プロローグ
「良いですか、コルネーリア。王族とは、孤独なものです」
それが、王妃であるお母様の口癖だった。
幼い私に目線を合わせる事もなく、お母様は歌うように言葉を紡ぐ。
「貴女の指先一つで国が救える事も、滅ぶ事もあります。民の命が失われ、土地が奪われる事もあれば、人が栄え、精霊の加護をその身に受ける事もあるでしょう」
お母様の口元はいつも自然な微笑みが浮かべられている。
見本にしろといつも家庭教師のカタリーナは言うが、楽しくもないのに笑うなんて変だと私は思っていた。
「何が起ころうと、起こらなかろうと、全ての責任は貴女が持つ事になるでしょう。部下の反旗、自然災害、その他、貴女の想像もつかないような事でさえ」
それはおかしいわ、と叫びたかった。
けれど、お母様の言葉を遮ればまた怒られるだろうと、私は静かに言葉の続きを待つ。私が起こしたわけでもない出来事の責任なんて、どう取れば良いのか私にはわからない。
お母様は少しだけ困ったように眉を下げた。
「誰の責任にも出来ず、誰も支えに出来ない。誰かに導かれる事も、誰かに投げ出す事も出来ない。孤独で、息苦しくもどかしい人生。
けれど、それが王族として——国を預かる者として生まれた貴女の定めです」
笑うように細まった、私と同じ蜂蜜色の瞳。その奥でお母様が何を思っていたのか、私にはわからない。
けれど、わかった事もある。
「お母様は、正しかったわ」
白くなる程固く握られた自身の拳を見下ろし、その無力さに眉根を寄せる。
絵本の中では、同じ立場のお姫様が王子様と手を取り合い、見つめ合う。
王様も王妃様も、家来や観衆たちも……みんなが二人の幸せを祝福し、笑い、幸せ溢れる最後を迎えていた。
けれど、あんなのは嘘だわ。
大好きな、繰り返し読んだ物語を、私は二度と開くまいと心に誓った。
私の恋に笑顔を浮かべた人はいない。
私ですら、頬を伝ったのは哀しみの色をした大粒の涙なのだから。
王族とは、本当に孤独だ。
誰にも導かれず、誰も支えに出来ず、投げ出す事も、逃げ出す事も出来ない。
ざり、と砂が鳴る程踏み締めた道。きっと引き返す事すら出来ないのだろう。前を行く人のないいばら道が私の行く手を阻む。
けれど、
それでも、
「わたくしは諦めませんわ」
救いようのないバカだと笑われても、先に待つのがバッドエンドだとしても、今はただ、前に進むしかない。
呆れたようなため息と苦笑が聞こえ、私は勢い良く振り返った。
「行きますわよ、フリードリヒ! アメリア! この国を救うのです!」
コルネーリア=ヴィクトリア=フォン=ノイマンの初恋は、つい先程、終わったばかりである。




