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織田信忠ー奇妙丸道中記ー Lost Generation  作者: 鳥見 勝成
第十七話(荷之上城編)
98/404

98部:長島願証寺

北伊勢には、「北勢四十八家」と呼ばれるほど多くの豪族が割拠していた。

全地域を治めるような突出した大勢力は無く、宗教上ほとんどの豪族を門徒とする長島願証寺が跳びぬけた存在だった。

願証寺は多数ある本願寺門葉の中でも格式が高い寺で、本願寺派の東海地方における本拠地として、門徒衆10万人を擁していた。

当主である証恵は76歳。摂津国石山本願寺門主の外戚として力を持つ河内国久宝寺村の顕正寺住職の血筋に当たる。天文元(1532)年伊勢長嶋城主・伊藤(長野)重晴を討伐し寺領の自治を確保してからは、長島願証寺の住職として33年間に渡り北伊勢長島を支配している。

説法の際には、民衆に囲まれても頭一つとびぬけた長身で目立つ容姿だ。

年齢の割には背筋が伸び、歩く速度も初老の僧侶たちに負けないほど速い。健康であることが、民衆の崇拝に繋がる。

証恵の息子である証意は、50歳を迎え僧侶でありながらも、骨柄たくましく戦国大名といわれても通じる様な武人の容姿である。そして10万人の宗徒を操る脂の乗った軍事指導者へと成長している。

更に、証恵の孫である顕忍は、幼少のころから多くの奇跡を起こし、奇妙丸と同じ年齢でありながら聖人として、宗徒達に絶大な支持を得て崇め奉られている。

三代にわたる願証寺の北伊勢での影響力は、ほとんど戦国大名と変わりない。


願証寺は、織田家との直接的な対決を避けていた為、率先しての軍事行動は控えている。

かつての長嶋城領主・伊藤重晴の子孫で、目の上の瘤である伊藤掃部助いとうかもんのすけ長時に対しては、伊藤氏の分家で反織田派の伊藤縫殿助を調略し、一族を分裂させて伊藤氏の勢力を弱めている。

そして、瀧川一益により市江島から追い出された弥富服部党首・服部左京進友貞を長島に迎え入れて織田家の侵攻に備えた。

しかし、友貞は昨年の正月に瀧川一益の計略により謀殺されたので、その息子の弥右衛門尉政友が弥富服部党をまとめている。

さらに北伊勢に割拠する48家の内から反織田家の豪族を利用して、織田家の包囲網を形成していたのだった。

中でも、反織田家の代表格、神戸氏の重臣で高岡城主の山路紀伊守正幽は、神戸家の当主・神戸具盛の娘婿でもある有力者で、神戸家中での反織田家の旗手だ。

その息子、山路弾正大弼は本願寺に忠誠を誓い、長島の宗徒を率いて対織田家の先兵を務めてる。


市江島荷之上城の石垣から、急ぎの城壁普請作業を監督する覆面の男と、唐風の煌びやかな衣装を身にまとう海商らしい風体の若武者。

青年武将、山路弾正は任務柄自分の人相を他人に見せることを嫌っており、常に覆面を被っている。

「河曲郡高岡山路の兵力と、弥富服部の海軍力、我らが合力すれば怖いものなしですぞ」

服部左京進友貞の遺児・服部弥右衛門尉政友に話しかける山路弾正。

弾正の脳裏には願証寺証意の言葉が繰り返される。

「小木江に新しく建設されている織田方の城郭が完成すると、伊勢長島願証寺の喉元に織田の要塞が出現することになる。それに、このまま黙って見ていれば、桑名への兵站線が完成し、同盟者でもある北畠氏の滅亡に繋がってしまう。伊勢の平穏は、お主ら48家生き残りの働きに掛かっておる!」

織田家の動きを苦々しく見る顕正寺証恵の意向でもある。

「木曽川流域の織田方商船はすべて略奪したいところだ、しかしそれには鯏浦うぐいうら城が邪魔ですな」と心配気な政友。

「何れ、荷之上城を再建したことが露見するかもしれぬ。奴らが軍勢を繰り出す前に、我らで先に鯏浦城を攻略しよう」と強気な弾正。

「早き事風の如くですな、早速繰り出しましょうか」

「それから後は侵略する事、火の如く。弥富一帯を瀧川勢から取戻し、服部家の威勢を取り戻しましょう」

「合力忝い」とお辞儀する政友。

弾正の号令一下、荷之上の人工達が海賊集団と変装した。

莫大な財力を持つ長島願証寺の後ろ盾を得て、日々の突貫工事で復旧した荷之上城を基地に、安宅船三艘を軸にする服部氏の船団と、それに乗り組む山路の兵達。

今まさに鯏浦城を巡って戦端が開かれようとしていた。


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