第25章 決着
最後の都市の戦い一日目が終わったその夜。
アルコたちは眠りについたが、護衛のタリスの元へ内緒の使者が王様の元からやって来た。タリスは跪いて王様の指令を聞く体勢を取る。
「王様は私に何と?」
「アルコが人間を裏切ったら殺せ。また、ダニエル魔少佐を倒した時も殺せ。アルコは危険だ。命令に逆らえば家族も一緒に罰せられるぞ」
「かしこまりました」
◇
最後の都市の戦いニ日目の朝が来た。
「アルコ、今日も一人で良いの? 何だか胸騒ぎがして」僕は何故か落ち着かなかった。
「うん、今日で終わりにするよ。今日はローゼがおにぎりを作るんだ。寝起きに歯を磨いてたら庭師の人が来てハーパーとの戦いについて聞きたいって言われて話たんだ、そしたらおにぎりの具は桜の塩漬けが美味しいって教えてくれた。近くで売ってるんだって、ローゼが買いに行って、桜のおにぎりを作るんだ。楽しみだからお昼までには帰るよ」
アルコは「行ってきます」と言って屋敷から出て行った。
しばらくして、ローゼが桜の塩漬けを買って帰ってきたのでお茶を一緒に飲んだ。
「あれ、タリスさんは?」
「今日はアルコ様の護衛をするそうで、アルコ様について行きました」
「そうなんだ……何だか今日は胸騒ぎがするんだ」
「アルコ様のためにおにぎり頑張ります」
僕の頭に以前食べたローゼの恐ろしいおにぎりの記憶が蘇った。ローゼはお手伝いのおばさんと特訓をしていたから今は大丈夫だと思うけど。お手伝いのおじさんは意識を失い、丸々一個食べたアルコが死にかけて、解毒の魔法で何とか助かったけど、三日間は危篤状態だった。あのときローゼの指輪が見たこともないくらい青く光ってた。僕の胸騒ぎっておにぎりのことかな……
◇
アルコが街の外を魔族軍に向かって歩いて行く。
「あれ、タリスも一緒に行くの?」
「はい、アルコ様の護衛をします」
「いいけど、もしダニエルと戦いになったら危ないから下がっててね」
「わかりました。でも私は戦士なので大丈夫ですよ」
昨日のように魔族軍は動かなかった。魔族軍の中にダニエルを見つけた。ダニエルもまたアルコを見つけると魔族軍はそのまま動かさずに前に出て来てアルコと対峙した。
「昨日も言ったけど、もうやめようよ。人間も魔族もたくさん死んじゃったよ」
「杉風参上!」
ダニエル魔少佐が喋ろうとしたとき、アルコとダニエルの間に杉風が割って入った。
「アルコ、人間と魔族を仲良くさせたいそうだが人間は裏切ったり、悪いことをしているぞ」
「全部の人間が悪い人じゃないよ、良い人もたくさんいる。アランもお手伝いのおじさんとおばさんも良い人だよ」
「それでは、悪い人間はどうする? そいつらがいる限り魔族と仲良くなど出来ない」
「それなら、悪い人間は僕がやっつけてやるよ」
「それが王様でもか?」
「もちろんだよ、王様でも悪い人ならやっつけるよ」
「それなら、我々と一緒に悪い人間を倒すことは出来るか?」
「いいよ」
タリスの目が鋭く光った。ダニエルが杉風の横に進み出る。
「杉風、何を言っている。アルコは人間にたぶらかされているだけだ。しょせん、人間を攻撃することなど出来んよ」
ダニエルが炎の弾丸をアルコに向かって撃ちまくる。アルコはアスタロト・シールドを張って防ぐとダニエルが剣を抜いてシールドに向かって突き上げる。ダニエルの聖剣がシールドを突き抜けアルコの脇腹を刺した。
「あれ、何で……」アルコがシールドを破られたことに驚き、痛みで膝をついた。シールドが解かれ無防備になったアルコの前に聖剣を抜いたダニエルが立つ。鞘から抜かれた聖剣が白く輝く。
「マ、ママ……」
光輝く聖剣を見たアルコが女勇者リベットの姿を思い出しダニエルに重ねる。アルコが涙を流すと肩に激しい痛みを感じた。ダニエルの聖剣が肩を突き抜けていた。痛みで顔を歪める。
フェニックス・ブレイズをダニエルに飛ばすが避けられてしまった。ダニエルは炎の閃光弾をアルコに浴びせた。次々と爆発音がしてアルコが吹き飛び口から血を吐いた。
「トドメだ」ダニエルの赤い指輪が輝き出す。
「まて!」杉風がアルコを抱えて飛ぶ。ダニエルの聖剣が杉風の背中を切り裂き血が流れた。
「杉風、何の真似だ。邪魔をするな」
ダニエルが赤いビームを杉風に向かって放ち吹き飛ばす。そしてアルコの心臓に向かって聖剣を突き立てると、杉風が再びアルコを突き飛ばし聖剣は杉風の太ももを貫通した。
「ダニエル様、アルコを信じてみませんか?」
「お前もたぶらかされたか!」
ダニエルが杉風を袈裟斬りに切った。大量の血が吹き出して杉風が倒れた。立っているのがやっとのアルコにニヤリと笑うと聖剣を構える、赤い指輪が強く輝いた。
「死ね!」
◇
同じ頃、屋敷でアランがローゼとお茶をしているが、アランは落ち着かないでいる。
「ローゼちゃん、やっぱり嫌な予感がするよ」
「大丈夫です。今から作ればおにぎりは間に合いますよ、頑張りますね」
そのときアランの首から下げた護符が輝きだし、黒い光が強くなっていた。
「僕、アルコのところに行くよ。何か力が湧いて来ているんだ」アランが念じると体が黒い霧のようなものに包まれ霧と共に姿が消えた。マカラの瞬間移動の魔法だった。
「アランくん!」アランが姿を消した後、ローゼは悩んだが結局おにぎりを作ってみんなを待つことにした。
◇
アランが口から血を流して立っているのがやっとのアルコの側へ瞬間移動をした。いきなり場所が変わったのでビックリしたが何か黒い宝石の魔法の予感めいたものがあった。
僕が黒い宝石の力で瞬間移動をすると大変な状況になっていた。アルコはフラフラで、杉風も血だらけで倒れていた。白く輝く剣を持ったダニエルがアルコに切りつけようとしたのでアテナ・シールドを張った。
恐ろしいことにダニエルの剣は僕のシールドを突き破ったが、アルコの急所を外すことには成功した。
ダニエルの剣はアルコの腕を貫いたが、アルコは何とかダニエルの腕を掴んでダニエルを石化させた。僕の首から下げた護符に赤い輝きが追加された。
ついに戦いは終わった……
アルコは疲れて両膝を地面についた。
「アルコ、大丈夫!?」
僕が駆け寄ろうとしたとき、タリスさんがアルコの背後に現れ、剣を抜いて突き刺した。剣がアルコを貫く一瞬先に杉風が手裏剣を投げてタリスさんの手に当たったおかげでアルコの心臓はそれた。それでも「うがっ!」と
アルコが呻き声を上げた。
「タリスさん、アルコですよ。何をするんですか!」
僕はタリスさんを突き飛ばした。タリスさんは体勢を変えて今度は僕を突き刺した。剣が刺さる直前に再び杉風が手裏剣をタリスの手に投げたので、剣は僕のお腹に刺さった。それでも意識が遠くなった。
「タ、タリスさん、どうして……」
「邪魔をするな!」タリスさんはそういうと、地面にうずくまっている杉風の背中を剣で突き刺さすと、ビクッとして完全に動かなくなった。そして、またアルコに向かって歩いて行くので、僕はお腹の痛みを堪えてアルコの前に立ち塞がった。
「タリスさん、やめて下さい!」
ザクッ!と嫌な音がしてタリスさんは僕の心臓を貫いた。




