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願いは君を守る事

誤字報告ありがとうございます。

 アガットを連れた伊蔵(いぞう)はイーゴのいる作業棟へと歩みを進めていた。

 作業棟は安全を考え居住区とは逆の北側に作られていた。

 その為、人通りは無く土地も更地のままだった。


 アガットはそんな街の様子を見ながら伊蔵に尋ねる。


「閑散としているな。街と言っていたが……」

「武具を作っておると言うたじゃろう。暴発すると危険なのでな、住居とは離してあるのじゃ」

「……あんたが使ったあの魔法も、その武具の一つか?」


「うむ、あれは試作品じゃ。先日、壁の形を自在に変えるのを見ての」

「……多様性か……俺は画一化された規格を考えていたが……」

「儂はお主のアレも良いと思うぞ。特に西側の様に個人の武勇に依るのでは無く、兵を率い数の力で戦うのであればの」


 そう言った伊蔵にアガットは苦笑を浮かべる。

 その個人の武勇によって自分の作った魔力集束器は完封されたのだが……。


 そんな話をしている内に伊蔵達は北部の更地にポツンと目的地へと辿り着いた。

 広い敷地を高く分厚い石の壁で囲み、その真ん中に小さな砦程の建物がそびえている。

 恐らく伊蔵の話から推測するに壁は侵入を防ぐ為では無く、暴発から住民を守る為だろう。


 アガットはそこまで考えて、これほど広く敷地を取り分厚い壁で取り囲まねばならない武器とは、とその威力の方に興味が湧いた。


 その敷地の一画で数人の人間が何やらやっている。

 よくよく見れば、その中の一人が見覚えのある武器を構え的を狙っていた。


「どうだアナベル?」

「そうですねぇ、確かに威力は上がりますし射程も伸びますけど、その分、ちゃんと狙わないと当たりませんね」


「白魔女の閃光はそんなに射程は長くねぇもんな……遠眼鏡でも上に付けるか?」

「そんなの付けても、見てる場所に魔法が行かなきゃ意味無いと思うけど……」

「調整すりゃ何とか……」


 集束器を持ったアナベルの周囲に緑の肌のイーゴ、金髪の少年ローグ、それに長い一本角の男カラが集まっている。


「ねぇねぇ、僕にもそれ撃たせてよ」

「カラ様、こりゃあ遊んでる訳じゃ無いんですよ?」


「分かってるよ。でもなんか君達楽しそうじゃないか……そうだ、僕の魔法を詰めてみようか? 見えない風の弾丸とか……ちょっと良くない?」


「止めて下さい。我々の魔法で流用出来るのかまだ分かってないんですから」

「ちぇッ、つまんないの」


 伊蔵が仲間を紹介しようとアガットに目をやると、彼はその集団の一点を見つめ体を振るわせていた。


「アニー!?」


 アガットは声を上げ駆け寄り、彼に気付き目を丸くしたアナベルの肩に両手を乗せる。


「どうしてここに!? 前線への転属を志願したと聞いて心配してたんだ!!」

「……もしかして……アグちゃん?」

「そうだよ、一緒に選別を受けた幼馴染のアガットだよ!! ……そうか君もコイツらに捕まっていたんだね。でも、無事で……無事でよかった……」


「ねぇねぇアナベル。この人は?」


 アナベルの肩を抱き涙ぐむアガットを見てカラがニヤニヤしながら尋ねる。

 新しい暇つぶしのネタが出来た事が余程嬉しいらしい。


「えっと……この人はアグちゃ……アガット、私の幼馴染です」

「へぇ、幼馴染……ねぇ、アグちゃん、君、アナベルの事が好きなのかい?」

「なッ!? なんであんたにそんな事を言わなければならない!! それに、すっ、好きとかではなく、古い馴染みを心配するのは当然だろう!?」


 アガットは分かりやすく赤面し早口でまくし立てた。


「好きじゃない? へぇ……そうなんだ……」


 カラはその反応に満足気に頷きながら、アナベルの腰に手を回しアガットから奪う様に引き寄せた。


「キャッ!? カラさん、何を!?」

「じゃあ、この娘が僕の愛人でも問題ないよね?」

「えっ、えっ!?」

「あっ、愛人!?」


 アガットの赤面した顔が一瞬で青白く変わる。 


「カラ、この者は仲間の候補じゃ。余り揶揄うで無い」

「ちぇッ、もう少し反応を見たかったのに……」


 そう言うとカラは直ぐにアナベルから離れ、ごめんねと二人に軽い感じで謝罪した。


「大丈夫かい、アナベル姉ちゃん?」

「はっ、はい……ホントに愛人しないといけないかと思ってドキドキしました」

「カラ様、純情な若者を揶揄っちゃ駄目ですよ」


「アハハッ、ごめんごめん。最近、襲撃も無いし暇だったからさぁ……」

「まったく……ローグ、この人に何か新しいおもちゃを作ってやってくれ」

「分かった。カラ兄ちゃん、新作のパズルを作ってあげるから行こうぜ」


 新作と聞いてカラが目を輝かせる。


「新作!? どんなのだい!?」

「この前、思いついたのは立体の奴でさ、組み合わせが……」


 ローグに連れられ去って行くカラを見て、イーゴとアナベルがため息を、伊蔵は苦笑を浮かべ、アガットは憤慨していた。


「何だ、あのいい加減な男は!? やはり西側の魔女は噂通り堕落している様だな!!」

「アグちゃん、西側もあんな人ばかりじゃないよ。それにカラさんもぐうたらだけどそんなに悪い人じゃあ……」

「アニー、何故、西側の魔女を庇う!? あいつ等は敵だろう!?」


「アグちゃん……あのね、それでいったら私もアグちゃんの敵になっちゃうんだ……」

「何を言って……そうか、あのフィアという魔女に使い魔にされて無理矢理……」

「違うよ。……フィアさんの使い魔にはなったけど、それは私が自分で考えて選んだ事だよ」


 アナベルの言葉にアガットは茫然と彼女を見返した。


「どうして……君は模範的な御使いとして家族の為に……」

「そうだよ。でも家族は皆死んじゃって……私、耐えられなくなって軍を逃げ出して西に……それでフィアさんや伊蔵さん、それにイーゴさんやローグさん達の仲間に……」


「黒魔女の仲間!? 本当なのか……?」

「ああ、本当だぜ。アナベルは俺達の大事な仲間で優秀な助手だ」

「イーゴさん……」


 アナベルの前に進み出たイーゴが牙を見せてニヤッと笑う。

 その容貌にアガットはたじろぎながらも、イーゴを睨み返した。


「あんたの助手……アニー、君は一体何をしてるんだ?」

「アナベルは儂らの武具を作っておる、お主の武器を防いだのもアナベルが印を刻んだこの籠手の力よ」


 左腕を持ち上げた伊蔵は、アガットにその左腕の籠手に刻まれた紋様を指し示す。


「アニーが印を刻んだ……本当に西側に……?」

「アグちゃん、私ね。東で私みたいな思いをする人を減らしたいんだ。御使いの皆は私みたいに感じて無いかもしれないけど、でもきっと辛いって気持ちは心のどこかに残るだろうし……その家族だって……」


「私みたいに? ……そう言えば君は一等士だった筈……まさか!?」


 余りに感情豊かに話すアナベルにアガットはある可能性に気付く。


「そうだよ。私は東で言う所の神の声が聞こえない者、反逆者だよ」

「そう……だったのか……」


 アナベルは一等士として心を無くしてしまったとアガットは思っていた。

 しかし反逆者であるのに模範的というなら、彼女は家族の為に自分の心を押し殺し生きてきたのだろう……。


 自分が国の規則に逆らえず、反発心を抱きながらもアナベルを守る為だと気持ちをすり替えて……そう言い訳して、武器を作っている間もずっと……。


「コイツはアンタが作ったんだろ?」


 後悔に似た感情を感じていたアガットの前に、イーゴがアナベルから受け取った魔力集束器を翳してみせた。


「……そうだ」

「コイツは俺が見た所、兵士の為の武器だよな? アナベルみたいな下位の?」

「……ああ」


「やっぱりな……要はコイツは兵士の力を上げる為、つまりは兵士の命を守る為に作られた武器って事だ。そうだろう?」

「だから何だ?」

「なぁ、アンタ、俺達に力を貸してくれねぇか? 俺達はこの国に生きる奴らの命を守る事が目的なんだ。その為に戦ってる」


 フィアも伊蔵も戦争を終わらせると言った。

 それにフィアは誰にも死んで欲しくないとも言っていた。

 そして目の前の悪魔としか思えない男も命を守る事が目的だと言う。


「この国というのは西という意味ではなく東も含まれるんだな?」

「そうだ。それがボスであるフィアの願いだからな」

「ボス? あの子供がボスなのか!?」


「アグちゃん、フィアさんは見た目は子供だけど立派な人だよ。きっと東側の天使長様よりもずっと……」

「……アニー、ここを抜ける気は無いんだね?」

「無いよ……フィアさんの願いは私の願いでもあるから……」


 そう答えたアナベルを見て、アガットは苦笑を浮かべため息を吐いた。


「……分かった。仲間になるよ……俺の願いは君を守る事だから……」

「アッ、アグちゃん!? なっ、何言ってるの!?」

「えっ……あっ!? いや、きききっ、君は、おっ、幼馴染であるし、大事な友人だしね!! ふっ、深い意味は、ななっ、ないよ!!」


「なんだか甘酸っぱいぜ」

「全くじゃの」


 慌てふためくアガットとアナベルを見て、イーゴと伊蔵はその初々しい眩しさに思わず瞳を細めた。

お読み頂きありがとうございます。

面白かったらでいいので、ブクマ、評価等いただけると嬉しいです。

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