49甘:第八条
アルヴェードが王宮で激闘を繰り広げた数日後、エリザータはその王宮を訪れた。
「エリザータ様」
リンデンスは、複雑な表情をしてエリザータを迎えた。
「リンデンスさん、ごきげんよう」
「あの、その」
珍しく歯切れの悪いリンデンス。エリザータは首を傾げた。
「どうなされたのです?」
「貴女とどのように接していいか、わからなくなってしまいました」
「そうでしたの。でも、心配は無用ですわ。おそらく、私がここに通うのは、今日が最後ですから」
「えっ?」
リンデンスの目が丸くなる。
「王子と別れる事にしましたの。今度こそ、お別れになるでしょうから」
「急に?」
「ええ、私の役目は終わりました」
戸惑いのリンデンスを背に、エリザータはランディレイの元へと行った。
「王子」
「エリザータ!」
2人の笑顔がランディレイの自室にて咲く。しかし、エリザータの顔はすぐ引き締まる。
「王子、今日はお別れを言いに来ましたの」
「そんな、エリザータ」
急に弱々しくなるランディレイの声。再びエリザータは微笑み、こう言った。
「貴方は、ミルーネさんと会えるようになった。もう、さびしくないでしょう?」
「そ、そうだけど、彼女と一度だけ電話出来て幸せだったけど、君との時間も幸せで、手離したくないよ」
エリザータは首を横に振る。
「お声だけは聞けたんですね?それはよかった。でも、きっと、王子はミルーネさんの顔を見たら、その私へのお気持ちはなくなるでしょう」
「そうかな?」
「ええ、そうですわ!だって、お気づきかどうかわかりませんが、ミルーネさんの事になると、王子は強くなるんです!」
「えっ」
ランディレイは、今までを振り返る。特に、ミルーネの兄、ミルフォンソを救った時のあの熱い思いを回顧する。
「そうだね。そうだった」
「そうでしょう?それに、ミルーネさんと会えないさびしさがなければ、王子は私に目もくれなかったと思っています」
エリザータとランディレイの視線は絡み合う。エリザータは笑顔でこう言った。
「そのミルーネさん、もうすぐ退院ですって。これから、沢山会えます」
「ミルーネ、会いたい」
「ほら、ね?」
「ごめん」
「謝らないでください、王子。謝らなければならないのは、私ですわ。実は、初めてお会いした時、私、酔ってはいませんでしたの。王子になんとか接触したくて嘘をついていたんです」
「嘘、だったのかい!」
「ええ」
「僕、騙されていたんだね?」
「騙して申し訳ありません」
エリザータは頭を下げる。ランディレイは首を横に振る。
「許すよ。そのおかげで僕はこうして生きてこられたから。わかった、エリザータからもらったさびしくない時間の思い出と共に、ミルーネと幸せになる。約束するよ」
「まあ!心強いお言葉!私、嬉しいですわ!!」
「エリザータ、今までありがとう」
「こちらこそ、王子」
ランディレイは、少し躊躇しつつもこう言った。
「最後に抱きしめさせてくれないかい?」
「はい、喜んで」
エリザータとランディレイの最後の抱擁の光景が広がった。その後、エリザータは王宮を後にする。
「王子、さようなら。絶対に、幸せになってくださいね」
エリザータは別れの呟きを1人で響かせた。
その頃、アルヴェードは、ミルーネの病室に入って行った。入るなりミルーネに抱きつかれた。
「おお!どうされました?」
「アルヴェードさん、アルヴェードさん!」
必死にミルーネはアルヴェードにしがみつく。返答が返らない事から、しばらくそれに身を任せるアルヴェード。そうしていると、ミルーネは呟くように言った。
「王子から、電話がありました」
「お話出来たんですね?よかった」
「王子の声を聞いたらとても幸せで幸せで、心が熱くなりました」
「その話を聞いたら、私も幸せになりますね。いい話をありがとうございます」
ミルーネは、アルヴェードを見上げ今にも泣きそうな目でこう訴えた。
「私の心が、王子に戻っていってます!どうしたらいいのかわかりません!」
「それは、いい事ですよ?」
「私、こんなに良くしてくださったアルヴェードさんに恋人として恩返し出来ていません。なのに、なのに、王子に心が戻っていく私がいて、自分が、嫌になりそうです!」
「ミルーネさん、どうかご自分を嫌悪しないでください。私は、何かを貴女にしてもらいたかったから愛したのではありません」
「でもっ」
アルヴェードは、苦笑いした。そして、「乱暴な事はしたくないのだが」と心の中で言いつつミルーネに突然のキスをする。そして、断りもなしにミルーネの服の中に手を差し入れ、直に背中を撫でた。ミルーネは、驚きアルヴェードを軽く突き離す。
「ごっごめんなさい!」
アルヴェードは、微笑む。
「恩返し、といったら、この先を望む、という手もありますが、ミルーネさんは、できますか?」
「で、できません。ご、ごめんなさい」
「それでいい。それでいいんです。『こういう事』は、王子と愉しまれてください」
「アルヴェードさん」
ミルーネは下を向く。アルヴェードは一呼吸置き、ミルーネにこう声をかけた。
「という具合ですから、私たちの別れの時と判断します」
「ごめんなさい」
「もう、謝らないでください。私も潮時と思っていましたから。『別れ』というさびしい話題ですが、ミルーネさんと考えが一致して、感動している自分もいます」
「そ、そう言ってもらえると、心が楽になります」
アルヴェードは、遠くを見つめて言った。
「ミルーネさん、貴女はいずれ国の母となる方だ。その時にでも、いち国民の私にその慈悲を賜ることはできませんか?それが私への恩返しと考えられませんか?」
ミルーネの目が、ゆっくり決意の色に染まっていく。
「そうですね。確かにそうです。私、そのために強くなります」
「なんと!心強いお言葉!私は嬉しいです!!」
ミルーネは、アルヴェードを見つめながら告げた。
「アルヴェードさん、今まで、ありがとうございました」
「私こそ、ミルーネさんには感謝しています。幸せをありがとうございました」
そして、2人はどちらからともなく最後の抱擁を果たした。その後、アルヴェードは病院を後にする。
「ミルーネ、幸せにな」




