82部:備前長船
店の裏手道には、於八や三吉が関家の一隊を率いて待っていた。
裏口から、頭から流血した於妙が壁伝いに歩き出て来たが、道端に倒れ込む。
「於妙さん!しっかり」三吉が助け起こす。
「店の中にまだお客さんたちが、助けてあげて下さい」
「こんな時まで、お客さんの心配を、貴方という方は・・」
三吉と目配せし、於八も店内の事情を掴む。
「人を人とも思わぬそのやり方、許せるものではない!」於八が真っ先に店内に突入する。
「国友銃槍、打ち貫くぜ!」
店内から於八の声が聞こえる。
「急いでこの方を医者へ!」と守備に就いていた関家の侍に於妙を託す。
侍たちは木戸を外し於妙を乗せて走ってゆく。
三吉も店中に突撃する。
於八に横から斬りかかろうとする和田家の侍を台所にあった陶器の器を投げつけて止める。
「生駒三吉、備州長義(備前長船長義)、見参!」名乗りを上げて於八とともに和田衆に斬りかかった。
店裏の守備が崩され、雪崩をうって表玄関に逃れる和田衆。正面玄関から十人程の武者に守られ禿げ頭の大男が出て来た。その一団を突破させまいと、迎え撃つ森・関勢。
乱戦の中、関小十郎、森於高姫が騎馬で押し包み、ハゲ頭の大男を奇妙丸の待つ本陣まで追い詰めてきた。
「お主が親方か?」
奇妙丸が馬上から問う。
「もはや是までか」
質問に答えず本陣に突撃してくる親分とその一団。親分は囲みを薙ぎ払い奇妙丸の馬前まで辿り着いた。下段の構えから馬上の奇妙丸に斬りかかる。
「頭が高い!」
親分の後ろに舞い降りた伴ノ一郎が、すかさず親分の急所を刺し貫いていた。
絶命し、どすん!と前のめりに地に伏す親分。
その後も、和田衆に降伏する者は一名も無く最後まで抵抗したので、全て森・関勢によって打ち取られた。森・関の追捕衆は、あらかじめ準備した装備の為、戦いで軽い傷を負った者はいるが討たれたものはいない。
しかし、店に居た客や娘達は、半数程が殺害されるかまたは重軽症を負っていた。
*****
次の日の岐阜御殿。小姓・万見仙千代から書状を受け取る信長。
「ふうむ。・・・・・・であるか」眉間に筋が走る。
信長の静かな怒りに気付いた傍衆達の空気が凍りつく。
「和田」と一言呟く。
摂津三守護のひとり和田惟政が、信長の意に沿わぬ事を始めたのかもしれないと察する万見。
信長は岐阜御殿の玄関に向かって歩きだしていた。
第14話 完
http://17453.mitemin.net/i188907/




