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皆の所へ

 王城跡の遥か上、二人の魔女が風に乗って話している。

 その一人桃色の髪の魔女フィアは、魔女になっても変わらなかった伊蔵にホッと胸を撫で下ろしていた。


「じゃあ皆の所へ戻りましょうか」

「そうじゃな」


 笑みを交わした二人だったが、フィアは今更ながらに伊蔵が裸である事に気が付いた。


「……なんで皆、裸になるのでしょうか……ふぅ……伊蔵さん、取り敢えずこれを着て下さい」


 苦笑しながらフィアは伊蔵から離れ魔力で黒いローブを作り出し、伊蔵に差し出す。

 裸にローブだけという少し変質者めいた格好ではあったが、当座の服としてはこれでよいだろう。


「かたじけない」


 受け取ったローブに袖を通した伊蔵は深紅に変わった髪と額から伸びた角の所為で、以前よりも迫力が増した様にフィアには感じられた。


「ぬっ……髪の色も変わったのか……益々、仕事がやりづらくなるのう」


 着替える途中で自分の髪が目に入ったのだろう、伊蔵は復活の際にばらけていた髪を摘みため息を吐く。


「また染めますか?」

「いや、晴れて魔女になり力も得られたじゃろうし、ジルバに変化を教わるとしよう……クククッ、これで念願であった変化して敵方に侵入する事が叶うわ」


「多分、ルキスラさんみたく変化しても角はそのままだと思いますよ」

「……短い夢じゃったの」

「それだけ長いと帽子で隠す事も出来ませんしねぇ……ねっ、伊蔵さん、角なんて要らないでしょう?」


 フィアはいつか伊蔵がフィアの角を見て強そうだと言った事を思い出しながら意地悪な笑みを浮かべた。


「ふぅ……確かにの。あの時はすまなんだ」

「フフッ、じゃあ行きましょう……伊蔵さん飛べますか?」

「風は操れるようじゃが……脛当とはかなり具合が違うのう」

「じゃあ、手を引いてあげます」


 フィアはクスクスと笑うと伊蔵の手を握り、ゆっくりと地上へ向けて風を操った。



■◇■◇■◇■



 地上では砂の大地の上で大勢の御使いと数名の黒魔女が二人を出迎えた。

 黒魔女と仲間の白魔女達は姿の変わった伊蔵に驚きの表情を浮かべていた。


「伊蔵……お前、魔女になったのか?」


 この中では一番付き合いの長いベラーナが、戸惑い気味に声を掛ける。


「のようじゃ」

「で、なんとも無いのか?」

「……特に気持ちに変わりは無いの、じゃがこの角と髪の色は頂けぬ……目立って仕方がない」

「……ホントに伊蔵のまんまみてぇだな」


 苦笑を浮かべたベラーナに変わり、ルマーダが口を開く。


「伊蔵さん、もしかしてヴェルトロと結んだのですか?」

「結んだというか、彼奴が儂の中にいたいと泣き付いたのでな」

「ヴェルトロが!? 一体何をしたんです!?」


「少々、説教がてら、のめしただけじゃ。彼奴まるで幼子の様じゃったぞ」

「あのヴェルトロに説教……信じられない……」


 絶句したルマーダに変わり、今度はミミルが伊蔵に歩み寄った。


「ねぇ、伊蔵。フィアへの返事はもうしたの?」

「返事? なんの返事じゃ?」

「そりゃねぇんじゃねぇか? あんだけ大々的に好きだって言われてよ」


 ニヤつきながらベラーナは伊蔵の肩に腕を置く。


「大々的? ……あのベラーナさん、どういう事でしょうか?」

「あん? どういう事って、さっき空から降った光で、皆お前ぇの気持ちは知ってるぜ。大好きですよ、伊蔵さんってな。アレ、ブワーっと広がってたから多分、国中の奴が知ってる筈だぜ」

「国中……嘘……」


 フィアはチラリと周囲にいた仲間の白魔女達に視線を向けた。

 彼らはフィアと目が合うと、その殆どが生暖かい視線を返して来る。


「そんな……みんなにアレを……」


 フィアは耳まで真っ赤に染めてしゃがみ込んだ。


「いいじゃねぇか。お前ぇが伊蔵を好きな事は前から皆知ってんだしよぉ」

「良くないです!! あんな一方的な感情が国中になんて……私と同じ事になってもベラーナさんは平気なんですか!?」

「んぁ? 別に平気だぜ。誰かを好きになんのは、生きてりゃ誰だってなるもんだしよぉ」

「そうだよ、おチビさん。……で、これからどうするの? 伊蔵について行くのかい? もしそうなら僕も一緒に行ってもいいかなぁ?」


 カラがニヤニヤしながらフィアに問い掛ける。

 どうやら新しい暇つぶしが出来たとご満悦のようだ。


「もう、知りません!!」


 叫びを上げるフィアの横で、伊蔵はミミルとシーマに詰め寄られていた。


「伊蔵、どうするの? フィアの気持ちを受け入れるの? 私はどうなるの?」

「ぬっ、ぬぅ……」

「貴様も男ならハッキリせんか!!」


 シーマが伊蔵に顔を寄せ、眉間に皺を刻み凄む。


「女の子の愛の告白に応えないなんて、彼も困ったものだね」

「フフッ、若さとはいい物だな」


 その様子を拘束した御使い達の中で見ていたスヴェンはやれやれと肩を竦め、クラウスは眩しそうに目を細めた。

お読み頂きありがとうございます。

面白かったらでいいので、ブクマ、評価等いただけると嬉しいです。

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