97部:使番
清州城二ノ丸政庁。津島の例祭から戻ってきた城主・奇妙丸が本腰を入れて政務を執り始めた矢先の事。
小姓控えの間。
「大変です、大変です、大変です!」と森於九が走ってくる。
「お前はいつも大変じゃないか」と返す千秋喜丸。
「お殿様の幌衆の方が参られました!」との内容に小姓衆の表情が引き締まる。
「それは大変!」と於九に同調した佐治新太。
「早く若様にご報告を!」と小姓衆最年長の金森於七。
「はい、いつも準備万端であります」と加賀井弥八、水野於藤が応える。
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生駒三吉が「火急の要件が御座います!」と奇妙丸に報告してきた。
小姓衆達からの報告で予め準備をしていたので抜かりはない。幌衆の到着を聞き、清州城の詰め衆も広間に参集している。
政庁にて信長からの使者を迎える奇妙丸。
今回、使番として派遣されてきたのは赤幌衆の毛利河内守秀頼だ。
毛利秀頼は、「桶狭間の合戦」に信長の小姓衆の一人として従い軍功をあげた武勇の侍だ。血統が斯波氏に繋がる為、若くして河内守を名乗ることを許されている。
「殿様よりの書状に御座いまする」
書状を受け取り読む奇妙丸、
「市江島周辺の河川の治安が急激に悪化しているとの事、物流が滞っております!」秀頼が皆に聞こえるように大きな声で上申する。
「若様、蟹江城の瀧川彦次郎様からも、一揆の蜂起の気配があると連絡がありました」と生駒三吉。
「その辺りの反抗勢力は、弥富服部党の残党あたりでしょうか?」と梶原於八。
「瀧川一益殿が昨年の正月、服部左京進友貞を北畠氏との会談があると誘い出して伊勢大湊で打ち取ったと聞いた。その復讐かもしれないな」と予想する奇妙丸。
「津島例祭で、若様が尾張に滞在される事は知れ渡っています。それに合わせて、伊勢長嶋が何か蠢動しているやもしれませぬな」
「うむ」(我 力量を見定めようということか)
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「まず左京進の居城だった荷ノ上城の跡地へ物見を派遣しよう。それに鯏浦城の兵力を増強したい、簗田殿は清州の詰め衆の中から与力を選抜してくれ。それから、小木江城を建設中の織田信興殿にも一揆警戒の連絡を」と奇妙丸が指示を下す。
「お任せあれ!」
簗田出羽守が重々しく返事する。
清州詰め衆のどの一党が、北畠攻めに向かった兵力以外に余剰の戦力を残しているか、古参の簗田が一番通じているだろうという奇妙丸の判断だ。
「津島の服部党は何か知っているでしょうか?」於八が服部党の繋がりを気に掛ける。
「そうだな、大橋殿は何も言ってはいなかったが、津島にも改めて物見を派遣しよう。佐治新太郎、行ってくれるか」
「ははっ」と小姓衆の佐治新太は自分の出番に勇躍する。
服部氏は木曽川河口部に大きな勢力を持っていたが、親織田派と反織田派に分かれ現在は分裂状態だ。津島の服部氏は、伊勢湾海賊衆の佐治氏とも縁戚関係にある。
「河内殿、他に父上からは何か?」
「存分にせよとの事です。では拙者は岐阜に戻りますゆえこれで」
事務的に報告して、信長のいる岐阜に戻るために毛利秀頼は退出していった。
「どう思う?」と隣の於八に毛利秀頼の態度を聞く於勝。
「んー。戻るというのは嘘かもな」毛利秀頼は第三者として客観的に今回の事態を把握して、信長様に報告する任務を背負っているのではないかと踏む於八達だった。
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