな…… しかし、幸せそうな最期だったよ 」
司祭は何度もチート持ち達を見送って来たからか、その声は落ち着いている。
だけど私は…… 人が亡くなる事に慣れないようだ。
「 …… そ、そう…… 」
「 ところでさ、見慣れているけど、やっぱり頭は熱くない? 不思議だよね」
「 そうよね、私もビックリしている。でも司祭も大地のチートで、左足が岩で出来ているじゃない? 歩きにくくないの? 今更聞く私も私だけど」
「 ハハハ、それが…… ちゃんと足も曲がるし、元々人間の足だった時と何も変わらないんだよね。 これも不思議だ。 服を脱いで風呂に入るまで忘れているよ」
「 そっか 」
私が不安そうにしていた事を察した司祭は
「どうした? ジェネル?」と聞いてきてくれた。
「 あのね、司祭。私さ、この歳で
〈チート〉って…… 出来るのかな?」
昨日から何度か巡った考えを、先輩チート持ちの司祭に聞いてみた。
「 そりゃ心配だよな。〈チート〉って言っても、普段は特にやる事なんて無いよ。但し…… 不思議と役目が勝手に近寄ってくるんだ。小さな事や大きな事が…… 。不安かも知れないが、一人で解決できない時は、不思議と仲間のチート持ちが現れる。だから気構えないで、自然体で行こうか。ジェネル」
「 そっか。 自然体ね…… 」
やっと自分のチートが分かった私は、暫し考えてから一つの疑問を幼馴染の司祭にぶつけてみた。
「ねぇ、司祭。一つ疑問があるんだけど?」
「 ん? 何でも聞いてよ」
私は思い切って聞いた! 聞かずにはいられなかったから。
「 あのさ、私の髪の毛って? 普通に櫛でとかす事ができるのかしら?」
司祭は一瞬、虚を突かれた顔をしてパチンと自分の後頭部を叩いた。
「いやあ、先代のアリエルさんに生きてるうちに聞いておくんだったな……ハハハ 」
ジェネルの至って素朴な疑問だったのだが、聞くだけ無駄なようだった。
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