39甘:逃亡者との
ミルフォンソは、とりあえずエリザータ宅に連れて行かれた。照明に照らされたミルフォンソの髪はぼさぼさ、髭は以前見た無造作さが更に増していた。エリザータは、かなしげな顔をしつつ使用人に言った。
「夜遅くに悪いんだけど、お風呂を用意してくれないかしら?このお客様に入ってもらいたいのよ」
使用人は、それに従ってくれた。ミルフォンソは恐縮した様子で言った。
「そんな、僕なんか放り出していいのに」
「何をそんなに謙遜しているんですか?聞き及んだ事実が正しければ、貴方は、元王族の末裔なのでしょう?」
「確かにそうかもしれませんが、それでも現在は、一般の家なので。このような豪華なお宅にいていいのかと」
「いいんですよ。家人の私が許したのだから」
そんなやり取りをしていると、使用人から風呂の準備が整ったという知らせが来た。エリザータはそれを受け、ミルフォンソに優しく言う。
「どうぞ、捕らわれていた時の疲れを、癒して来てください」
「ありがとうございます。お言葉に甘えて」
ミルフォンソは、使用人に案内され、風呂へと入って行った。
そして、しばらくすると、バスローブに包まれたミルフォンソが来た。
「あら、綺麗になりましたね?」
エリザータがそう言うと、ミルフォンソは改めて礼を言った。
「本当にありがとうございました。とても、気持ちいい時間でした」
「それは、よかったです」
エリザータは柔らかな顔で返し、こう続けた。
「今夜は遅いから休みましょう。そして、日が昇ったら、妹さんのお見舞いにいきましょう?」
「何から何まで、ありがとうございます」
そして、日付が変わってはいたが、エリザータは自室にて、ミルフォンソは客室にて就寝した。
日が昇る。少し遅めにエリザータは目を覚ました。
「寝坊しちゃったわね!ごめんなさい!!」
エリザータは、使用人にそう謝罪しながら1日を始めた。しかし、ミルフォンソが起きてこない。エリザータは心配し、男性の使用人に様子を見に行くよう言った。すると、ミルフォンソはぐったりしていた。その報告を受けたエリザータは、客室へ。
「ミルフォンソさん?」
エリザータの呼びかけにもミルフォンソは薄い反応しかしなかった。エリザータは、家庭医を急遽呼ぶ。家庭医の女性は、ミルフォンソを診てこう言った。
「極度の疲労状態で、衰弱しています。とりあえず、こちらで点滴をしましょう。それでもよくならなかったら、それ相応の病院に搬送します」
「わかったわ。お願い」
そして、ミルフォンソに点滴が施された。幸い、病院に搬送する程の状況からは脱し、しばらく安静にしていれば良くなるだろうとの判断だった。
「よかった。ありがとう。ご苦労様」
エリザータは、家庭医をそんな言葉で見送った。そして、ミルフォンソの元へと行く。
「疲れが、一気に出てしまったんですね?」
「すみません」
「いいえ。謝ることはありませんよ。ゆっくりとここでおやすみください。けれど、お見舞いは、しばらく出来ませんね?」
「はい。けれど、お力をいただいて後日、見舞いに行きます」
エリザータは、柔らかく頷いた。
一方、王宮ではミルフォンソがいないことに気づき、一部の人員は泡を食っていた。ギャスバー以下、王宮に入っているエウル一族の者たちは、青い顔をし、居眠りしていた見張りの者を叱責していた。そこにランディレイが通りかかる。ギャスバーは、それに気づき声を上げた。
「王子!人質、ミルフォンソの事を何かご存知ですか?」
ランディレイは、一瞬の躊躇の後、言った。
「僕が、『単独で』逃がしたよ」
「何という事を!!」
ギャスバーは、冷静さを欠き、あろうことか王子の胸倉を掴む。そして、こう喚いた。
「王子!以前、『王宮の側に立ち続けなければならない立場』と自らを称したではないですか!!何故っ!!」
「あれは嘘だよ」
「嘘と?」
ランディレイは冷たい目をしてギャスバーを睨む。
「離したまえ。君は王族、エウル一族の当主で王の側近ではあるけれど、王ではない。この国を統治しているのは、僕の父、マーディル。そして、この先この国を背負うのは、僕だよ?その僕に乱暴するのかい?」
「くうぅ。し、失礼しました」
ギャスバーはランディレイを解放。ランディレイは、先程の問いに返答した。
「あの時は、嘘をつかなければいけない雰囲気だった。それも、君がその雰囲気を作ったように思えてならないよ」
返す言葉が見当たらなくなったギャスバーは、身を翻し、こう言った。
「ぬう。なら、ミルフォンソを捜索しよう」
ランディレイは、複雑な笑みを浮かべ言った。
「話を逸らすのかい。まぁ、いいけれど、ミルフォンソ捜索は、禁ずるよ。これは王子命令だ。もし、従わないのであれば、父に掛け合って王の命令に変更しようか?」
「くっ!!わかりました。ミルフォンソの件は、諦めます」
ランディレイは、それを聞き届けると、その場を立ち去った。そして、居眠りしていた見張りに小声で声をかけた。
「君には感謝するよ。夜中、居眠りしてくれてさ」




