83部:約束
関家お抱え医師の館に運ばれた於妙は、なんとか一命を取り留めた。
奇妙丸達は寝て休んでいる於妙を訪ねた。於妙は布団に寝かされている。包帯で右目にたすき掛けに巻いていて見るからに痛々しい。
生駒三吉が於妙の枕元で於妙に声を掛ける。
「於妙さん、大丈夫ですか?三吉です。」三吉が於妙を励ます。
「はい、大丈夫です。命があって良かったです」
「医者からは二か月は安静にするべきと聞きました。於妙さんの身柄は、傷が治るまで関小十郎が責任を持って面倒を見る事にしてもらいました」
「有難うございます」
他の娘達も身寄りのあるものはそこへ戻る様に、無いものは関家もしくは森家で奉公できるようにした。店から見つけた金銭は全て娘達に分け与えた。
「我が生駒家は摂津にも商売相手が御座います。貴方の御兄弟も必ず見つけ出して救出してみせます」
「三吉様、有難うございます。於仙ちゃん達にはケガが治るまで私の事は伏せていて下さい」
「わかりました。必ず良くなって下さい」
「はい」
「また、そのうちにまた見舞いに来ます」
「そこまでして頂いてなんと御礼してよいやら」
「我々が踏み込んで怪我をさせてしまったのですから当然です。本当に申し訳ない。しかし、娘たちをも殺めるとは、あやつらの悪鬼の様な所業」
「・・・親方は、恐ろしい人間でした。犠牲者が出ないように政道を正して下さい」
「しっかりと受け止めました」と奇妙丸が言う。
「あの、失礼ですがこちらは?」奇妙丸に声を掛けられ於妙が奇妙丸の方を見る。
「織田家嫡男、奇妙丸で御座る」
「え?!若様の前でこのような姿、大変失礼いたしました」
「いえ、お気にせず。於妙殿の痛みも我が織田家の痛み。必ずや平穏に暮らせる世を作ります」
「我らも心を一つにして、天下を必ずや静謐にいたします」と生駒三吉も誓う。
「有難うございます」奇妙丸達の言葉に、涙ぐむ於妙だった。
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一宮城、関小十郎の間。小十郎により部屋に呼ばれた於高姫が上座に座っている。
「於高姫様、この度はご迷惑をおかけして大変申し訳ありませんでした」畳に手をついて深々と頭を下げる小十郎。
「いえ、小十郎殿の知らぬことでしたし」
素直に頭を下げる小十郎に、誠意を見た於高姫。
「どうか領地の接する者同士、仲良くして下され! 今後は領民の為に、和田氏の入った黒田城周辺に対して警戒していきましょう」
「そうですね。こちらこそ宜しくお願いいたします」
信頼できる領主が隣に居る事で、心強く思う両者だった。
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