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不定形な報酬

……………………


 ──不定形な報酬



 山林を薙ぎ払い、魔族を薙ぎ払い、全てを吸収しながら突撃する“溶解のブロック”。その脅威を前に王都スヴァリンはお終いかのように思われていた。


「召喚“義学”と“義賢”」


 ローラがそう詠唱すると2体の巨大な“鬼”が姿を見せた。


 ひとりは斧を手にし、ひとりは水瓶を手にしている。


「あ、あれって魔族ですか……?」


「ううん。ボクの式神。名前は借り物だけれどねー」


 義学と義賢。前鬼と後鬼とも呼ばれる役小角が従えていたと言われる式神だ。ローラのそれはオリジナルのものではないが、それを真似てローラが自身の魔力で作ったものである。式神というのも真似事であり、召喚獣というのが正しいだろう。


「ふはははっ! このような危機に我らを召喚なされるとは相変わらず主殿も性格が悪くていらっしゃる。あのような不定形な怪物に我らの武器は通じぬでしょう」


「ボクの蝙蝠の牙もね。蝙蝠で倒せない以上は君らに頼るしかないよ」


 義学が高笑いをしながら告げるのに、ローラがダウナーにそう告げて返した。


「確かにあれには主殿の蝙蝠の牙は通じませぬね。あれを干からびさせようと思うのならば蝙蝠がいくらあってもたりませんんわ」


 義賢がそう告げて小さく笑う。


「それじゃあ、君たちで阻止して見せて。いざとなれば最終手段も使うよ」


「了解いたした!」


 義学はそう告げると斧を持って城壁からスライム──“溶解のブロック”に向けて飛び降りた。彼は同時に斧を振り下ろし、そこから生じた亀裂が“溶解のブロック”を飲み込まんと地中深くまで穴を穿つ。


「テケリ・リ……。テケリ・リ……」


 “溶解のブロック”はその穴に吸い込まれつつも体勢を整えなおし、再び城門に向けて突撃を続ける。だが、再び義学が斧によってその体が切り裂かれ、その突進が阻止される。いくら不定形の生き物でも、その斬撃はその体を引き裂いた。


「流れよ」


 そして、義賢の方が水瓶から膨大な水を流して城門に近づこうした“溶解のブロック”が流された。溶解のブロックはその膨大な水に対抗するべく、水を吸収しようとしたが、あまりに膨大な水を前に押し流されるしかなかった。


「ど、どこに流れていくんです?」


「流れないよ」


 クリスが尋ねるのに、ローラがそう返した。


「そうよ! まだまだ勝負はこれからよ!」


「そう簡単には倒されてくれないでしょうね」


 “溶解のブロックは”全ての水を吸収しきってしまった。数十トンはある水を吸収し、再び城門に向けての突撃を始めた。


「はああっ!」


 義学が斧を振るって城門にしがみつこうとする“溶解のブロック”の触手を断ち切る。切断面からは先ほど吸収した膨大な水が溢れ出し、“溶解のブロック”の組織を流し出す。それを止めようと“溶解のブロック”は傷を塞ぐ。


「種よ」


 そんな“溶解のブロック”に向けて義賢が種を撒く。


 その撒き散らされた種は急速に成長を始めて“溶解のブロック”の体を蝕み始める。根が“溶解のブロック”の体に伸びていき、その栄養素を急速に吸収していく。


「それだけの水分と栄養があれば──」


「種はよく育つでしょうね」


 ローラがそう告げ、義賢が続ける。


 種から育つのは稲。稲が“溶解のブロック”の体を蝕んでいき、その動きを封じ込め始めた。“溶解のブロック”の不定形な肉体が植物によって絡み取られ、その体の水分も急速に失われつつあった。その巨体が大地の一部となり、吸い込まれていく。


「これでトドメよっ!」


 義学が“溶解のブロック”のその不定形な体の中で、唯一不変なもの──その核に向けて、斧を振り下ろし、叩き割った。


「テケリ・リ……。テケリ・リ……」


 “溶解のブロック”はそう告げると、体が急速に萎れていき、大地の一部となった。


「片付いたね」


「か、片付きましたね」


 “溶解のブロック”は倒れ、魔王軍は壊滅した。


 “溶解のブロック”が倒れた場所は田畑となり、これまで“溶解のブロック”が吸収し、分解してきた植物や魔族の死体を栄養素として、稲が茂っていた。それはこれまで“溶解のブロック”が食らい尽くしてきた山林を埋め尽くしている。


「でも、ローラさんって何もしてなくないですか?」


「……義学と義賢はボクの式神だよ? 彼らの功績はボクの功績。文句言うなら、ここでリリースするけどそれでいい?」


「冗談です! 冗談です! 全部ローラさんのおかげです!」


 ローラがちょっと眉を歪めて告げるのに、クリスが慌ててそう告げる。


「分かればいいよ」


 ローラはそう告げるとパタパタと蝙蝠の羽根を羽ばたかせて、王城の方に飛行していった。もはや戦の音が響かず、王都スヴァリンは兵士たちの歓声だけが響いている。


……………………


……………………


「おお。ありがとうございます、勇者様」


 ローラは王城でマクシミリアン2世に出迎えられて、歓迎された。


「勝ったよ。約束通り」


 マクシミリアン2世も将軍たちもこの状況は絶望的だと考えていたのに、ローラは状況をひっくり返した。魔王軍25万の兵力は壊滅し、魔王軍十三将軍のひとりである“溶解のブロック”も完膚なきまでに打ち倒された。


 魔王軍の脅威は少なくとも今の王都スヴァリンには存在せず、王都スヴァリンは今戦勝祝いのムードの中にあった。少なくとも魔王軍は数年がかりで準備した王都スヴァリン攻略作戦を放棄しなくなっている。


「で、報酬の方はもらえるんだよね」


「ええ、ええ。ローラ様のことはこれから国賓として歓待させていただきます。それからあなたに副王の地位を授けたいと思います」


「副王?」


 マクシミリアン2世が告げるのに大臣たちはぎょっとし、ローラは首を傾げた。


「へ、陛下。落ち着かれてください。確かにローラ様は大変な功績を上げられましたが、それでも副王の地位を授けるというのは……」


「だが、このフリッグニア王国を救ってくれた恩人だ。それにもうこの国に王位継承者はいないのだ……。ひとりとして王位を継承するべき人間はいないのだ……」


 ここでローラのセンサーが急速に面倒くさい空気を感じ取り始めていた。


 このニート吸血鬼は面倒ごとの気配を察する感覚に優れている。


「これまで通りふかふかのベッドと5つの枕。それから食事を提供してくれたら文句は言わないよ。それから洋服もね。ああ。非常食君の所有権も忘れないでね」


「いつから僕はローラさんの所有物になったんですか?」


 どうにも雲行きが怪しいと感じ始めたローラが告げるのに、クリスが突っ込んだ。


「まあまあいいではないですか、ローラさん」


「……フォーラント」


 不意に背後から声が響いてローラが振り返るとそこににこやかな笑みを浮かべたフォーラントが立っていた。いつものようにガーネット色の瞳を輝かせた大悪魔が、にこにことローラの方を見つめていた。


 この大悪魔が笑っているときは碌でもないことであることの証明だ。


「ボク、帰る」


「まあまあ、そう急がれず。話を聞きましょうよ。いいことかもしれませんよ」


「そんなはずがない。君が笑ってるのが一番の証拠」


 王座の間から出ていこうとしたローラをフォーラントが引き留める。


「そこの方は……?」


「フォーラントと申します。以後よろしく。それで副王の話でしたよね?」


 唐突に現れたフォーラントをマクシミリアン2世が怪訝そうに見つめるのに、フォーラントがどうぞどうぞと言うように話を促した。


「そうです、そうです。ローラ様には是非とも副王の地位を受けていただきたい」


「パス」


「パ、パス……」


 ローラは即答した。


「そもそも副王って何さ? 王様の代わりでもやるの?」


「それに近いですな。国王に次ぐ地位として、このフリッグニア王国を統治するお手伝いをしていただきたいのです。このフリッグニア王国は王都スヴァリンこそ魔王軍の脅威から救われましたものの、国土は未だ魔王軍に侵略されたまま。ここはひとつローラ様のお力をお借りして、統治のための礎を築きたいと──」


「パス」


「パ、パス……」


 嫌な予感がしたのでローラは即答した。


「ローラ。アベルはノルニルスタン王国という国を掌握しましたよ。セラフィーネも北部都市同盟という国家の盟主になりましたよ」


「む」


 ローラはこう見えて負けず嫌いである。


 だからこそ、アベルの誘いである世界最強決定戦にも参加したのであり、アベルとセラフィーネのこともいい友人だと思いながらも、いずれは打ち倒さなければならない敵だと認識している。ゲームでも勝つまで粘りに粘ってプレイするのでネットでは『負けず嫌い真祖』などと言われていた。


 そんなローラが今のアベルやセラフィーネの状況を聞いて何も思わないわけがない。


「じゃあ、やるよ。その副王っての。ボクも王様の仲間入りだね」


「おお! さようですか! 良かった! 本当に良かった!」


 ローラが気軽に告げるのにマクシミリアン2世は感涙の涙で跪いた。


「でも、今日、たくさん戦ったから暫くは休む。行こう、非常食君」


「ロ、ローラ閣下。まだ聞くべきお話があるんじゃ……」


「また今度。それからこれまで通りローラさんでいいよ」


 クリスが告げるのにローラは彼の手を掴んで自室に向かった。


「なかなか楽しそうなゲームの様相になってきたじゃないですか」


 ローラの様子を見て、フォーラントはクスリと笑った。


……………………

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