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織田信忠ー奇妙丸道中記ー Lost Generation  作者: 鳥見 勝成
第十六話(勝幡城編)
90/404

90部:斯波武衛御殿

清州城本丸御殿。

http://17453.mitemin.net/i192374/

挿絵(By みてみん) 

挿絵(By みてみん)

清洲城鳥瞰図


「ようやく落ち着けたな」奇妙丸が普段着に着替えて寛いでいる。

「いろいろとありましたね」奇妙丸の正面の座布団に座り、お茶を飲む冬姫。

「清州城に入るのも大変だったが、大鹿毛が活躍してくれた、兄・左京亮に感謝だ」と生涯の名馬を得て満足気な奇妙丸。

「ところで、冬姫は本丸御殿に入るか?」

「兄上様はどちらへ居を構えるおつもりなのですか?」

「政庁のあるニノ丸で政務を執ろうと思うよ、だからニノ丸館に入る。本丸は非常時の時、最後の砦としようと思う。だから冬姫は安全な本丸御殿にしてはどうかと思うのだが?」冬姫を思う兄心である。

「本丸御殿には斯波武衛様の美しい庭があると聞きましたが」

「うん、歴史もある名園に、露天の湯殿があるのだそうだ」

「歴史もわかるのですが、兄上様、昔の落城話があるので私は一人でいるのは怖いです」

「そうだったなあ、斯波義統様御家中の凄惨な戦いの話を聞いているからな」

「なんとなく気が引けます」

「わかった。そのうち本丸は籠城用の武器庫兼物見楼閣に改築して、平時はニノ丸館を拠点としよう。冬姫も奥の屋敷を使うといい」

「有難うございます。また兄上様のお傍ですね」

「岐阜の頃のように宜しく頼む」

「はい」にっこり微笑む冬姫だった。


*****


岐阜城。武衛屋敷の露天ノ湯。

本丸御殿の露天風呂の噂を聞いて、

於八と於勝が旅の汚れを落とそうと入浴していた。湯の中で伸びをする於勝。

「いやー、奇妙丸様は一日に二度もの対決があって、さぞかしお疲れだったろうな」

「うむ。私達が代わりを務めたいが、相手が本人ではないと引き下がらないからな」

「見守るだけというのは歯がゆいな」

「しかし、奇妙丸様は立派だ」

頷く於勝。


そこへ女性たちのキャッキャと騒ぐ声が脱衣場から聞こえてきた。

「?!」

予想外の事態に焦る於勝に於八。

「かっ、隠れよう」

「あの岩の陰に」慌てて裸で走り出す二人。岩陰で気配を殺し、どうしたものか迷う二人。

冬姫と池田姉妹や桜達、冬姫の傍衆達が湯殿に入ってきた。

「兄上様が皆で入れば怖くないというので」

「大きな露天風呂ですね」

「皆、早く旅の汚れを落としましょう」

バシャバシャと水音が聞こえる。女性陣は十数名いる様子だ。

「いいお湯ですこと」

「温かい」

「極楽ですわ」

冬姫の声が聞こえたので、緊張で二人の鼓動が高まる。もし潜んでいることがバレたら冬姫に合わせる顔がない。しかし、今の冬姫を見たい気持ちがないわけではない。

のぞんで此処にいるわけではないが、今さら出てゆく訳にはいかない。

潜んでいるうちに言い訳ができる状況ではなくなってきた。

「月が出てきましたよ」

「一番星発見!」

無邪気に騒いでいる声が聞こえる。

(冷えてきたなあ)

(うー寒い)

岩陰で身を寄せ合う於八と於勝。今は運命共同体だ。

「さっぱりしました」と冬姫。

「温まったし、あがりましょうか」と於仙。

「そうですね」と冬姫が答える。

ついつい岩陰から身を乗り出す二人に、冬姫の綺麗な背中が見えた。

((なんて、きれいなんだ・・))

ゴクリと唾を飲み込む於勝。

桜が、庭先に人の気配を感じた。

「そこに誰かいるの!?」はっとなる冬姫たち。

於勝、於八は慌てて気配を消した。


「どうかした?桜」

「気のせいかもしれませんが、人の気配を感じて・・」

「やだ、怖い」

「冬姫様、私たちがお守りいたします」冬姫の両側に寄り添う池田姉妹。

一斉に警戒態勢をひく侍女たち。しかし、暗くなってきた庭先では、その後は物音ひとつしない。

「気のせいかしら」と桜。

「幽霊かもしれないわよ」と於久が言う。

「やだあー」と皆怖がりはじめる。

温まったばかりなのに寒気を感じて我先に脱衣場に戻るのだった。

桜は殿をつとめ、ちらりと庭を見て引き上げた。

その後、斯波武衛御殿にはやはり幽霊が出るという噂がまことしやかに囁かれるのだった。


*****


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