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Wizard Life  作者: いなかもん
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1話:ゴブリンは、滑って転ぶ生命体。

「来たぞ!」

日が傾きはじめたある日の午後、ボクの隣にいる、チェインメイルを着込んだ男が怒声を響かせる。

後ろのほうからは喧噪――住人が家の中に避難する声や音、兵が走る音などが聞こえてくる。


ボクはいったん目を閉じ息をゆっくり吐いてから目を開け、チェインメイルの男の視線の先をじっと見つめる。

前方の森の切れ目に醜悪な顔面とくすんだ緑色の肌を持つ、身長3フィートと少し程度の生物3体が見えた。


実物を見るのは初めてだけど、あれはゴブリンで間違いないだろう。

森の切れ目から村までの距離は目測で約600フィート。

静止標的ならともかく、お互い動くし回避行動もとるので弓などの遠隔攻撃はほぼ無駄に等しい距離で、まだ精神的に余裕がある。


実のところこれはボクにとって初めての実戦で、正直言えばまだまだ安全な塔のなかであくびをしながらぶ厚い書物に埋もれながら研究と研鑽を続けていたかった。

数少ない同期はボクにはまだ早すぎると心配をしたし、もっと数が少ない先輩はボクがやるべき仕事ではないと忠告した。

しかしそれでも、ボクが生まれた小さな村の危機には、ようやくウィザードを名乗れるようになったばかりのボクの力ですら必要だった。

そして、師匠は笑ってボクを送り出してくれたんだ。


「帰ってきてもらってすぐで悪いが・・・やれるか?」

隣にいる男、ウォードがボクに声をかけてきたので黙って頷く。

緊張で実のところ酷いことになりかけているが、最大限の強がりだ。


"帰ってきて"とは、ボクはウィザードになるために村を出て、師匠が拠点としている魔法使いの塔へと出向いていたからだ。

そして戦闘訓練だってやってなかったわけではない。

塔の中で、消し炭にされかけたり、壁の中に体半分埋まったり、召喚されたクリーチャーを相手にサンドバッグに・・・戦ったりもした。

思い返すと単なる実験体扱いだったような気がしないでもないけれど、ウィザードだろうと他に何かだろうと、この世界で生きていく以上この手の敵と戦う覚悟はできているのが通常だ。


そしてボクがこの故郷の土を踏んだのは8年ぶりのこと。

塔近くの大きな街からキャラバンの荷台に揺られて到着したばかりで、帰郷の挨拶をしにウォードへ顔見せに行った時のことだった。


「もっとじっくりと勉強させてやりたかったんだが、こんなことになるとはなあ・・・」

ぼやく彼にボクは首を横に振りながら、緊張で痙攣しはじめている表情筋に鞭を入れ、口角を持ち上げることをもって回答とした。

彼はボクが子供の頃からずっと、この村の守備隊で活動しているベテランウォリアー戦士で、現在は守備隊の隊長を務めている。


ウォリアーになる方法は簡単で、適当な装備一式に適切な訓練を受けたならば、今日から君もウォリアーだというくらいのものだ。

職業分類なんかどうでもよく、小さいころから頼りにしていた彼が守備隊長で、隣にいるということはボクの救いになっているのは間違いない。

そして現実問題として、熟練したウォリアーは新米ウィザードよりずっと頼りになる。


守備隊、なんてかっこつけてはいるけれど、小さなこの村の常備戦力は総勢4名。

事態の解決のため街へ冒険者を雇いに行っているとは聞いていたけれど、彼らの到着は間に合わなかったようだ。

高度な訓練を受けられるような人的資源の余裕も装備を整える余裕もないこの小さな集落の守備隊では、たとえ相手がゴブリン数体であれ被害が出ることは避けられなかっただろう。

その場合その後の守りには当然ながら支障が出るし、ある程度の略奪や破壊は覚悟しなければならなかったところだ。

どれほどの役に立てるかという面を置いておけば、今回はウィザードであるボクが襲撃前に到着して、数的優位をさらに広げられたわけだから不幸中の幸いといったところだろう。


慎重に表情に出さず、ゴブリンたちの移動経路を探る。

彼らは、ニタニタケタケタ笑いながら3体固まって近づいてきている。

消極策を取らざるを得ないド田舎の集落守備隊の戦法は、彼らもきちんと理解しているようだ。

その様子を確認したボクは、ウォードに対し呪文はまだ何回も使えるわけではないが今回は凌ぎきれるだろう…と打ち明けた。


「オーケー、頼りにさせてもらうぜ・・・弓、構えろ!」

ウォードが剣を掲げ叫び、ゴブリンが歯を剥き奇声を発し飛び跳ね、矢をつがえた守備隊員が弦を引き絞る。

「そろそろだ」というウォードの呟きに呼応し、ボクは外套に引っ掛けている沢山のポーチのうちの一つから牛脂をつまんで取り出した。


すでに弓の射程範囲に入っている。

彼らが射撃するか、ゴブリンが突撃なり散開なりを始める前に魔法を一発ぶちかましておくべきだというのがボクの判断。

そして、ゴブリンたちが突進のための一歩を踏み出した瞬間。


「Ch=Sbtn Tldvr Ftr!」

竜言語でそう叫ぶと同時にボクの手の中の牛脂は霧散し、ゴブリンが力強く蹴りだそうとしている地面に脂の層が浮かび上がる。

そして彼らは、バナナの皮でも踏んだかのように盛大にひっくり返り、その不格好な後頭部や顔面をしこたま地面に打ち付け、目を引ん剝くことになった。

のんびりやっていきます。

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