４０甘：帰国と発覚の序章
それから、数日後。この日、ベルカイザ号が早期帰国を果たすとの報せが関係者に伝わった。エリザータは、ミルフォンソの事が心配ではあったが、いても立ってもいられず、使用人にミルフォンソを任せ、港へ飛び出して行った。
「アルヴェード、アルヴェード！アルヴェード！！」
移動中、エリザータは呟きが止まらなかった。そして、港へ着くと、遠くにベルカイザ号の影が。それを見て、早くもエリザータの目に涙の気配が。
「ベルカイザ号っ、早く着岸してっ」
その時は来た。ベルカイザ号は、堂々と着岸。しばらくの静けさの後、次々と乗客が船を降りていく。乗客の家族なども大挙していて、無事の再会に各々喜んでいた。エリザータは、それを傍目に関係者であるアルヴェードが船を降りるのは、最後だろうと思った。もどかしい時間がエリザータに訪れる。
「アルヴェード」
そう焦燥の呟きをエリザータが響かせたその時、アルヴェードが姿を現した。エリザータは声を大にして夫の名を呼んだ。
「アルヴェードっ！！」
そして、エリザータは人波をかき分け、アルヴェードの元へと走る。アルヴェードも妻の姿を認め、引き締まっていた表情がわずかに緩む。
「エリザータ」
そのアルヴェードの呟きが消えた頃、エリザータが辿り着く。そして、アルヴェードはエリザータに抱きしめられた。
「アルヴェードっ！無事でっ、無事でよかったわっ！！」
エリザータの涙は、遂にその頬を伝う。アルヴェードは、エリザータを抱きしめ返し、こう返した。
「おかげさまでな。ただいま、エリザータ」
「おかえりなさいっ。アルヴェードっ。」
止めどなく流れるエリザータの涙。アルヴェードはそれに喜びを感じていたが、次第に疑問が頭の中を支配した。そして、ひととおり妻に涙を流させた後、尋ねた。
「色々、大変だったが、何故そこまで泣くんだ？」
「だって！ベルカイザ号は、レトに拿捕されてたんでしょう？貴方の身に何かあったらって、ずっと、ずっと、心配してたのよ？それを何よ？泣いちゃ悪いの？」
「ん？拿捕？あ、いや、その、泣いてくれるのは、嬉しいが、ベルカイザ号が拿捕？そんな扱いは、レトからは受けてはいなかったが？」
「えっ」
戸惑いの表情のエリザータに、アルヴェードは極めて冷静に言った。
「説明をしなければな。だが、今は止めておこう。話は長くなる」
「そうなの」
「ああ、まあ、改めてただいま、エリザータ。熱烈な出迎え、本当に嬉しかったぞ」
「そう。改めて、おかえりなさい、アルヴェード」
そして、人混みに紛れ夫婦は久しぶりのキスを交わした。
それから、アルヴェードは帰宅を果たす。使用人たちもアルヴェードの無事に沸き立った。その中に、ミルフォンソの姿を見たアルヴェードは驚いた。
「み、ミルフォンソさん！」
「アルヴェードさん」
エリザータは、２人の間に立ち言った。
「王子と私で王宮から救い出したのよ」
「そうだったのか」
「感謝、しています」
「いや、王宮を抜け出せてよかったですね？ミルフォンソさん」
夫婦２人の積もる話はあった。しかし、国などからの事情聴取がアルヴェードには待っていて、夜になるかと言うタイミングで呼び出しの電話が鳴った。故に、再び夫婦は離れる事となった。
「こんな遅くに呼び出さなくてもね？」
エリザータがわずかにむくれると、アルヴェードは返した。
「仕方ない。行ってくる」
エリザータの表情は、かなしげな物に早変わり。アルヴェードは、そんなエリザータを包み込む。
「なに、今の俺は国の中にいる。そう言った意味では、今までよりはお前の傍に俺はいるさ。王宮には、多少の不信感はあるが、今度も必ず帰る」
「そう言ってくれると、安心するわ。疲れていると思うけど、頑張って。いってらっしゃい」
「ああ」
そして、アルヴェードは王宮へと行った。
