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第十九話:大善を成すために、小悪を犯す

「これで……よかったんすよね」

「ええ、もちろん」


 栗原は、胡坐の上に載せたノートパソコンを見た。


 そこには、鼻筋の通った、目鼻立ちのくっきりとした女性の姿が映っている。


 画面の女性——神宮司乃那そのものの外観をしたAGI(汎用人工知能)であるダアトは、生きている人間のように、自然な瞬きをした。


「檜山さんも、よくやってくれました」


 ダアトは言った。


「いえ。大したことではないですよ。部下の面倒を見るのは、上司の役目ですから」


 檜山警部はだらりと、サイレンサー付きの拳銃を下ろした。


「では、栗原さん。檜山さん。次の作戦行動に移って下さい。榎田さんの処置は、別の人間を向かわせます」

「了解」


 栗原と、檜山警部の声が重なった。それきり、部屋は静かになった。


「さあ。早く行こうか。皆藤も、とっくに出て行ったよ」


 檜山警部は、手元の鞄に拳銃をしまい、踵を返した。


 部屋に嗚咽が響いた。檜山警部が栗原の方を振り向いた。


「栗原君、どうしたの。さっきの威勢はどこいっちゃったのさ」

「警部は、なにも、思わないんすか。だって、エノさんは、俺ら、ずっと一緒に……」


 檜山警部は、溜息を吐いた。


「気持ちは分かるよ。でも、仕方ないじゃないか。大悪を裁くために小悪を見逃す。

 それが僕らでしょう? 

 じゃあ、大きな善を成すために、小悪を犯すことだって変わらないじゃない。

 エリートにはエリートにふさわしい世界が必要だって、君も思ったんだろう?」


 温雅な顔で、檜山警部は諭すように言った。


「割り切れるもんですか。そんな、簡単に……」

「そうやって生きて来たんだ。職業病だね」


 檜山警部は、部屋を出ていった。

 どこからか、パトカーのサイレンの音が聞こえる。


 栗原は、一人になった部屋で、すぐそばに倒れている榎田の亡骸を見つめていた。


 零れた血液が床を伝い、栗原の服に至った。


 染みが広がり、朱が服を蹂躙していく様を、栗原は見つめていた。

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