異形の神
異形と化した神の御体が放った閃光は退避したルマーダとシーマを巻き込んだ。
二人は咄嗟に障壁を張ったが、その余りに多すぎる光の渦の中、弾かれ跳ね回る。
「クッ!! 数が多すぎる、ルマーダ!! 手を潰して光に穴を開けるぞ!!」
“了解です!!”
シーマは魔力の刃を複数生み出すと、閃光を弾き体勢を立て直す。
その後、その刃を障壁の周囲で旋回させた。
白い刃の竜巻となったシーマは背後から炎を吹き出し、無限とも思える枝分かれした腕の一部を刈り取った。
「流石に先程の様にはいかんか……」
人の姿のままであれば急所を突けば怯ませる事も出来た。
しかし、形を変えた御体は攻撃を加えても動じた様子は無い。
一方、ルマーダも青白い光を吐き出し御体の腕を薙ぎ払っていた。
だが薙ぎ払った腕は千切れた側から再生を始める。
「やはり姿を変えて……」
『ヴァアア!!!』
ルマーダが再びその身を悪魔へ変じようとした時、衝撃と共に光の奔流が異形の神を貫いた。
奔流の先には遠く、赤いドレスの魔女と数万の白魔女が整然と並んでいる。
『まタ、邪マ者が……』
“姉様!! 大丈夫!?”
「ミミルか……お前は遠距離から攻撃しろ」
“どうして? 私達も戦うわ”
「巻き込まれれば白魔女は死ぬ……お前が守ってやれ」
シーマもルマーダも犠牲が出る事を恐れ部下は引き連れては来なかった。
ミミルだけがスヴェンの勢いに負け、白魔女の軍勢を連れて来ていたのだ。
“……分かったわ……皆、私達はこのまま遠距離攻撃で足を止めるわ”
後半はスヴェン達に言ったのだろう。
ミミルに鎧を着た白魔女が食って掛かっているのがシーマの目にも見えた。
「それでいい……ルマーダ、我々はこいつの注意がミミル達に向かないよう押さえ込むぞ!」
“分かりました!”
二人は閃光を放つ異形の神の周囲を飛びまわりながら、斬撃と光を放ち牽制を続けていく。
しかし白魔女達の放つ集中放火も、肉を抉るものの一瞬で再生を始める。
それどころか、異形の神は内部から膨れ上がる様に大きさを増していた。
“シーマさん、このままだと押さえきれなくなります……やはり私が……”
「待て……一旦退避だ」
“退避? どうして?”
「フィアが来た」
そう言ってシーマがチラリを視線を送った先、砂漠の砂を衝撃波で巻き上げながら黒い塊が炎を吹き出しこちらに向かって飛んでいた。
“私はこのまま突撃してアレを遠ざけます!! 伊蔵さんとベラーナさんは隙を作りますから斬り込んで下さい!! カラさんは神殿から白魔女さんを引き上げて下さい!! クラウスさんは生きている白魔女さんがいたら治療と説得を!!”
「心得た!! ベラーナ出るぞ!!」
「おう!!」
「はいはい」
「ふぅ……この年で戦場に立つ事になるとは……」
伊蔵達はフィアが変化した流線型の黒い塊から障壁を纏い外に飛び出す。
塊はそのまま前進を続け、飛び出した伊蔵達はそれを更に上空から追った。
視線の先には無数の腕を持った光輝く肌を持つ巨大な異形の姿が見える。
「うぇ……何かウネウネしてんぞ……俺、足の多いのは苦手なんだよなぁ……」
「何、女の子みたいな事言ってのさ?」
「正真正銘、俺ぁ女だよぉ」
「ふむ、あの化け物の下にあるのが地下神殿の様じゃな……ともかく生存者を助けるとしようぞ」
「君らは本当に西も東も無いのだな……」
「儂らはその為に今まで戦ってきたのじゃ……ご老体、癒しの技は任せたぞ」
「……任されよう」
伊蔵達が話している間にもフィアは異形の神に肉薄、その身を巨大な獣の顎に変え無数の手から放たれる光を虹色の障壁で弾き返しながら食らい付いた。
黒い獣の牙は異形を咥えたまま、燃焼ガスを噴き出し地下神殿の上空から引き剥がす。
『ヴォオオオオン!!!』
“今です!! カラさん瓦礫ごと白魔女さんを吸い上げて下さい!!”
「了解!!」
フィアの叫びを受けてカラが竜巻を起こし神殿の全てを宙に巻き上げた。
竜巻は巨大な渦の中に無数の小さな渦を作り出し白魔女と瓦礫と砂を分けて浮き上がらせる。
「見事な手際じゃ……」
「フフッ、里にいた時、散々やったからねぇ。そんじゃお爺ちゃん、僕等は引くよ」
「あ、ああ……凄まじいな黒魔女は……」
「この程度で驚いてちゃあ、フィアの使い魔は出来ないよ」
カラは笑みを浮かべると竜巻を操り、神殿に取り残されていた白魔女を選別しそれを引き連れる形で後方へ引いた。
その間にもフィアは異形を包み込む様に球体へと姿を変えていた。
「伊蔵!! フィアはどうするつもりだ!?」
異形から離れたシーマとルマーダが上空を旋回していた伊蔵達に近づき声を上げる。
「コバルトの時と同じよ。フィア殿が押さえ込み、儂が切り込む……ルマーダ、封印を解け」
「危険です!! ヴェルトロが復活したらアレよりも……」
「手は考えてある」
伊蔵は腰の刀、佐神国守を抜きルマーダの前に翳した。
「……ですが」
「頼むルマーダ」
「……どっちにしてもよ、アレをどうにかしねぇと終わっちまうんだ……俺達を信じてくれよ」
「……分かりました」
優し気な笑みを浮かべたベラーナを見て、ルマーダは伊蔵に近づき刃に手を翳した。
刃の背に浮かんでいた霜の様な紋様が、ルマーダの手の動きに合わせ消えていく。
それと同時に刀は喜びを表す様にカタカタと震え、輝きを増した。
「……伊蔵さん、信じますよ」
「信には信で返そう」
伊蔵はエメラルドの瞳を見返し静かに頷いた。
「武運を……」
「感謝する……ゆくぞベラーナ」
「おう!」
シーマの言葉に笑みを浮かべ、黒髪の異国人と赤い肌の魔女は黒い球体と化したフィアの下へ一直線に降下した。
お読み頂きありがとうございます。
面白かったらでいいので、ブクマ、評価等いただけると嬉しいです。




