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三十五、緊迫感、皆無。







「へええ。お姫様の窮地に、王子様の登場ってか?こりゃ、格好いいねえ」


 フィロメナとベルトランの遣り取りを見た男が、にたにたと笑いながら斧を肩に乗せ、調子よく上下に振る。


「投降しろ」


「はっ、冗談。投降なんざ、するわけないだろ?こんな、面白いところで」


 地獄からの使者かと疑うほど、低く不気味に言ったベルトランの言葉を嘲笑い、男は楽しそうな空気さえ醸しながら、ベルトランと対峙した。


「そうか。ならば、死ね」


「そう簡単に、くたばるかよ・・ってな!・・それっ」


「皆様、こちらに」


 ベルトランが暗殺者と対峙している間に、体勢を崩していた近衛騎士も行動を起こし、フィロメナ達をより強固な防御の中に入れる。


 しかしそのとき、ベルトランが何か近衛騎士に視線で指示を出した、と見えたフィロメナが、近衛騎士もフィロメナ達と同じ防御のなかに入るのを見て、これが指示だったのかと感心すると同時、ベルトランが、強大な風魔法を暗殺者へと放った。




 うわ。


 風の刃の集団。


 ベルトラン様、凄いというか、最早えぐい。


 そっか。


 このために、近衛騎士もなかに入るよう指示したのね。




「流石、ベルトランといったところか」


「ひとつでも当たったら、大怪我ですね」


 フィロメナが、風の刃の集団などと、語彙力の無さを嘆くような感想を持ったとき、王太子セリオとカルビノ公爵も、呑気らしい声で呟いた。




 ひとつでも、当たったら、か。


 でも、あの男は避け切った。




「あの暗殺者も凄いわ。ベルトランの攻撃を躱し続けるなんて」


「流石、王城に送り込まれるだけのことはある、ということかしら」


 そして、ロレンサ王女とメラニア王女も、そんな風に普段の調子で感想を交わす。




 ええと。


 なんか皆様、呑気すぎない?


 私も、ひとのことは言えないけれど。


 それだけ、ベルトラン様がお強くて、この防御が強いということね。




「ベルトラン。怒っているわねえ」


「はい。怒れる水龍のようです」


 暗殺者が、その斧に炎を纏わせてベルトランへ振り下ろせば、ベルトランは水流を起こしてそれを呑み込む。


 暗殺者が、炎の球を投げつければ、ベルトランは水の盾を使ってそれを消し去る。




 ベルトラン様。


 風と水の魔法が得意でいらっしゃるのですね。




「くっそ!」


 暗殺者と違って、その手に得物が無いにもかかわらず、互角、否、有利と言える立場で闘い続けるベルトランに、思わず見惚れたフィロメナは、暗殺者が真っすぐ自分へと手を伸ばすのを、何か現実ではないものを見るように見た。


「ロブレス侯爵令嬢!」


「フィロメナ!」


 そして、人々の叫びのなか、気づけばフィロメナは暗殺者に囚われ、その首に斧を当てられている。




 え!?


 何が、あったの!?


 まさか、防御が破られて!?




「貴様・・・闇使(やみつか)いか」


「そういうこと。残念だったな、勇敢なる騎士さんよ。ああ、このお嬢様・・お姫様の王子様だったか。くくっ。お姫様人質に取られるなんて、間抜け。でも、無視できないよなあ。なんせ、大事な姫様だ」


 益々目を黄色く濁らせた暗殺者が、楽しそうに斧の腹部分で、ぴたぴたとフィロメナの首を叩く。




 こ、ここって切れない部分ってことよね?


 でもって、あっちの刃の部分だと、こう・・・すぱっと。




「フィロメナを離せ!」


 斧で、すぱっと己の首が飛ぶ想像をしたフィロメナが思わず身震いすれば、そのことに気付いたベルトランが、焦燥の声をあげた。


「だったら、お前が自分で死んでみせろよ。そしたら、考えてやらないこともねえぜえ?」


「う、嘘に決まっています!ベルトラン様!」


 考えるなんて嘘に決まっていると、フィロメナがベルトランに向かって叫べば、暗殺者が興を削ぐなと言うように、フィロメナの首を片手で掴む。


「静かにしてろ!」


「ぐっ」


「そっちも!後ろから攻撃、あわよくば挟撃しようなんて、考えない方がいいぜえ?防御が無くなった途端、全滅すっからよお」


 そして、動こうとした近衛騎士に脅しをかけ、暗殺者は、再びフィロメナの首や頬を斧の腹で楽し気に叩いた。




 このままじゃ・・・・。


 後ろには、王太子殿下、ロレンサ王女殿下、メラニア王女殿下がいらっしゃるのに。


 それに、カルビノ公爵ご夫妻だって。




「ベルトラン様!私に構わず攻撃してください!」


「出来るわけないだろう!」


 自分より優先すべき人々がいると叫んだフィロメナに、ベルトランは間髪入れずに叫び返す。


「そんなこと言わずに!殿下方をお救いください!後生ですから!」


「防御魔法も使えないくせに、莫迦なことを言うんじゃない!」


「なっ。防御魔法も、使えなくて、悪かったですね!」


「悪くはない!そんなことは、言っていないだろう!」


「そう聞こえますけど!?」




 もうっ。


 言っているも同じじゃないの。


 そりゃ、私が防御魔法を使えれば、ベルトラン様も攻撃するのに躊躇しなくてよかっただろうけど、使えないんだからしょうがないじゃない。


 使えたらよかった、って、誰より、私がそう思っているわよ。


 でも、足手まといは嫌なの。


 だから、このまま攻撃しちゃってって言っているのに。


 暗殺者に殺されるより、ずっとましだって言っているのが分からないの!?


 この石頭!




「・・・・・おい。戯れんのも、いい加減にしとけ?」


「あ」




 うわあ。


 ベルトラン様と、こんなにぽんぽん言い合いしたの、初めて。


 それに、今は真っすぐに私を見てくれているわ。


 ベルトラン様の瞳。


 きれいな、紫。




 暗殺者が不機嫌な声を出すなか、フィロメナは、そんな事実に感動していた。


  


 

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