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悪嬢令子はめげない! 折れない! 砕けない! その2

 『この人殺しめ! 俺は貴様を絶対に許さん! お前のせいで皆が苦しんで死んだんだぞ! どういう育ち方をしたんだ! 親の顔が見てみたい! 生きていて恥ずかしくないのか! お前に子どもが生まれてこの事実を知ったらその子がどんな気持ちで一生を歩んでいくと思っているんだ! いや――むしろ貴様のようなヤツに子どもを産み育てる資格などあるものか!』


『甘ったれたヤツめ! 女だからって泣いて許されるとでも思っているのか!? 今死んだ人間達の怨念はお前の呪われた肉体と魂に永遠につきまとうからな! シャワーを浴びている時も、寝ている間もずーっとだ! 死んで償おうとしても無駄だ! 地獄でしばき倒されるから覚悟しておけ!! 未来永劫輪廻転生――この世にもあの世にもお前が許される場所はどこにも無いッ!』


「う……ううっ………うう…………」









『『アナウンスのバイトの若い女が失禁して茫然自失状態になったので交代したのだ! お前達の為に最上階の110階に最高の決勝舞台を用意した! 勝った者には勝利を与える! エレベーターで上がって来るが良い! 高田浩二!』』


「そんな街中に響くような大声で……やめて……やめて頂戴……!」











『おい! ここで会ったのも何かの縁だろうし、その服を寄越せ!』


『何が何だかよくわからないが許すものかッ! ブクマとポイントを貰うためならな……なろうファイターは何だってやるんだよ! 面白い作品を書くために女の服をはぎ取るなんて日常茶飯事! そして貴様は本日を以て――退院だッ!』


「は……あ……あ…………ああ!」











『キャアアアアアアアアアアアアアアアアア』


『皆! 気をつけろ! その寿司に手を出したら自分が寿司ネタになるぞ!』


「な……何よコレ……私の体……血だらけじゃない……。い、いや……いや――――――――――」











「――――――――イヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」


おはようの絶叫!

ツイン縦ロール2Pカラー娘、悪嬢令子の朝は早い!


「ゆ……夢……夢なのね? ――――!! ――ンウッゥッッ!!!」


できる女は行動が早い! 彼女は起きてから毎日、最速で洗面所に向かう!


「オ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ………………ウヴッ………………ンンッ――――ンッ………………んんっ…………あっ………はっ……はっ…………ふぅ……………」


最速で嘔吐!

もう吐くことに慣れてしまったのか、髪の毛にとばっちりが行かないように配慮できるようになっている! まさしく職人芸である!

震える体を何とか抑えて涙を拭い、川で丁寧に洗濯したドレスを着て朝食の準備を始める令子!

今の住居は取り壊し予定の打ち棄てられた廃ビル!

諸事情あって元の住居に戻れなくなった令子は色々あってここに居座っているのである!


「二人ともおはよう……」


「オボボボボボボ!!」


「djふぁsdjふぁklsjdヵうぇlkだf」


最近特に令子の調子が悪いからか気遣いをして、アザトースに縛られることで満足しているフランソワピエール!!


朝食を終えてから家事を全て完璧に終わらせた令子は外に出る!

真っ直ぐ向かうのは近場の共同墓地!

令子が原因で亡くなった、なろうファイター達のお墓にお供え(生前の物語の感想文)とお祈りをする!

これは、最早日課となっていた!


彼女は確かにどっかの世界で主人公をやっていたが、異世界転生者特有のサイコパスメンタルを持ち合わせていなかったのが運の尽きである!




そこで突如! 墓地で見知った顔を見つけてしまう令子!

当然合わせる顔が無いので墓石に隠れる!


墓地で誰かを捜し回っているような素振りを見せるその男の名はクリフォート!

以前令子と親しかった、現代風のカジュアルな格好をしたフンワリ系イケメンである!


(誰か人を探しているのかしら? それにしてもなんだかクリフォートさん……焼けたわね。海水浴にでも行ったのかしら?)


クリフォートが何をやっているんだろうとか考える余裕は今の令子には無し!

墓場を出て、時間帯は昼前!

令子の日課その2! “就職活動”が始まる!

自分でいつでも使える携帯電話も住所も無いため、自らの足で履歴書を求人の出ている会社に持って行く令子!


――が、しかし!


「お話を聞く限りでは……流石に駄目ですね。身分証明ができない人を雇うことはできませんよ。後日、改めて結果はお伝えしますが期待はしないでください」


「わかりました…………」


伊勢海町のくせに常識的すぎる当たり前の返答!

しかし、断られ慣れているのかあっさり引き下がる令子!


(これで144件目ね……。もうこうなったら……………)


そこからさらに、時間をかけてなんと徒歩で区役所に到着した令子!

そう! ついに貯金が底をつき、覚えの無い寿司の代金まで請求されてしまい! この度、生活保護の申請を行うこととなったのである!







「残念だけど、駄目だね」


「そう……ですか……」


――が、しかしッ! ハゲの職員に申請自体を拒否られる!

生え際作戦ならぬ、水際作戦である!


「ああいいですよ、敬語なんて使わなくて。フランクに行きましょう。そもそも先程調べたとおり『悪嬢令子』なんて名前の戸籍はないし住民登録もされていないんですよ。ぶっちゃけ言うとここがあなたの管轄の自治体かどうかすらわからない。残念だけど現状のままだと身分証明ができないから生活保護の申請もできないですね」


令子が生活保護申請のために自分の情報を少しでも知ろうと、前の職場に問い合わせて判明した驚愕の事実!

今まで使っていた『悪嬢令子』という名前はまさかの源氏名!

住所を確認しようとしたが雇用者の住所すら把握していなかったことが判明!

とんでもないブラックSMクラブだったのである!


「まあ、何とかして働いてもらうしか無いですね。若いから働けばどうとでもなるでしょう」


「あの……就労する余裕がもう無いから、こうして生活保護の申請に来ているのだけど……」


叩きつけられる“労働万能説”に辟易する令子!


「そりゃあね……。私も鬼じゃあない。実際は保護の申請自体を妨げることは誰にもできないし、そりゃ生保の認定だって降ろしたいと思いますよ」


「――だったら!」


「だけどね……駄目なんですよ。少子高齢化で年金だけで生活できないお年寄りが一杯いるしね。それに若い人は若い人で転生とか、転移する人が多すぎるんですよね」


「どういうこと? 生活保護の受給者がいなくなったら、何か困ることがあるのかしら?」


「大ありですよ! 事前に『異世界転出』の届け出をするなりなんなりしてくれれば良いのに、生活保護を受給している状態で突然転移してしまうから、役所としては凄く迷惑してるんです」


「それ、勝手に生活保護を止めるわけには行かないのかしら?」


「勝手に止めたら、『実は転生していなかった場合』に大変なことになるんですよ。本人が行方をくらませただけなのにいきなりこっちで保護の振り込みを止めて、受給者がこっちの世界で死んでしまったら当然役所の責任ですから。一時的に行方不明になっているのか、それとも未来永劫返ってくるのかわからないから、保護廃止の可否を決めるのに時間が掛かって事務処理も大変なんですよ……。ストレスで禿げちゃいそうですよ」


「恐ろしいほど生々しいわね…………」


「転移とか転生をいきなりされると毎月現況の調査をする専属のCW(ケースワーカー)さんも凄く困るんだよなあ。皆無責任に自分だけ転生して、後の面倒事はぜんぶこっちに押しつけるから本当に参っちゃいますよ」


「じゃあ、逆に『異世界転入者』用の支援制度とか、無いのかしら……」


「うーん……無いですねえ。ここはリアル志向の世界だから異世界転出先として外部から人が来るのは珍しすぎるんですよね。どうしても転出者の方で多くてそっちの方で対応が手一杯なんだよなあ……」


そう! 異世界への転出者が余りにも多すぎて、母数の少ない異世界からの転入者に関する法整備は圧倒的に遅れていた!

何処の世界も、いつも苦しむのは少数派なのである!


「じゃあ……今の私ができることって一体何なのかしら?」


「うー…………ん。とりあえず。異世界から転生してきて身分証明もできずに戸籍もわからないとなると……弁護士に相談してから家庭裁判所に無戸籍者として戸籍の申し立てをして、住所地を決めるところからですねえ。といっても、転移じゃなくて転生。しかも肉体の乗っ取りをしてしまったとなると、以前の本人の家族とか出てきたら死ぬほど面倒なことになると思いますけどお……。民事裁判になって、転生が善意だったか悪意だったかで揉めるとは思いますよ」


「……わかったわ。ありがとう。…………お仕事頑張ってください」


令子が役所から出ると既に夕方!

伊勢海の赤い空が赤く染まる!

行く場所を失って歩道橋の上で途方に暮れる令子!


「どうすればいいのかしら……私。もういっそこのまま……」


歩道橋の下を覗き込む令子!

ヘッドライトをつけた大型トラックが、行ったり来たりしている!


(ここから飛び降りれば転生できるのかしら…………………………できなくてもいいかもしれないわ…………………………)


しかし! 柵を乗り越えることができず、恐怖のあまり涙目で震えるのが精一杯の令子!

以前の『令子の中の人』が転生した世界は“目が覚めたら転生していた”。つまり、令子は主人公だったくせにトラックに轢かれた経験は全く無かったのである!


「令子ちゃん! こんなところでどうしたの?」


近づいてくる人影! その少女の名は長七地味子(おさななじみこ)

ビルに転居してから令子にできた、たった一人の友達である!


「地味子ちゃん! ……何でも無いわ。地味子ちゃんこそどうかしたのかしら? もしかして――」


携帯電話の無い令子は、一部の就職先とのやり取りをこの地味子の携帯を間借りすることで行っていたのである!


「ううん。ごめんね令子ちゃん。令子ちゃんの志望先からは何も音沙汰も無いの……」


「そう……………………こちらこそごめんなさい。私が貧しいばかりにあなたの携帯電話を間借りしちゃうなんて…………本当に情けないわ…………」


「いいのよ気にしなくて! 私ができることだったら何でもするから!」






『皆無責任に自分だけ転生して、後の面倒事はぜんぶこっちに押しつけるから本当に参っちゃいますよ』


(ああ……私、とんでもない愚か者だったわ。私がいなくなったら手伝ってくれる地味子ちゃんから逃げてるようなものじゃない! 残されたフランソワやアザトースはどうなるの! 私は転生するなんて、無責任なことしちゃいけないのよ!)


辛くて泣きそうになりながらも、必死で涙を堪える令子!

そう! 令子は他人を心配させるのが嫌なので、どんなに辛くても人の前でそうそう涙は見せないのである!

この気丈さこそが転生前の異世界で、多くのイケメンのトラウマを打ち砕いてきたのである!


「令子ちゃん! メールが届いたわ……! ――ねえ見てよ、これ!」





『悪嬢令子様。ますますご清栄のこととお喜び申し上げます。さて、慎重に先行した結果、あなたの非正規社員として採用することといたしましたのでここにご通知いたします。つきましては、後記のとおり採用に伴う説明を行いますのでご出席をお願いします』


そのメールを見た瞬間に、携帯電話の画面の前で真顔のまま涙を流し始める令子!

その顔が歪むと同時に地味子に抱きついた!


「生きててよかったぁ……よがっだ゛よぉ……フランソワぁ……アザトース……これで……これでお腹いっぱいご飯を食べさせてあげられるわぁ…………よかった……よかっだよぉおおおおおおおお」


「よかったねえ。よかったねえ! 令子ちゃん!!」


嬉しすぎて横隔膜が痙攣して嗚咽が止まらなくなる令子!

そう! どんなときでも決して希望を失ってはならないのである!

負けるな令子! めげるな令子!

明日こそきっと、明日の風が吹く!

ヒロインが生活保護を受給するような話は他に存在するのだろうか?





本当にどうでもいい余談ですが、令子が前住んでいた廃アパートは現在、絵挿年老が使ってます。

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