84部:尾張守護代・織田家
奇妙丸一行は、関小十郎と於高姫に見送られ一宮城を出発する。
「於勝の姉上は勇敢だな。美女武士だ」と於八が於高姫の感想を述べた。
「しっかりした方がいて、森家も心配ないな」と奇妙丸も続けた。於勝達の母・於栄御前の危げな印象が記憶に残っているので、於高姫の存在は森家にとって大きいと思う。
「姉は、奇妙丸様と同じ年齢ですよ」と於勝。
(年上だと思っていた)奇妙丸は内心驚いていた。
池田姉妹も町の騒動を聞いて、それを鎮めに家来を率いてきた於高姫を知り、二人とも於高姫にとても興味を抱いた。
「私達も於高姫様のように勇ましい女性に憧れます。ねえ冬姫様」於仙が冬姫に話をふった。
「そうですね」同意するも心配げな冬姫。
「どうされたのですか?」と桜が冬姫に聞いた。
「最初の婚約者である長沼藤次様が戦でお亡くなりになられてから、御一人で喪に服されているそうですね。於高姫様は、寂しくはないのでしょうか」と於高姫の胸中を想う冬姫。
「きっと、心の強い方なのですね」桜の言葉に頷く冬姫。
「信長様も、於高姫のことを心配され、武勇で有名な坂井家の長男・久蔵様はどうかと勧められているそうです」
於高姫の新たな縁組について、於八は父から噂話を聞いていた。
「坂井久蔵殿も、奇妙丸様と同じ年齢ですよね?」と於久。うんと於勝が良く知っているという様子で答える。
「先の上洛戦では武功をあげられたとか」と於仙。
「上洛後のある宴席では、坂井政尚殿と森可成殿が息子の事で言い争いをされたようで、両家の仲を取り持つためにも信長様は久蔵殿と於高姫様の縁談を勧めているそうです」と小姓勤めをしていて内情に詳しい三吉が言う。
「それに、於高姫様と釣り合う器は久蔵殿しかいないと、於高姫の事を幸せにできるお方であると太鼓判を押されている様子です」
「父上に認められるとは、なんとも羨ましい限りだ」と奇妙丸。我が名を天まで高く上げ、信長に太鼓判を押されえる程の侍になりたと強く思う。
「うちの可隆兄も必ず武名を揚げると思います!」と於勝が宣言する。
「そうだな。でもまずは、この縁談がうまく運ぶとよいの」奇妙丸の言葉に一同が頷く。
織田家中を旨く纏める事も、当主の苦労なのだと考える奇妙丸だった。
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街道沿いの溜池では、ハスの花が綺麗に咲いている。その花を横目に南に街道を降る一団は奇妙丸小姓衆、冬姫の侍女達傍衆。総勢三百人の一行だ。彼らの目的地は清州城である。
かつて祖父・織田信秀は、美濃国主・斎藤道三との戦いで、岐阜城までのこの街道を何度も行き来したという。
青木川を渡り、下津から清州にかけては斯波家の御膝元であり、元々、斯波家の本拠地は下津城だった。そして街道の交差する清州に、下津の支城として城を構築し又代の清州織田氏を置いた。
下津城は、室町期に尾張の守護所として斯波家支配の中心地として発展した。しかし、下津に居た守護代の織田敏広と、その配下の又代清州織田敏定との抗争により下津城下町は炎上、敏広は美濃に近い岩倉城へと本拠を移して上尾張を支配した。又代の敏定は領主の斯波家に取り入り清州城に主を迎えたのだった。そして、清州城を下尾張の守護所と決めて尾張を分割支配した。
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