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12話 昭和という名の希望時代! 


年波としなみには 勝てないねぇ」


 遥か遠くで火の手をあげる 金色の残骸ざんがい

 それを見やり、ぼそりとつぶやいたのは、自衛隊の狂犬 村田 正宗である。

 無双の剣客、大誤算の赤っ恥だった。

 狙った獲物は逃さなかったが、狙った場所とは かけ離れていた。

 『鮮烈なる餞別せんべつ』も、届かなければ意味がないのだ。

 自身の空飛ぶ斬撃で、ものの見事に分断した金色こんじきのヘリに、苦々しく笑う正宗。

 祐介は、よどみなく金ヘリの墜落地点へと歩みを進めてはいるが これでは間に合うかどうか。


 『祐介の数m前に金ヘリを落とし、もろとも中身を臨終りんじゅうさせる』


 これが、祐介の真意に気付いた狂犬による 『餞別せんべつ』の内容だった。

 しかし金ヘリは 正宗の予想と大きくはずれ、祐介と遠く離れた数十メートル先に落ちてしまったのだ。

 限界が差し迫る祐介では、もはや歩き切れるかどうか・・・・・・。


 ヌウゥウ。 ヌルリ。


 狂犬の表情が、一層としぶくなる。

 さらに誤算が重なったのだ。

 ヘリの残骸から ヌルリと抜け出した細身の男。


「ありゃりゃ。 なんともまぁよ、面目次第めんぼくしだいもねえやなぁ」


 ばつが悪いと言わんばかりに、頭をボリボリかく狂犬。

 なんと、落下地点のミスに加え、ピンピンした様子で中身は生存していたのである。

 もはや全盛期に比べると正宗の腕のなまりはあきらかだった。


 だが、男の生存に関しては 正宗の腕のなまりだけが理由ではなかった。

 斬撃の精度や威力が落ちている事を差し引いても、その男は異常なのだ。

 墜落する衝撃、機内で巻き上がる火の手を、その身に余さず受けてなお、男は無傷なのである。


 男の名は濾嗣ろし


  N氏がボディーガードとしてやとっていた、中国の暗殺舞踏組合あんさつぶとうくみあいラオホウ』最強にして最高幹部の男だった。

 そんな濾嗣ろしは ハンカチを取り出し、身にまとう漢服かんふくの汚れを几帳面きちょうめんにふき取ると、叫んだ。


美空山みそらやま殿!! 少し話がございまス!」


 追撃してくる余瀬よぜと対空状態で交戦していた美空山みそらやまいまいま々し気に応答する。


「取り込み中だ!! わきまえろ!!」


「いいや、取り込みは終わりだ。 ぬかったな翼!」


 ズダダダバシィン!!


 不時着して、勝利宣言をした余瀬よぜにら美空山みそらやま

 だが、それ以上の事を彼女はしない。 

 できないのである。

  バラバラに千切ちぎれゆく両手のムチ。

 余瀬よぜの打撃を集中的に受けた部分が、その衝撃に耐えきれず千切ちぎれたのである。

 これは、『極限覚醒ダイニアキヒト』で寸分狂わず音速の動きを見極めていた余瀬よぜが、意図的に行ったことだった。

 羽を無くした絶空天覇ぜっくうてんぱに、姿を消したリック・次郎。

 戦うべき相手の消失により、つきものが落ちていくように 余瀬よぜの表情が落ち着いてゆく。

 

「続行不能につき、これにて終戦だ。 文句は無いな翼」 


「・・・・・・だが、報告はある。 今日こんにちにおける貴様と丸井の立ち振る舞い。

 始終しじゅうまとめて上に報告させてもらう。

 もはや貴様らオス共に、看過かんか慈悲じひも無いと知れ!」


「報告の精度に いささか問題があると見えるな。

 天から見下ろすばかりでは、奇跡の一つも見落とすか」


「フフ。 地下で眠る財宝ならば、百も承知と言っておこうか。

 根こそぎ我らがいただいて、出世のかてにするとしよう。

 そちらこそ文句は無いな、余瀬よぜ!」


「ああ。 ただし、人命の救助は やらせて貰う」


「不要! 全てに置いて手出しは、無用!! 

 この私にも、あそこに居る濾嗣ろしに対してもな!」


「・・・・・・」


「返事は どうした余瀬よぜ

 フフ。 まあ無理もない話。 確かに濾嗣ろしは、凶悪なる中国屈指の殺人鬼。

 日本人をも大量に殺害した奴は、貴様の偽善に さぞ差しさわるだろうからな。

 ・・・・・・だが」


 闇ギャンブルに手を染めていた警視総監と自衛隊の陸将。 

 そして悪徳不動産王N氏。

 満場一致で獄殺同盟の勝利に賭けていた彼らは、裏で結託けったくしていた。

 そう、つまり今の濾嗣ろしの立場は、警察上層部の協賛者きょうさんしゃでもあったのだ。


「だが、今の奴に手を出すことは、警察組織への反逆。 

 すなわち公務の妨害を意味する!

 フフ。 恨むなら、血で血を洗う戦国時代『昭和』に生まれたおのれを恨め。

 時間が惜しい、話は終わりだ!!」


 そう、時間が無いのは、祐介だけではなく、美空山みそらやまも同じだった。

 『国丸本土くにまるほんど』は、美空山みそらやまの指揮下にあるが、彼女の所有物ではない。

 制限時間を過ぎると自動的に内部は電子レンジとなり、中の人間をポップコーンのように破裂させて証拠を隠滅してしまうのだ。

 機内から逃げる者、機外に居る者は、自動機銃で余さずハチの巣にする徹底した隠滅っぷりも、多くの公安が『国丸本土くにまるほんど』での任務を避ける理由でもあった。

 立場ある者の失態には 惨殺処刑のみを答えとする昭和の警察組織。

 その組織の大きな闇に 彼女は、その身を飲ませているのだ。


「残り14分36秒か。 本来の任務はS市の消去だが、それは5分で事足りる。

 求められた戦果の上に、どこまで手柄を上乗せできるか 思案していたが」


 ひと呼吸して、美空山みそらやまは S市の現状を観察する。


 すでに焦土しょうどし、爆撃による消滅に手間のかからないS市。

 遠くでリック・次郎を探している、満身創痍のA隊員たち自衛隊の面々。

 そして、金ヘリ付近で こちらに向かい深々と頭を下げる濾嗣ろし

 さらに、もはや失脚も同然の余瀬よぜと丸井。

 何より、この地に眠る財宝と 地下で生存していたS市の市民。

 一通り確認すると、いよいよ高らかに笑いだす美空山みそらやま


「フフ。 ハハハハ!! 大量の資金源となるS市住民の身柄確保! 

 そして自衛隊の残党せん滅!

 さらには、ナチス財宝を総取りともなれば、お釣りがくる戦果と言えよう!」


 暗黒時代『昭和』に生きる警察組織には、命を助けた人々から、それをネタに金品を巻き上げる行為を繰り返すやからが少なくなかった。 

 これは、一公務員なのにもかかわらず、美空山みそらやまの年収が50億を超える理由でもあった。

 絶え間ない上層部への献金による出世の足がかり。 あとクジラも飼いたい。

 金品のゆすりを いちいち妨害してくる余瀬よぜも、もはや失脚は確実。

 これなら989の市民を丸ごと金づるにできると、美空山みそらやまは、ほくそ笑む。


 「時間が無いぞ、今すぐ地下への入り口を探しだせ!! まずは 財宝と住民からだ!」

 

 この地に眠る膨大な財宝の運搬、および生存者の輸送は『国丸本土くにまるほんど』の積載量のみが可能とする。

 つまり彼女のみが可能なのだ。

 ともすれば、まごつく暇は ひと時すらも惜しかった。

 S市に まんべんなく配置していた、手駒の隠密部隊へと怒号を飛ばすと 濾嗣ろしのいる金ヘリ残骸へと足早あしばやに近づく美空山みそらやま

 皮算用かわざんようで勝ち誇る、そんな美空山みそらやまに背を向け、余瀬よぜは丸井とサヤ子の方へ歩いてゆく。


「・・・・・・好きにするがいいさ。

 もっとも、そんな物が あればの話だがな」


 余瀬よぜは すべてを知っていた。

 その昔、義理の父から聞いていたのだ。

 ヒトラーの死後に、そこで財宝の奪い合いが起き、奪い合うものは皆死んだ事。

 そして、その財宝の正体が、大量の爆弾だったことを。

 なんとも皮肉な話だった。

 ナチスの財宝を奪い合わなければ死なずに済み、仮に分け合ったところで戦後には無用の代物しろものなのだ。

 財宝に興味は無かったが、まつわる人のごうは、余瀬よぜの心に強く残っていた。

 そして。


「そういう事だな。 皆口君!」


 美空山みそらやまと同じく、金ヘリの方に歩みを進める祐介に、余瀬よぜが話しかける。

 自分が戻る先とは 逆方向へ歩く祐介が、正面から近づいていたのだ。

 あの時。 東大主席の余瀬よぜは、一つの答えを導いていた。

 皆口祐介の起こした奇跡。

 その正体が、まさにその財宝にまつわる事を。


「・・・・・・まあね」


 か細い声で答える祐介。

 遠目からでも彼の最後が近いと、一目で見て取れた。

 思い返せば、祐介の戦い方は 終始、受け身一辺倒いっぺんとうのカウンター狙いに限定されていた。

 彼が死んでいるのだとすれば それは、この戦いが始まる前からなのだろう。

 つまり。


「まさか獄殺同盟との決戦前から、君の計画が始まっていたとは」


 どんどん近づく祐介が少し はにかむ。

 それは、ささやかな手品のネタがばれた事に照れる、子供のようでもあった。

 思えば 皆口 祐介は、ロシアの暗殺組織やCIAのエリート、そして自衛隊や公安が血眼で探していた存在だった。

 そんな彼が S市に住んでいるという情報を掴んだのは、最近の話。

 つまり。


「君は、自分がS市近辺に居る情報を、意図的に流していたんだな。 

 そしてS市住民の信頼を得ていた君は 

 決戦の前に 住民989名を塹壕に逃げ込ませていた」


 無言で近づく祐介に、余瀬よぜは、言葉をつづける。

 

「だが、住民が逃げ込むことで、問題が一つ起きる。

 流石に住民が一人も居なければ、獄殺同盟も違和感に気付いてしまうからだ。

 これを解決したのは、かつて財産を奪い合い死んだ者の白骨死体だった!

 住民と協力して塹壕内の死体を街に散りばめる事で、

 既に皆死んでいるという事実が演出できた訳だ」


 そして、見事この演出は決まった。

 これにより全国で分散していた獄殺同盟は、転がる死体の数々を 先に訪れた仲間による行為だと錯覚したのである!


「だが、ここまでは、あくまで決戦の前準備。 

 さらに、ここからも君の計画は続く。

 いやむしろ、ここから始まる決戦にこそ、君の本領があった」


 話のさなかで、すれ違う二人。

 無視しているのか。 

 無言で聞いているのか。 

 もう余裕がないのか。

 いずれにせよ、はにかんだ以外の反応を見せない祐介。

 だが余瀬よぜは、話し続ける。

 一人の男の偉業を口にしなければ 彼は、気が済まなかったのだ!


「塹壕に逃げ込んだ住民たちには、一つの懸念があった。

 逃げ込んだ先で眠る 財宝と呼ばれる、大量の爆弾の事だ。

 しかし、これすらも君は 計算済みだった。

 獄殺同盟をたくみに利用して『流れ』の浮力で

 財宝もとい大量の爆弾を一つ残らず浮かせる。

 さらに浮いた爆弾を『煉獄』で誘爆させ『流れ』で地上へと放出させる」


 サギ丸を仕留めた異常な火柱も、この爆発の操作に よるものだった。

 なにより、今もなお上昇している火柱と爆風は 地下の塹壕にかすりもせず、住民は無傷で済んでいるはずなのだ。

 いよいよ自分を通り過ぎる祐介を振り返り、余瀬よぜは叫ぶ!


「つまりは、地下に眠る爆弾で起きるS市最悪の事態を!

 世界最強の暴走族を相手にしながら 君は未然に防いでいたのだ!」


 『流れ』と『煉獄』。 

 双方撃破の一石二鳥。

 あの時の余瀬よぜは、そう思っていた。

 だが、すべてが分かれば話も変わる。

 すべてのS市住民に起こした奇跡に、もろもろ々の戦術による奇跡を加算すれば。


「一石二鳥ではなく。 ・・・・・・まさに一石1000鳥という訳だ!」


 はびこる無法のクズたちを、一人残らず叩きのめして、無力な市民を余さず救う。

 誇り高き少年によるショータイムの全容は、凄まじいの一言に尽きた。

 余瀬よぜは 知るよしもないが、彼の漠然ばくぜんとした予測『いずれおきる最悪の事態』は、実は目前に迫っていたことも付け加えておかなければならない!

 爆弾は 老朽化が進んでおり、震度3以上の地震が2回あれば、その振動で街ごと吹き飛ばしてしまう程にもろくなっていたのだ。

 そして ここは日本! 

 地震大国の日本である!

 さらに S市が火の海になれば、『昭和』の日本政府がやる事は一つ。

 すなわち、問答無用の空爆!

 43番目の都道府県という特異な立ち位置のS市は、日本から消えてなくなる運命だったのだ。

 そこに住む住民を全て焼き尽くして・・・・・・。


 無用の兵器を本当の意味での財宝へと変えた 恐るべき少年。

 そして無垢なる命を余さず救った誇り高き少年。

 その少年の名は、皆口祐介!!


「この時代で、君という男に出会えてよかった! 本当に良かった! あり」

 

 ありがとう。

 離れていく祐介に、最後の言葉が出なかった。

 感極まった余瀬よぜは、叫べば涙がこぼれそうだったからだ。

 この期におよんで邪魔をする 自分の小さなプライドが 余瀬よぜは、心底憎かった。



「あの余瀬よぜさんは、本当に余瀬よぜさんなの・・・・・・」


 どんどん自分たちの方へと近づいてくる、そんな余瀬よぜの姿に、一人の女がポツリとつぶやいた。

 瓦礫から上がる火の手のそばでだんをとっていた、下着姿の七瀬サヤ子である。

 突如として、身体能力を爆発させ 自分を守った余瀬よぜを気遣う反面、信じられないといった様子だった。


「彼こそ、本当の余瀬よぜですよ」


 サヤ子の言葉を拾ったのは、近くで寝そべるハリセンボンのような見た目の丸井である。

 見た目はともかく、針治療の効果は絶大だった。

 丸井は 問題なく会話できるうえに、少しだけなら動くことも出来るようになっていた。


「名実ともに公安無敵のトップにして、警視総監の一人息子」


「えっ!! 警視総監のご子息だったなんて」


 サヤ子は言葉を失う。

 警察上層部の汚染を知ったとき、余瀬よぜが崩れ落ちた理由をさとったのだ。

 清廉せいれんな精神の余瀬よぜが、父の所業に崩れるのは、想像にかたくない。

 不憫ふびんというより他なかった。

 自分の親も、所属する組織も、闇に堕ちたと知った あの時の彼は、どれほどのショックだったか。

 思わず涙ぐむサヤ子の元へ、たどり着いた余瀬よぜが慰めるように はにかむ。


「義理も義務もたせない、不肖ふしょうの息子ですがね。

 義理と言えば、その父も義理の父なのですが」


「!!? 余瀬よぜさん。 大丈夫ですか!?」


 思わずサヤ子が、余瀬よぜに駆け寄る。

 余瀬よぜがよろけたのだ。

 爆発的に身体能力を向上させる『極限覚醒ダイニアキヒト』の反動だった。 

 そちらこそ、と答える余瀬よぜは 遠い目で、義父との日々を思い返す。


 思い返せば、いびつな親子関係だった。

 

 冷たく無機質な、機械人形。

 18歳の自分を引き取った義父に抱いた その印象は、あれから18年たった今も変わっていない。

 殺人技術を筆頭に、公安に必要なノウハウを全て自分に叩き込んだ義父。

 壮絶な日々だった。

 世界中の戦場に丸腰で投げ込まれたかと思えば、水深700mのところで潜水艦から放り出されたこともあった。

 恨みこそしなかった。

 だが、彼との間に 冷たく大きな壁を感じていたのも事実だった。

 それでも義父に一度たりとも逆らわなかったのは、彼の正義を信じたからだ。

 しかし、それも今日で霧散むさんした。

 今まで自分に課せた血まみれの修練の全ては、警視総監の義父にとって 都合の良い手駒として利用せんが為だったのだ。

 しょせんは金と権力にまみれた、冷血動物。

 思えば、そんな義父と この18年で交わした会話を全てしても、1時間も無いかもしれない。

 だが、もうどうでもよかった。

 下着姿があらわとなっているサヤ子から視線をそらすように、背中を向けて腰を落とす余瀬よぜ

 

「血のつながりが無い家族など、所詮しょせんは他人という事か。

 もう会う事も無いだろう」


「それは、違います!」


 皮肉をつぶやく余瀬よぜの背中に、強い口調が叩きつけられた。

 思わず振り返ると、涙をこらえるサヤ子が怒りを あらわにしている。

 

「七瀬さん、あなたは知らないんだ。 

 警視総監は冷血漢で、とんでもない男なんだよ。

 散々、俺らをこき使ってきて 今まで感謝の一つも口にしないしな!」


 丸井が口をはさむ。

 多分に私怨が乗っかった丸井の暴言を聞き流し、余瀬よぜを見据えるサヤ子。


余瀬よぜさん、それは違います。 私はそうは、思いません。

 血のつながりが無ければ他人。

 その理屈なら、子を持つ夫婦の夫と妻は、家族では無い事になるでしょう」


 それに。

 余瀬よぜには確かに息づいているのだ。

 正義も 愛も 優しさも、確かに彼には存在するのだ。

 恐らく義父は 不器用なのだろうと、サヤ子は思う。 

 それこそ息子の彼と同じように。 


「七瀬さん・・・・・・。 ありがとう」


 余瀬よぜは気付く。

 公安にならなければ祐介と出会えず、サヤ子を守ることも出来なかったことに。

 そして、義理も果たさず毒づく事は、甘える行為という事に。

 別れを告げるのは、すべてを直接問いただし 義理を果たして、感謝を告げてからでも遅くはない。

 そして。


「俺には、まだやり残した事があったようだ」


 そして、余瀬よぜには、もう一つ気付いたことがあった。

 『もう会う事は無い』という言葉に強い反応を見せたサヤ子。

 彼女もまた、別れを前にしていた事に。

 

「丸井、銃を貸してくれ」


 そう言い、丸井のホルダーから強引に銃を引き抜く余瀬よぜ


「おい! その体で何をするつもりだ! もうお前の職務は終わっているんだ!」


 空になった自分の拳銃と、まだ弾丸の詰まった丸井の拳銃。

 両手に銃を握りしめ、余瀬よぜは2人に背を向けた。


「間に合うか。 いや、間に合わせて見せる・・・・・・」


 サヤ子に視線を向けた後、深呼吸して見据える先は、金ヘリと その近くにいる人影である。

 余瀬よぜの視線に気づいた濾嗣ろしが、深々と頭を下げる。

 その隣で 新しいムチを手に、するどく余瀬よぜを睨む美空山みそらやま

 そして、そんな二人に接近する祐介。


「誇りの価値は、おのが力で指し示す」


 丸井の拳銃を、金ヘリの方へと 鋭く投擲とうてきする余瀬よぜ


 ビキビキビキィ!!

 

 空になった拳銃のみを手にした状態の余瀬よぜが、再び『極限覚醒ダイニアキヒト』を発動させる!


余瀬よぜ! お前の仕事は終わっているんだ! 死んじまうぞ!」


 ボロボロの余瀬よぜを動かすのは、職務に対する責任では無かった。


余瀬よぜさん!!」


「七瀬さん、おかげで目が覚めましたよ。

 この戦いが終わったら 義父とゆっくり話をしようと思います。

 だが その前に、あなたへの義理を果たすのが先だ」


 S市に来て、本当に良かった。

 祐介君、七瀬さん。 

 君たちに出会えたことは、何にも替えがたいと、余瀬よぜは感謝する。

 もう無いと思っていた。

 消えたと思っていた。

 二度と覚めない眠りについたと、そう思っていた。

 だが違った。

 暗黒時代の昭和に負けず、それは存在したのだ。

 時代に負けず 悪にも負けず 死なず 消えず 眠らぬそれは 無双の美学だと余瀬よぜは思う。

 祐介に、サヤ子に、丸井に、自衛隊に、そして何より自分の中に その美学があるのなら。

 心の内で息づく美学は、手にした力で指し示そう。

 揺るがぬ生き様で、時代に叫び続けよう。


「うおおおおおおおお!!」


 ドギュウウゥゥゥゥゥン!!!


 咆哮して、丸井の拳銃を猛追する『極限覚醒ダイニアキヒト』の余瀬よぜ

 余瀬よぜ 明人あきひと、命を懸けた最後の戦いだった。


 


頑張ろうと思います!

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