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第6話 『呪縛』

最後の晩餐へと招待されたアウラは、そこでナツメという柄の悪い女性と出会う。

そしてナツメと話してる最中、最後の晩餐の主催者ーーシエラによる演説が始まった。


✳︎【あとがきに用語解説あり】✳︎

 聴き終わってみれば、シエラ・スレイ・ソロモンという女の演説は大したものではなかった。

 話される言葉は「辛かったでしょ?」「みなさんも一緒です」「残り30日頑張りましょう、私達は必ず生き残る」と言った愚かな宗教チックな迷いごとでしかなかった。

 だがこの崩壊した世界で心が弱ったものが多いんだろう。シエラの戯言を聞いて、涙し、話が終わりシエラが祭壇を降りると、拍手喝采が起こった。

 それは、隣の女ーーナツメも変わらなかった。涙ぐみ、壊れた猿のおもちゃのように手を叩いていた。


「う〜相変わらず上手いなぁ……何度聞いても感動しちゃうよ」


「何度も……?」


 ナツメが口にしたその言葉に、アウラは疑念を持った。この演説を聞くことが始めてではないという事は、最後の晩餐が何度も開かれているという事だからだ。

 そうアウラが勘繰ったのを察したのか、ナツメは慌てて釈明した。


「違う違う!君の思っているような事じゃないよ!僕とシエラは仲間なんだ。ずっと一緒に旅をしててこの演説をリハーサルで聞かされて聞いたから知ってるんだよ‼︎」


「ふーん……君とあの金髪女が仲間ーー」


「本当だよ!世界がこうなってからずっと一緒に戦ってるんだ」


「それは意外だな。あの女と君とじゃ、随分と釣り合わない」


 ナツメのその言葉にアウラは疑問を持った。

 例えるならナツメは野良犬であり、チシャ猫の風格を持つシエラとはどう見ても違う世界の存在に見えたからだ。


「酷いなお嬢ちゃん……そんなことないよ。彼女と僕は似てるからね」


「似ている……ねぇ……」


「ははっ、そんなまじまじと見つめないでおくれよ。別に外見が似てるって訳じゃないし。まぁ端的に言えば、僕もシエラも、同じ呪いにかかっているのさ」


「呪い……?そういうギフトを使う奴がいたのか?」


 アウラのその言葉にナツメは笑うと「違う違う」と言って手を振った。


「親からの期待っていうか、世界が終わろうとしている今では、何とも小さな呪いさ」


「親からの……呪い、か」


 その言葉を、アウラは吟味した。今は亡きアウラの母親ーー彼女の言い遺した言葉が、今でもアウラの生きる糧となっていた。そういう意味では、アウラもナツメやシエラと同じ呪いにかかっているようなものだった。


「どうしたんだい?お嬢ちゃん」


 その言葉でアウラはハッと我に帰る。


「いや……別に……」


 その言葉にナツメは納得は言っていないようだったが、アウラの気持ちを察したのかそれ以上は追求してこなかった。


「少し、昔話をいいかな」


 ナツメはそう言うとタバコに火をつけ、アウラの返答も待たず話し始めた。


「僕の家は所謂“名家”ってやつでね。僕はそこの一人娘、だから小さい頃から作法とか色々叩き込まれていたんだ」


「作法ーー?」


 教会の椅子に足を組んで座り、あろうことかタバコを吸っているその姿からはとても礼儀を学んでいたようには見えなかった。


「……そんなジロジロ見ないでくれるかな……本当だって、小さい頃はこれでもそれなりにお嬢様をしてたんだよ?」


 (にわ)かには信じられなかったが、アウラは言葉を飲み込み大人しく話を聞いた。


「でもやっぱりそういうところってさ、跡を継がせるために男の子が必要なわけ。だけど色々あって僕の家には男の跡継ぎがいなくてね、だからずーっと僕は跡継ぎとして親に期待されてたってわけ」


 今までのヘラヘラと人を馬鹿にしたような表情ではなく、どこか遠くを見るようにナツメは語っていた。


「でもねーー本当は、跡継ぎなんて僕じゃなくても良かった。その家庭の子供として生まれさえすればどんな子でも良かったんだ。だから……僕はいつも両親が“僕”という人間と話しているのか不安に思っていたよ」


 ナツメは口から白いタバコの煙を吐き出す。その煙は、誰にかかることもなく空気に溶けて、無くなった。


「不思議だよねーー多くの人間が死んで、僕も下手すればあと1ヶ月もしないで死ぬ……そんな絶望的な状況にいるっていうのに、僕の悩みは“親からの愛情”だ」


 そう言ったあと、ナツメは「何ともーー情け無い話だよ」そう自虐的に笑った。

 そんな事はないーーそう言おうとしたアウラの言葉は、艶がかった声に掻き消された。


「何を話しているんですか?ナツメ」


 先程まで演説をしていたこの会の主催をする金髪の女性ーーシエラは妖しく薄ら笑いを浮かべアウラ達の前に立った。


「あーーシエラ!いや、この子と少し昔話をね」


 シエラの顔を見るや否や、よほど嬉しかったのだろうかナツメの表情は明るくヘラヘラした表情へと戻った。


「なるほど、昔話ですか。初対面の人にそんな事を話すなんて、ナツメにしては珍しいですね」


「それがーーこのお嬢ちゃんには少しシンパシーを感じてね、何故だか話してしまったよ」


「ふふっ、それでは初対面の私とはシンパシーを感じなかったということですか?」


 シエラのその言葉にナツメは椅子から立ち上がると慌てて釈明する。


「ち、違うそう言う意味で言ったんじゃないんだよシエラ!深読みしないでおくれよ!」


「本当ですか……?」


「ほ、本当だとも!信じてくれシエラ!」


 シエラはナツメのその慌てようを見て楽しそうにクスクスと笑うと「冗談です」と口にした。


「じょ、冗談?」


 ナツメはよほど驚いていたのかすぐには状況を飲み込めていないようだった。


「ふふっ、ごめんなさい。少し妬いてしまったので」


「なんだ、そういう事か……」


 ナツメはそう言うと「安心した〜……」と言いながらふらふらと椅子へと座りこんだ。


 そのナツメの様をしばらく堪能したあとシエラは「ところで」とおもむろに口を開いた。


「アウラさん、ナツメを少しお借りしてよろしいですか?」


「別に構わないが……他愛ない話をしていただけだしね」


「ふふっ、そうですか。恐れ入ります」


 シエラはそう言うと黒いスカートの端をつまみ、腰を少し折るように倒すと、まるで一国の姫のようにアウラへお辞儀をした。


「ではナツメ、悪いですが食事の準備を手伝って頂けますか?」


「悪いなんてことはないさ。もちろん是非手伝わせてもらうよ」


 ナツメは椅子から立ち上がると「じゃあお嬢ちゃん、また後でね」と言い残し、シエラと共に教会のドアの方へと歩いて行った。


『今の人……アウラの名前覚えてたネ』


 アウラの左肩のところでふわふわと浮きながらエスはそう音声を発した。


「あぁ。警戒して私の名前だけを覚えたのか、それとも参加者全員の名前をもう把握しているのかーーどちらにせよ、頭の切れるやつだと思うよ……雰囲気はね」


 そう口にしたあと「それにしてもーー」と、アウラはつけ加える。


「あの二人、本当に仲良いんだな」


『そうだよネ!エスもそう思ったヨ!』


「本当か!君と意見が合うなんて珍しいが、やっぱりそう思うよね」


『ウンウン!思うヨ思うヨ!だって亀とウサギみたいな感じだもんネ!』


 アウラはエスから放たれたその言葉に急に眉をひそめた。


「いや違うなエス、あれは犬と猫だよ」


『エー違うよ。亀とウサギだヨ!』


「犬と猫!」


『亀とウサギ!』


「犬!」


『亀!』


 晩餐の用意が出来るまでの二時間、人間とイエスはずっと言い合いを続けていたーー

【用語解説】


♦︎血器化

異界から現れた“神”から与えられた力。

自身に流れる血液を硬化させ、剣や拳銃といった様々な形へと変える事が出来る。

このようにこの能力で作られたモノを総じて『血器』と呼ぶ。

人により創れるものに得意不得意があり、それにより血器を創る際に使用する血液の量が変わる。

使い過ぎて失血死しないように注意。


♦︎祝福ーーギフト

神から与えられた殺し合いを加速させるための力。

人間一人一人によって能力は異なり、“爆炎を使える”といった強力なモノから“空気を振動させられる”といった微弱なモノなど、多種多様に存在する。

このギフトにより人間一人で重戦車並の力を持ってしまった事で多くの人間が急速に死滅した。

ギフトには共通の代償があり、使うと身体に能力の強さにに応じて相応の負荷がかかる。使いすぎに注意。

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