第9話「料理って凄い!2」
第9話「料理って凄い!2」
「テッラさん、わたしに料理を教えてくれませんか?」
いきなりのアモルのその発言に、セルウァーは大いに驚いてしまう。
アモルがこんなにも力強くお願い事を言うのは初めてじゃないだろうか? いつもはもっと遠慮がちな物言いになって、こっちが促してやっとお願い事を言うという流れが常であった。なので、こうしていきなりはっきりと自分の意見を言うアモルの姿が、セルウァーにとっては、とっても新鮮に映ったのだ。
三人の驚きをよそに、アモルは言葉を続けた。
「いきなり会った人にこんなことを言われるなんて、迷惑でしかないと思ってます。だけど、わたしも料理が出来るようになりたいんです!」
アモルの蒼色の双眸が、まっすぐテッラのことを見ている。
テッラはいきなりのアモルの発言に驚いてしまうが、少し考える仕草を見せた。
セルウァーとドミナの二人は、そんな二人の様子を黙って眺めていた。
テッラはしばらくその仕草のまま動かなかったが、やがて口を開いた。
「なら、アモル。ここで働かないか?」
「えっ⁉」
「実はなうちは今まさに従業員を募集中なんだよ。ここで働きながらならその合い間合い間で料理を教えてやる。もちろん給金も支払う。どうだろうか?」
アモルはテッラのその申し出に、アモルは心底驚いてしまう。アモル自身、料理だって教えてもらえるか微妙なお願いだったのに、テッラが返してきた言葉は、アモルの予想を大いに超えるものだった。
「わたしがここで働いても良いんですか?」
「ああ、出来ればお願いしたいと思ってる」
「でも、わたしがここで働いたら、このお店に悪い評判がついてしまいますよ」
「それはアモルが奴隷だったからか」
テッラの言葉に、アモルはこくりと頷いた。
そうだ。わたしは奴隷だったんだ。そんなわたしがこんな所にいたら、テッラ達に大きな迷惑が掛かってしまう。だから、わたしはここで働くべきじゃないんだ。
アモルが自分の思考に閉じこもり俯いていると、テッラに優しく名前を呼ばれた。
「アモル、この街にそんなことを気にする奴なんていないさ。仮にいたとしてもそんな奴らは、この街には馴染めない。でなければ、この街で多種多様な人が暮らすなんて無理だろ? それにアモルは可愛いんだ。うちの看板娘になってくれれば、うちとしても売り上げが上がって有り難いんだがな」
「わたしってかわいいんですか?」
アモルから出た言葉は何とも気の抜けた言葉だった。
「ああ、可愛いだろな。そこら辺にいる娘よりはよっぽど。セルウァーもそうは思わないか?」
いきなり話を振られたセルウァーは、驚きの声を上げたがさも当然の様に答えた。
「当たり前だ。アモルはどの子よりもかわいいよ」
セルウァーの言葉を聞いた瞬間、アモルは瞬間沸騰の様に顔を赤く染めた。
アモルはアモルで、自身の感情の起伏に大いに戸惑ってしまう。
テッラにかわいいと言われた時は何も感じなかったのに、セルウァーにかわいいと言われた時は、嬉しいと思ってしまうし、心臓が高鳴り胸に甘い疼きを覚えた。
「おほん、セルウァーのアモル馬鹿は放っておくとして、それでアモル。うちで働いてくれるか?」
テッラの声で我に返ったアモルは、深呼吸をしてから口を開いた。
「こんなわたしで良ければ、ここで働かせてください」
アモルの言葉にテッラは笑顔で頷いた。
ここ【ウルグス・ウィーヌム】に看板娘が誕生したのだった。
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アモルが働くのは明日の朝からということになった。今日は早めに休んで旅の疲れを取ってくれということになったのだ。
ご飯を食べ終え湯浴みも終えたセルウァーたちは、テッラ達が手入れしてくれていた部屋に向かった。
その部屋は宿になっている二階のさらに上にある三階にあった。元々その部屋は物置として使われていた部屋だったのだが、テッラの好意でその場所を格安価格で使わせてもらっているのだ。その契約は未だに有効であり、この街に帰ってくればそこが居場所だとでも言うように、こうして迎え入れてくれる酒場夫婦には、セルウァーは感謝しかなかった。
一ヶ月ぶりに帰って来た部屋だと言うのに、部屋の中には汚れもなければましてや埃っぽさもまったくと言っていいほどになかった。それはテッラやドミナがしっかりとこの部屋を掃除して管理してくれていたことを意味していた。
セルウァーは心の中で、二人にお礼を述べながら荷物をいつもの位置に置いた。
セルウァーが使っている部屋はワンルームだった。広さは狭くもなく広くもない至って普通の部屋だった。
セルウァーの性格上、色々と物を置くことを好んでいなかった。その為、ワンルームでも窮屈に感じずに生活できていたのだ。
そして、休めると思ったところで一つの問題が残っていることに気が付いた。
これからこのワンルームで、アモルと一緒に暮らすことになると言うことだ。それはさすがにまずくないかとセルウァーは思ってしまう。
宿に泊まっていた時は、意識はしていたが考えないようにはしていたが、ここまで来たらそれは無理だとセルウァーは思ってしまう。
十八年間生きてきたセルウァーだが、こうして女の子と一緒に暮らしたことなど一度もない。それに恋人だって出来たことがないのだ。これは十八歳の青年には色々と刺激が強すぎる。
今からでもテッラに頼んで一部屋借りようかな。
セルウァーは本気でそんなことを考えてしまう。
一方で、セルウァーの部屋に入ったアモルは、落ち着きなくきょろきょろと辺りを見渡していた。
「アモル? どうしたんだ、そんなにきょろきょろして?」
セルウァーの言葉に、アモルは一度はっとしたような表情を浮かべると、慌てて首を横に振った。
「いえ、何でもありません。ただ、男の人の部屋なんて入ったのが初めてでしたので、少し緊張しちゃったんです」
そう言ったアモルは、確かに緊張しているようで動きがいつもよりガチガチになっている気がした。
もしかして、アモルも緊張しているのか?
そう考えると、緊張していた気持ちが、少しだけ落ち着いた気がした。
「改めて言うのもあれだけど、これから俺とアモルはここで生活することになるんだけど、アモル的にはそれで大丈夫か?」
さすがに年頃の男女が一つ屋根の下で暮らすのは、まずいと今更ながら思ったのと、アモルの意見を聞かぬままここに連れて来てしまったからだった。それに宿では当たり前のように相部屋をしていたため、その時の感覚のままセルウァーはいたため、こうしてあまりにも自然にアモルのことを自分の部屋へと連れて来てしまったのだが。
さすがに無神経だったなっとセルウァーは反省して、アモルのそう声をかけたのだが、アモルは不思議そうにこちらを眺めているだけだった。そして、ゆっくりとアモルが口を開きかけた瞬間、部屋の扉をものすごい音でノックする音が聞こえてくる。
あんな感じでノックする人間を、セルウァーは一人しか知らなかった。
「はいはい、今出るからそのやかましいノックを止めれくれ! アモルがびっくりしてるから!」
セルウァーは何とかため息を飲み込むと、その扉を開けた。そして、その扉の前には思った通りの人物が立っていた。何を隠そう、この酒場の店主の妻であるドミナだった。
そして、これまた思った通りの意地悪そうな笑顔を顔に浮かべて、目の前に立っていた。
「あ~、ドミナ。ドミナが何を言いたいのかはなんとなく察してるから、みなまで言わないでくれ」
セルウァーはこれ以上の厄介ことを引き起こしたくなくて、ドミナにそう言ったのだが、しかし、この女店主と来たら、こっちの事情も分かっていてわざと厄介を引き起こすようなことを口にするのだ。
「いやぁ~、年頃の男女が一つ屋根の下で暮らすって聞いたら、黙っていられるわけないでしょ。この部屋で一体どんな間違えが起きてるのかこの目で確かめないと!」
嬉々としてそんなことを話しているドミナに、セルウァーは軽くめまいを覚えてしまう。
「んな、間違えが起こってたまるか!」
「ええ~、アモルちゃんあんなに可愛いのに! 間違えが起こらないとかあんたはヘタレか!」
「そう言う問題じゃない!」
とにかく、アモルに会話を聞かれる前に、ドミナをテッラの所に追い返そうと思ったが、時はすでに遅しの状況だった。
「あら、アモルちゃんじゃない」
ドミナの言葉に確かに後ろにはアモルが立っていた。顔を真っ赤に染めながら。
「あっアモル⁉ 今のこのドミナの話は全然これぽっちも気にしなくて大丈夫だからな!」
セルウァーの言葉に、アモルは我に返ったかのように慌てて「はっはい!」と頷いていた。
これで一安心かとセルウァーは思っていたのだが、話はここで終わらなかったのだ。
何故なら、
「セルウァーさんは、わたしと間違えを起こしたいんですか?」
とアモルがもじもじしながら聞いてきたからだった。
そして、事を起こしたドミナはドミナで、「あらまあ、積極的」と呟いている。
「いやいや、思ってないから! 今のはドミナの悪ふざけだから!」
セルウァーは良くも悪くも真っ直ぐだった。とにかくアモルに嫌われないように言葉を慌てて言葉を絞り出したり過ぎなかったのだ。しかし、それが裏目に出ることも時にはあるのだ。そして、今回はその裏目だった。
「そう……ですか……」
どうしてアモルは悲しそうなんだ?
セルウァーはアモルのそんな姿を見て、とても不思議に思えてしまう。ドミナはドミナでそんなちぐはぐな二人を見て、笑いを堪えるので必死だった。
「それはそうと」
これではいつまで経っても話が進まないと思ったドミナが、そう言葉を切り出した。自分がこの状況を作り出したのを華麗に棚に上げての発言だった。
「あたしがここに来たのは、アモルちゃんに用があったからなのよ」
「アモルに?」
セルウァーが疑問に思っていると、ドミナはアモルに一つの服を渡した。
「これは何ですか?」
「それはこのお店の制服よ。明日から働いてもらうんだから、これがないと働けないでしょ」
「だったら、最初からそれを出してくれよ。どうしてこんなに引っ掻き回したんだよ」
セルウァーは疲れたため息を溢してしまう。
「ありがとうございます! わたし明日精一杯頑張ります!」
そのアモルの笑顔を見て、セルウァーとドミナは顔を見合わせて笑っていた。
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