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少年魔女  作者: 朧
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第六話 小難しい魔女(1)

 現世界に戻り、護衛を頼んでいた悪魔と呪いの相手の様子を見に行くことにした。任せたのはハルデだから、相当バカでアホな狩人でなければ戦闘にならない筈なんだが。


「……何だ、それ」


 駅にいると連絡を受けて来たら、そこには満足そうにニコニコと笑う悪魔がいた。その隣にはいつも通り無表情な泉と、ロープでぐるぐる巻きに拘束された男が立っている。

 こんな人の多いところで、成人男性を縛り付けている女子高生とは何なのだろうか。


「おっかえり〜、遅かったねぇ」

「千田くん、おかえりなさい」


 しかし二人は何も無かったかのように、普通に挨拶してきた。大丈夫か、この二人。俺がいない間に何があったんだ。


「ただいま。て、どういう状況だ。また狩人で遊んだのか?」

「むぅ、別にいいじゃん」


 機嫌の良い顔を少し歪めさせ、ハルデは文句を言う。隣の泉は、こてんっと首を傾げさせ「また?」と聞き返した。


 ハルデはよく、俺を襲う敵で遊んでいた。遊ぶというよりかは、苦しんでいる様子をクスクスを見るというか。悪趣味であることに違いはない。


 彼の話を聞くに、この狩人を途中まで優勢にさせた後、思い切り煽ってやる。怒りが魔力に通ずる瞬間に相手の攻撃を無効化させ、すっきりしない状態を馬鹿にする。

 いつもやっている手口と変わんねーじゃん。


「この子ねぇ、わざわざ異空間に連れて行って戦おうとしてたんだよ〜」


 異空間。こんな奴がそこまでの魔力を?


 縛り付けられている男は項垂れていて、顔や表情がよく見えない。俺はしゃがみ込み、男の顔を覗き込んだ。


 ふっと記憶が蘇る。この人、もしかして。


 俺の違和感に気がついたのか、男を支えて立っている彼女が声を掛けてくる。


「知ってる人?」

「まぁ、な。ハルデ、相手が誰だか知ってて戦ったか」


 問うと、間が抜けたような声で「知らなぁい」と返ってきた。もう彼に興味がないようだ。

 泉が誰なのかを追って訊いてきたため、手短に説明する。


「こいつ敵だけど、魔法省側だ。つまり魔女と狩人の平和的解決を目指す人」

「ちなみに身分はかなり高いよ!」


 重ねて補足するハルデを軽く睨む。なんだよ知ってるじゃねーか。

 それを聞いた彼女は瞬きを数回し、男に視線を向けた。


「私たち、まずいことしゃった?」


 無表情な上に抑揚のない声で呟く。彼女には感情という感情がないのだろうか。


 泉の呟きに俺はかぶりを振った。

 確かに彼の身分は高い。その上、魔法界を統率する魔法省に務める奴だ。しかし最近している行為により家から見放されており、誰もこの人を庇うような人はいないのだ。


 魔女戦争以来、必ず彼のような人は存在していた。魔女を憎みつつも、平和的な関係を築きたいという我儘な人間。

 そんな彼らのちいさな働きかけによって、一時は魔女と魔女狩りの関係は改善されそうになったことがある。

 だがそれも、全て水の泡になったがな。


 彼は近頃、魔法省が持つ魔女たちの情報を盗み出し自身で分析していたそうだ。それも一度だけではない、何度も繰り返した。

 その度に罰を下され、周りの信用を失った。結果、魔法省はクビになり家からは追い出されてしまったのだ。


 俺は可哀想だとは思わない。自業自得だ。


 勝手に「平和的解決」なんてものを掲げて、妄言を吐いて、たくさんの犠牲を出した彼らには、慈悲なんてものを与える義理はない。俺ら魔女たちは助けなんて求めてなんかいないんだ。


 そこまで言って、泉が口を開いた。


「でも魔女(あなた)たちは困っているでしょう」

「なに知った気になってんだ」

「事実じゃん。いっちょ前にカッコつけて滅んだって、ぼくは知らないからね」


 泉に対して言った刺々しい言葉を、ハルデがばっさりと切った。思わず彼を睨めつける。

 格好つけるだなんて、かなりのことを言ったな。


 魔女(おれ)たちは、誰からの助けを得る訳にはいかないのだ。

 悪魔に魂を売る、血の契約をする、それらは己の祖先が行ったこと。即ち、この過ちは祖先が犯したことだ。


 魔女の末裔たる者ならば、祖先の過ちを、罪を償わなくてはいけない。その責任がある。

 誰かからの力を使って償う罪など、そんなもの端から罪などではない。俺たちの抱える罪は、凡人の考える罪より遥かに重い。


「罪の償いを途絶えさせねぇ。だから、魔女を途絶えさせる訳にはいかねぇんだ」


 きつい目付きで彼らに訴える。

 ハルデは呆れたように笑い、泉は腑に落ちないような表情をしていた。理解を得ようとは更々思っていない。所詮、彼は魔力を提供する存在にすぎず、彼女は呪いの相手でしかないのだ。


「ぅう、」


 呻きと共に、男がもぞもぞと動き始めた。ゆっくり瞳を開けると、周りの様子を見て数センチ跳ねる。


「な! ま、魔女!」

「そうですけど、何か」


 不機嫌に答えると、男はぐっと唇を噛んだ。そして俺に顔を近づけ。


「こんな、勝手なことをして、すまなかった」


 深々と頭を下げた。

 拍子抜けして、つい首を傾げる。


「サクラという人が今、最も狙われている魔女であり、ただの人間と繋の呪いにかかっていると知って、彼女を保護しようと」

「あの、ここで話すのはちょっと……場所を移しませんか」


 泉が優しく言い、男が顔を上げる。周りからの視線がすごいので、俺たちは近くの公園に移動した。

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