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織田信忠ー奇妙丸道中記ー Lost Generation  作者: 鳥見 勝成
第十四話(一宮城編)
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79部:於妙

「三吉殿、何処へ行くのだ?」と於八。

「池田姉妹が、摂津での幼馴染が変な店に出入りするのを見たというのでな」

「摂津から尾張に来たのかな?」と於勝。

「その店に行って様子を見てみようと思う」

「判った」と興味津々になる於勝だ。

於八が三吉に聞く「あの店か?みのう屋一宮店か。呼び込みの男からして怪しいな」

「うん」と三吉。遠目に見ていても店内の様子は全く分からない。

「よし、入ってみるか!」と於八が先頭にたって入った。二人は後に続く。

店の中は暗く、多数の男客の品の無い笑い声や、娘たちの接客のヒソヒソ声が聞こえるが、中央の通路を挟んで細かく区画分けされているので、どこに何人の人がいるのか判らない。店内は香が焚かれ、不思議な匂いが充満する。

店前の説明では、女の子が隣に座り客に食事をさせてくれるらしい。

「一番にお願いしますー」入口を見張るいかつい男の低い声が響く。案内をする店員(丁稚:でっち、以下店員で)が、三人の中の年長者である於八に耳打ちする。

「大将、お一人につき女の子が一人付きますぜ」

「そ、そうか」

はじめての体験する雰囲気の店なため、於八はやや緊張気味だ。勝蔵も中で何が行われているかと無駄に廊下をうろうろして店員にジロリと睨まれている。三人は区画のうちの一つに通され、ひとつの机を囲んで座る。

「若いお二人さんは、今は混雑中なので女の子が空くまで待っててくださいね」と柄の悪そうな店員が言う。

店員と入れ違うように、着飾った娘が現れる。三人よりも年上だろう。

於八の隣に座った店の娘が、於八にしょうが入りの甘酒を勧めながら自己紹介をする。強いしょうがで打ち消されてはいるが、変わった味と舌触りだ。

「飲み物頂いても宜しいですか?」と娘が於八に聞く。

「どうぞ、好きなものを」机の上にある鈴を鳴らすと男の店員がやってきた。

「じゃあ、私はどぶろくで」と店員に自分の飲み物を注文する。

「一番さん、どぶろく入りましたー」と店員の野太い声。一方、机下で娘に手を重ねられて照れる於八。それから、小さな小皿に漬物や小魚が主体の料理が運ばれてくる。

店の壁に貼られたお品書きをみると、酒の名がいろいろと書きつられてある。最近畿内で開発されたという清酒が一番高く、二番目にどぶろくがある。

「お兄さんは何歳?」など他愛無い会話をしながら、娘が箸を持ち、於八の口に料理を運んでくれる。

於勝は自分でおかずをとり、もぐもぐと食べながら、自分も食べさせてもらいたいと羨ましげに目の前の二人のやり取りを見ている。しばらくして、濁り酒が運ばれてきた為、机を囲む四人で湯呑みにすすいでとりあえず乾杯をする。

間もなく、

「葵さーーん、三番お願いします」料理などを運ぶ係の下端の若い店員が、於八の横に居る娘の名を呼ぶ。

「ごめんなさいお兄さん、むこうの常連のお客さんからご指名があって」眉をハの字にして申し訳なさそうな笑みをみせながらそう言って、葵は席を立った。

一方、於八以外の二人にはまだ隣に女の子が座っていない。

「どうやら、年齢の若い客ほど女の人が付かないみたいだな」とさっきまでのデレ顔を誤魔化す様に、店内を見回して店のしくみを分析する於八。三吉も店の中の様子を入った時からよく観察していた。

「うむ」自分に順番が回って来なかった事に不満顔の於勝。

そうして、しばらく三人で食事をしながら話をしていたが、於八の所にも先程の女の子は戻ってくる様子がない。

「出るか」机に並べられた少ない料理は、全て食べ尽くしてしまっていた。このまま店に居ても時間の無駄だろう。

「そうだな」と同意する二人。

どうにも怪しい店なので、近所で店の評判を聞き込みしようと、捜査の方法を切り替える。

「勘定!」と店員を呼ぶ三人。柄の悪い店員がやって来た。

「御代は御一人様一両になります」と店員が指を三本立てて示す。

「え?」料理の割に法外な値段ではないかと驚く三人。

「高くないですか?」三吉が不満顔で聞く。

「料理も食べたし、女も座ってお酌したでしょ。なんか文句あるのかい?お兄さん方?」柄の悪い店員が三吉を睨み付ける。

「尾張でこんなことをして恥ずかしくないのか?」と三吉が問い返す。

「尾張だろうが関係ないね。料金はしっかり払ってくれないと」と聞く耳を持たない店員。

「なにぃ!?」

一触即発の空気が漂う。

「待って!お客さん達!」そばの区画でやり取りを見ていた於妙が通路に出てきた。

「なんだ、於妙?」

「私がお客様を説得します。少し待って下さい」

「余計な事をするな!」

「ではここで舌を噛み切りますよ」於妙が男を睨みつける。於妙も好きでこの店で働いている訳ではない様子だ。

「むう。少しだけだぞ・・」

於妙は自分が客から貰ったお金を店員に握らせた。店員はしぶしぶ外に出て行った。

生駒三吉が於妙に尋ねる。

「失礼ですが、池田姉妹を知っていますか?」

「はい、先程は驚きました。無視してしまって、二人には本当にひどい事をしてしまいました」

「なぜ、このような店で働いているのだ?好きこんで働いているようには思えないのだが」於八が不思議に思い聞いた。

「私は、病気の弟の御薬代の為に売られて、ここで働かされています。ここの娘達は皆、理由があって摂津から売られてきた女の子達です」

於妙は、弟の為にこの店に居たのだった。

「店の外には二十人程の取り立て隊が居ます。ここは大人しく料金を払って」真剣な目で見る於妙に、これ以上迷惑をかけてもと三人も従う事にする。

「判りました」と於八。

三人は、店の娘たちが事情を抱え、仕方なく従っている事が判ったので何とかしようと思った。

(於妙さん、待っていて下さい)三吉は於妙をこの境遇から救いたいと思った。


*****


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