第19話「洞窟の真実」
第19話「洞窟の真実」
その指定された洞窟は【ターソン】から見て南東の方面に位置している。その洞窟は【階層の洞窟】と呼ばれていて、地下五階まで潜れるダンジョンとなっていた。最初に発見された時は、冒険者や傭兵などで溢れかえったものだった。しかし――
「今は他の所にダンジョンが発見されて、それ以来まったく冒険者も傭兵も寄り付かない洞窟になってしまっている」
「それって、粗方この中が探索し尽くされたのが理由だよな」
「君の言う通り。多くの人が訪れて、中は探索され過ぎてなんの旨みもなくなってしまったんだよ。だからこそ、魔獣が住み着いてしまったと考えることも出来るかもしれないけど、でも、あれは明らかに大きく出過ぎだよ」
ティアの言葉にセルウァーは「あはは」と笑ってしまう。
セルウァーとティアの二人は、その件の洞窟である【階層の洞窟】へと向かっていた。二人はそこにSS級危険魔獣がいる可能性はないと考えているが、アルザにここに行くように言われてしまった以上、行く以外に選択肢はなかった。
それにこれでアモルが解放されれば安いもんか。
セルウァーはそう思いながら、洞窟に向けて歩いて行った。
その洞窟は【ターソン】から歩いてに二十分ほどの所にあった。
セルウァーとティアは一度頷き合うと、その洞窟に入って行った。
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二人が洞窟に入ってからすでに四十分ほどが経過していた。
セルウァーとティアは今は第三階層目を探索している最中だった。
「なぁ、君はこの洞窟の違和感に気が付いているかい?」
探索している最中に、ティアがそう問いかけてくる。
「ああ、魔獣の数が少なすぎる。それに妙に静かだ」
セルウァーの言葉通り、この洞窟内はあまりにも静かすぎるのだ。この洞窟に入ってから、魔獣との遭遇は二回っきりだった。そして、今も洞窟内を歩いているが、洞窟内に響いている音は、二人の足音だけだった。
「君の言う通りだよ。普通、こんな人が寄り付かなくなった場所は魔獣が溢れているのが当たり前なんだよ。そのことは君も良く知ってるだろ」
ティアの言葉に、セルウァーは肯定を示すために頷いた。
確かにティアの言う通りだった。こう言った所は各地にいくつもある。溢れすぎた魔獣を放置をしていると、街に紛れ込んでくることがあるので、時々だが、ギルドにその魔獣を討伐するクエストが張り出されることがあるのだ。そして、参加した傭兵たちで討伐隊を組んで殲滅していくのだ。
セルウァーも何度かそのクエストに参加したことがあったので、ティアの言いたいことはよく分かった。
「つまり、この洞窟は最近、そのクエストが張り出されて行われたってことか」
「その可能性はあるかもしれない。けど、それでも違和感は拭きれない。だって、どう考えたっておかしい。コルセア商会のトップでもあろう男が、そのことを知らないなんて考えられないんだ。それに、仮にそれを知っていてここに送り出したとするなら、その理由は?」
う~ん、ティアの言ってることは分かる。分かるんだが、それでもその違和感の正体が掴めない。
「とにかく進もう。この違和感の正体を掴むために」
「ええ、そうだね」
セルウァーとティアは警戒しながら進んでいく。
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結局、何事もなく最下層である所の五階に辿りついてしまった。
五階層は広大なフロアとなっている部屋が一つあるだけだった。階段を下りるすぐさまその部屋の入り口が見えてくる形になっている。
「結果、ここまで来たけどSS級危険魔獣どころか、普通の魔獣ですらあまりいない状態だったな」
「そうだな。やはり、何かがおかしい」
「そうだよな。けど、それもここのフロアを調べれば終わりだ。それで何もなければ、あいつを問い質せばいいだけの話だ。早く調べて、【バルジャン】に帰ろうぜ。待たせているアモルが心配だ」
セルウァーが【バルジャン】を離れてすでに十日が過ぎている。さすがに、テッラやドミナがいてくれてはいるが、まだあの街に不慣れのアモルを一人でおいておくのは心配だった。
そして、その心配事がセルウァーに致命的な隙を与えてしまった。
「セルウァーッ!」
ティアの厳しい声が響いた時にはすでに遅かった。
セルウァーがそのフロアの入り口に入った瞬間、入り口の天井に魔法陣が展開し、爆発。そのまま天井から岩を崩落させた。
その崩落の所為で、入り口は完全に塞がれ、そのうえセルウァーとティアは分断されてしまう。
「セルウァー! 大丈夫か!」
ティアはもう一度声を上げた。
「大丈夫だ!」
崩落の先から間違いなくセルウァーの声が聞こえてきて、取りあえずティアは肩を下ろした。
セルウァーはセルウァーで、先ほどの崩落の勢いで数メートル吹き飛ばされたが、何とか受け身を取ったのでダメージは防げたのだが、セルウァーの目の前には絶望的な光景が広がっていた。
何故なら、目の前には見渡す限りの魔獣の群れが唸り声を上げながらこっちを見ていたからだ。その数はざっと見るだけで二百はくだらない。
洞窟の中の魔獣がやたら少なかったのは、これが理由だったのだ。つまり、洞窟内の魔獣はここに集められていたのだ。セルウァーを確実に殺すために。退路は断たれ、目の前には死の海が広がっている。要はアルザはセルウァーを罠にはめたのだ。自身の手は汚さずセルウァーを殺すことが出来るように。
冗談じゃない。
「セルウァー、中は一体どうなってるの?」
後ろからティアの声が聞こえてくる。
「大量の……魔獣の群れだ」
ティアにはそれだけで十分だった。ティアは今の一言で、すべてを察してくれる。
「くそ! あいつ、セルウァーに罠を! ごめん、わたしが罠だって気付いていたら、そんなことにはならなかったのに!」
ティアの声は途中から涙声だった。堪えられなかったのか、言い切った後には嗚咽を漏らしている。
「ティア、泣くのは後だ! 誰か助けを呼んで来てくれないか! さすがに俺一人でこの数相手は無理だ。それに、今崩落をどうこうしたって、こいつらを放置すれば街に甚大な被害を及ぼしてしまう!」
「けど! それだとセルウァーが!」
「俺は死なない! 絶対に帰るってアモルと約束したんだ!」
セルウァーは背中から剣を抜刀すると構えた。
「分かったよ! まったく、死亡フラグみたいなこと言いやがって! 君は絶対にお姉さんが死なせないから、絶対にそれまでは持ち堪えろよ!」
「ああ、任せとけ!」
セルウァー崩落の先にいるであろうティアに力強く返した!
ティアはティアで流れていた涙を拭くと、助けを呼ぶために駆け出した。
待ってろ! 絶対に君を助けてやる。
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セルウァーは一つの足音が遠ざかっていくのを背中で感じていた。
とにかく、ティアを動かすことは出来たか。でも、問題はここからだよな。ああ言ったものの、これ完全に詰みなのでは?
そんな考えが頭を過ってしまうが、そこでアモルの顔を思い出す。アモルと別れた時、アモルは確かに微笑んでくれていた。けど、今思えばどこか無理をしているそんな微笑みだったそんな気がする。
これは死ぬわけにはいかないな。とにかく、囲まれることは避けなきゃいけない。この岩を背にして何とか戦い抜かなければ。
セルウァーは咄嗟に思考を切り替えると、冷静に戦況を分析する。圧倒的にこちらが不利なのは分かっていることだ。だけど、やるしかない。
セルウァーが再び剣を構えるのと同時に、数十体のオオカミ型の魔獣が一斉に飛び掛かってくる。
【汝に命ずる。凍てつく氷よ。大気を凍らせたまえ!】
セルウァーの詠唱と共に、大気に青色の粒子が生まれたかと思うと、それが一気に解放され、今まさに襲いかかって来た数十体の魔獣が一瞬で凍り付いてしまう。
セルウァーは一応魔法が使えた。しかし、セルウァーの体内魔力量はそこまで多くはない。なので、魔法ばかりに頼ってはいられないのが現状だった。
頼んだぞ、ティア。
セルウァーは剣を柄を握り直し、目の前の魔獣たちを見据えた。
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ティアは街中を駆け抜けていた。
洞窟からは魔法道具を使って一気に帰還することが出来た。ゲートと呼ばれる魔法道具は一度だけ、その場と街を繋げることが出来る。そして、一度だけそのゲートを使ってその場に戻ることも出来る。かなりレア度の高いアイテムであるが、この際気にしてはいられなかった。
こうして、街に戻ってくることには苦労はしなかったが、問題はここからだった。ティアは街に戻るとすぐさまこの街の近衛団の詰め所に駆け込んだが、門前払いを受けてしまったのだ。
その後も色々とティアは当たったが、どこでも門前払いを受けてしまった。どこもかしこも、そんなの知らないの一言だけだった。
完全に裏で根回しされている⁉
ここまで足並みを揃えられると、アルザが裏で根回しをしているとしか思えなかった。
どれだけの金を積んだんだ? いや、それよりもそこまでしてセルウァーの奴を殺したいのか? いや、そんなことよりも助けを探さないと!
ティアは街を走って行く。しかし、どこに行っても助けてくれる人は現れなかった。
どこまでも、してくれる! このままだとセルウァーが!
ティアの中に焦りが募っていく。そして、その焦りがティアをさらに追い詰めていく。
一体、どうすれば……
ティアの心の中には諦めの二文字が浮かんでしまうが、セルウァーが今もあの場で戦っていることを思い出し、慌ててその感情を追い払った。
ダメだ。わたしが諦めちゃ! あいつはどんなに絶望的な状況でも諦めてないんだ! だったら、わたしだって諦めちゃいけない!
ティアは溢れそうになっていた涙をごしごしと拭くと、再び走り出した。
誰でもいいからあいつを助けて!
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そして、本編は二十二話で終了予定ですが、その後に後日談を投稿する予定ではありますので、これからもよろしくお願いいたします。