表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50/67

50甘:王国の未来を紡ぐ者たち

秋の風に、冷たさを一層強く感じる日であった。ミルーネがトゥルレ・ジェネラル・ホスピタルを退院する日が来た。


「お世話になりました。先生」

「いいえ、どういたしまして。また、来週の診察お待ちしてますね」

「はい」


 セブレーノと話すミルーネの表情は一片の曇りもなかった。そして、セブレーノが見送る中ミルーネは病院を出た。すると、ミルフォンソが車で待っていた。


「お待たせ、お兄様」

「行こうか」

「うん」


 大きな布を頭から被ったミルーネは、助手席で笑顔だった。何故なら、この足で王宮に行きランディレイと会えるのだから。その笑顔には気づく事はなかったが、ミルフォンソは運転しながら妹にこう言った。


「本当に、飲み薬の力は凄いね」

「そう!セブレーノ先生、とってもいい先生なの!」


 ミルーネの声は、弾んでいた。しばらくすると、王宮に到着。ミルーネの姿を見た守衛は、車を通した。そして、車を停めるとミルーネとミルフォンソは、王宮へと入って行き、ランディレイとの面会を果たした。


「ミルーネ!」

「王子っ!」


 2人の抱擁は、愛おしさ溢れる物であった。その光景を静かに見守るミルフォンソ。ひととおり抱擁に満足すると、ランディレイとミルーネは離れた。そのランディレイは、ミルフォンソに声をかけた。


「ミルフォンソ、元気そうでよかったよ」

「王子、その節は、解放していただき、ありがとうございました。その挨拶をしたく、参上しました」

「挨拶、ありがとう。ミルーネと共にゆっくりしていってくれ」

「はい。しかし、もしよければ別室にて待たせていただきたい。王子とミルーネの時間を邪魔したくないので」

「そんな、さびしいな。けれど、そのようにさせてもらうよ」


 ランディレイが用意させた別室に、ミルフォンソは移動した。そして、ランディレイとミルーネは2人きりとなった。ランディレイは長いソファに座り、ミルーネを脇に誘った。


「王子」

「ミルーネ」


 見つめ合う2人。自然に出会いの頃へと記憶が遡った。


 その日、宮廷画家を選ぶ選考会が王宮であった。集まった画家の中にミルーネ、王宮関係者にランディレイの姿があった。十数人いた画家に出された課題は、王宮の風景画であった。試験官の「始め!」という掛け声と共に一斉に絵を描き始めた画家たち。調度品や窓からの風景を切り取り描かれていくほとんどの絵。しかし、1人だけ風景画ではなく、人物画を書いた画家が。ミルーネだ。制限時間が終わり、絵が回収された後、ミルーネは個別に呼び出され、叱責された。「課題として出した風景画では無い物を描くとは言語道断」と。ミルーネはそれに返した。


「ごめんなさい」


 まだ10代のミルーネではあったが、誠心誠意謝罪の気持ちを込め、頭を下げた。ミルーネは、王子ランディレイに見惚れ、ランディレイを描いてしまったのだ。その後、追い出されるようにミルーネは王宮を退出させられた。しかし、後を追う声が。


「ミルーネ!」

「お、王子っ?」


 描かれた本人が問題の絵を持ち、追いかけて来た。


「僕の絵を描いてくれてありがとう!」


 こちらも10代のランディレイは輝く目でミルーネを見た。


「あの、ごめんなさい」

「いいんだ!とっても素敵に描いてくれて感動してるよ!また、会えないかな?」

「で、ても、変な事をしてしまったから、私、もう王宮には入れません」

「描かれた僕が許すよ!駄目って言う人がいたら、王子権限でその人クビにする!!」

「クビにしちゃ駄目ですっ!けど、会いに来ます」

「うん!」


 それから、王宮の反対を押し切り、ランディレイとミルーネは頻繁に会い、恋人同士となった。そして、ミルーネは病を告白。それをランディレイは受け入れてくれた。


 2人の思考は、現実に戻る。ランディレイは感慨深そうに言った。


「出会った頃の絵、捨ててないよ、ミルーネ」

「嬉しい。王子」


 ミルーネは、ランディレイにもたれかかった。そして、穏やかな吐息を漏らす。しばらくそうしていたが、ランディレイは立ち上がる。その様子を目で追うミルーネ。そのミルーネの視線の先に、ランディレイの右手にある小箱が。


「ミルーネ」


 ランディレイはソファに座すミルーネの目の前で跪いた。ミルーネは、胸の高鳴りを抑えつつ、短く言った。


「はい、王子」

「ミルーネ、僕の妃になってくれ」


 ランディレイが開けた小箱には豪華な指輪が入っていた。ミルーネは涙に歪む視界の中、指輪に手を伸ばし、触れると返答をした。


「はい、喜んで」

「ミルーネ!!」


 ランディレイは、ソファに飛び込むようにしてミルーネを抱きしめた。そして、2人は熱烈なキスを交わした。


「絶対に幸せになろうね?ミルーネ」

「はい!王子!!」


 その後、婚約指輪を左手の薬指にはめたミルーネは、ミルフォンソと共に帰宅して行った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ