三十四、再会
「ああ、それとロブレス侯爵令嬢。特別訓練に提供してくれた靴の話なのだが・・・・っ!」
自分の護衛を、近衛騎士が変装して行っていたという衝撃の事実に目を丸くするフィロメナに、苦笑しつつ言いかけた王太子セリオが、扉の外から聞こえた、どさっという音に一瞬で身構えた。
「殿下方、皆様、どうぞこちらへ」
そして、室内で警護にあたっている近衛騎士が、素早い動きで貴人を一か所に集める。
一体、何があったというの?
あの、どさっという音は、もしかして人の倒れる音?
だとしたら、誰が?
危険人物・・侵入者を護衛の方が倒した・・なら、報告に来るわよね?
とすると・・・・・。
「やあやあ、これは皆様、お揃いで」
誰も言葉を発さず、張り詰めた空気の漂うなか、嫌な予感にどきどきと高鳴る心臓を抑えるよう、胸に手を当てたフィロメナは、大きな斧を肩に担ぎ、にやにやと笑いながら扉を開けて入って来た男を見て恐怖した。
なに、あのひと。
人を怯えさせ甚振るのが、楽しいとでもいうような笑みを浮かべて。
大体どうして、あんな明らかに怪しいひとが、王城内にいるの?
見るからに破落戸といった風情の男を見て思ったフィロメナは、その男の背後に倒れている近衛騎士の姿を認めて、ほっと息を吐く。
「でも、斧に血は付いていないわ」
「へええ。ひとの心配とは、お優しいことで。お美しいお嬢様は、心までお美しいんでしょうかねえ」
斧で倒されたわけではないと、思わず安堵して言ってしまったフィロメナに、男は下卑た笑いを向ける。
「けっけっ。ご心配なさらずとも、外の坊やは対象外なんで、ちょっとおねんねしてもらっただけですよ。安心しました?対象者のおひとりである、お・嬢・さ・ま」
とんとんと、斧を肩の上で上下させながら、明らかな侮蔑の笑みを浮かべてフィロメナに近寄った男の前に、近衛騎士が割って入った。
「おさがりください。ロブレス侯爵令嬢」
「けっ。ええかっこしいが。お楽しみの邪魔すんなよ」
かったるそうに近衛騎士を見た男は、不機嫌な様子で斧を横にぶんと、無造作に振る。
「っ」
それを近衛騎士は、一歩も動くことなく剣ではじき返した。
そしてその後も、ぶれることなく男に相対している。
す、すごい!
斧の方が、ずっと威力がありそうなのに!
とても簡単そうに、打ち返してしまうんなんて・・・・・!
「ほお。魔法剣士か。やるじゃねえの」
意外だと、言わぬばかりの声を出した男が、その濁った眼で、護衛騎士を捕らえた。
「こちらの防御は、我らでする!君は、自身に防御をかけなさい!」
その時、カルビノ公爵がそう叫ぶと同時に防御魔法を展開し、フィロメナ達に防御を掛けようとしていた護衛騎士は、頷きと共に自身への防御魔法に変更する。
「っ!」
瞬間、男の斧が、先ほどとは比べものにならないほどの唸りをあげて近衛騎士に襲いかかり、近衛騎士はそれを魔法で防ぐと、すぐさま剣での攻撃に転じた。
「やられちまえよ!ほら!ほらあ!」
男が嗤いながら振る斧が唸り、護衛騎士の精錬な剣が奔る。
剣と斧、近衛騎士と破落戸が、互角に渡り合う。
いつ果てるとも知れない戦いの最中、執拗に足を狙われ続けた近衛騎士が体勢を崩した。
恐らく彼は、次の一撃を避けきれないと、素人のフィロメナでさえ分かる窮地。
そんななかでも、近衛騎士は、フィロメナ達を護るため、更なる防御魔法を使う。
その顔にあるのは、近衛騎士としての誇り。
「おきれいごとは、終わりってな!」
「危ないっ!」
思わずフィロメナが叫んだその時、近衛騎士を討ち取ったと、にたりと笑った男がはっとしたように防御に転じ、一瞬で入口へと振り返った。
その、盾の代わりとした斧に叩きつけられる、風の攻撃魔法。
「てめえ。背後から襲うなんて、それでも騎士かよ」
確実に捕らえたと思った獲物を逃した男は、苛立つように新たなる侵入者へと視線を向けた。
「ベルトラン様っ!」
部屋の入口に立つその姿を認めたフィロメナが、喜びの声を放つ。
「フィロメナ・・・・・っ」
現在、絶賛戦闘中の王城・・王太子宮、第一応接室。
防御壁の、向こうとこちらという状況のなか、フィロメナとベルトランは、漸くの再会を果たした。
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