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織田信忠ー奇妙丸道中記ー Lost Generation  作者: 鳥見 勝成
第十六話(勝幡城編)
93/404

93部:勝幡城

尾張国勝幡城の郊外。奇妙丸と冬姫一行が街道を進む。

信長の祖父・織田信定が塩畑しおはた大中臣おおなかとみ氏を討ち手中に収めた塩畑の地。

信定は大中臣屋敷を拡大城郭化し、縁起を担いで勝幡城と名付けた。

それから、西方にある津島牛頭天王社の門前町として栄える津島湊を支配し、織田弾正忠家の経済的な基盤を固めた。その後、息子・信秀が天文元年(1533)年に勝幡城を継承するが、自身は今川家から那古屋城を奪取したため軍師・武藤掃部助むとうかもんのすけを城代として据え置いた。

天文24年(1555)信長が清州城を奪い武藤掃部助が野府城に配転されてからは、信定の弟・織田秀敏が城主を勤めたが、秀敏は永禄3年(1560)「桶狭間の合戦」に鷲頭わしづ砦で戦死し、跡職は息子の津田秀重が継承している。

勝幡まで付き添ってきた城主・秀重の息子・津田小平次秀政が、城の由緒を奇妙丸丸一向に語って聞かせた。

勝幡城を見上げる冬姫。

「弾正忠家の始まりの城ですね」冬姫も感慨深げだ。

「父上も那古屋に入る前はこの城に居た」

二人で信定の墓の方向に手を合わせる。

それに倣って一行全員が黙祷する。今の自分たちの生活があるのは曾祖父・信定の先見の明によるものだ。


*****


勝幡城からは約一里。伊勢湾方面への街道沿いにある津島は、天王川の湊町として栄えていた。一宮に端を発する萩原川(日光川)が、稲沢に端を発して勝幡を通る三宅川と合流し、天王川という一本の川となり、木曽川の分流である佐屋川に注いでいた。

津島の天王川沿いには物資を保管するための数多くの蔵が建ち並んでいる。

上流にある一宮、稲沢は大昔から尾張の中心地として栄えてきた土地で、そこから船を使って運ばれた物資がこの津島湊に集められ、伊勢湾沿岸の各地に運ばれていた。

津島は、米之座、堤下とうげ、筏場、下構、今市場の津島五ケ村と呼ばれる古い村々を中心に形成されている。

かつて南北朝の時代、尹良親王の子息である良王が、信濃から尾張津島に落ち延びてきた。

良王は津島五ケ村に迎え入れられ、津島神社の神主として身命を全うする事になる。その身辺は、新田一族の大橋、岡本、山川、恒川の四家と、公家の庶流七党である堀田、平野、服部、鈴木、真野、光賀、河村家が守護してきた。彼らは後に津島十一家と呼ばれた。

奇妙丸が津島の町影をみながら、津島の話を始める。

「今から五十年ほど前の事だ。曾祖父・信定様は大永年間に津島に対して圧力をかけ、津島十一家の有力者・大橋氏は、津島の北西を守るために奴野屋ぬのや城を築き抵抗した。しかし、大永四年(1524年)ついに、和睦を結ぶ形で信定の娘・女蔵おくらが大橋重長に嫁いだことにより、織田家と大橋家が一体となった。これは信定様が津島を手に入れるための政略結婚だった」

「政治的な結婚で平和が訪れたのですね」と寂しげな目で冬姫が返す。

「うむ、そうだな」歯切れの悪くなる奇妙丸。自分も武田松姫とは政略婚なのだなと、ふと我に返った。

「織田家に生まれてきた者の宿命を、男も女も皆それぞれが背負っているのですね」

「私は、皆の為に、今の世の民の為に、宿命を背負ってゆくつもりだ」

「自分の為には生きないのですか?」

「そうだな、誰かの為に生きることが嬉しいと思うようになったかもしれぬ」

「誰か一人の為ですか?」

「いや、皆の為かな」

冬姫はまだ何か言いそうになったが、ぐっと堪えて押し黙った。


*****


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