72部:苗木を出発
いよいよ、奇妙丸も岐阜城へと引き上げる時が来た。
苗木城主・遠山直廉と、於苗御前・於竜姫親子にお礼を述べ、奇妙丸一行を厚遇してくれた苗木遠山家の家臣達にも礼を述べた。松姫護衛の出浦対馬守の姿は見えないが、遠山衆の手前もあり、遠慮したのであろうと男平八ら三人は考えていた。
苗木城城門には、松姫が奇妙丸達を見送りに来てくれていた。
「そこの貴方」松姫が勝蔵に呼びかける。
「俺ですか?」
「そう、貴方よ。この間は馬鹿呼ばわりして御免なさいね」
「いや、俺も失礼しました」と頭を下げる勝蔵。
「じゃあ、おあいこね」
クスクスと桜が笑う。最後に勝蔵にやっと謝ることができた松姫。
ポンと手を打って勘九郎(奇妙丸)が思いついた。
「松姫様への贈り物が思いつきました。私が松姫をお迎えに行くまで不自由のないように、躑躅ケ崎の館の傍に、松姫様の為の御殿を建てます」
(御殿って、甲斐まで来て建ててくれるのかしら?)と思ったが、奇妙丸の言う事を素直に信じてみようと思い直す。
「それは楽しみです、父上もきっと驚きます」
「松姫様を、雨露からも守ります」
「お手紙も下さいませ。奇妙丸様の言葉を私に届けて下さい」
「必ずや」
二人は見つめ合ったまま、しばし沈黙する。松姫は奇妙丸に見つめられると、なんだか心が温かくなるように感じられた。
「それでは松姫、名残惜しいですが、私は岐阜に戻ります。どうか、お達者で」
「奇妙丸様もお元気で」
一行は何度も振り向いて手を振った。
「松姫~~~~~!」
奇妙丸は大きく手を振る。見送る松姫は自分でも不思議に思うが、何故か涙が流れていた。
「あの姫様も、まぁ、悪いお方ではなかったな」と勝蔵が松姫を振り返り、隣の正九郎に言った。
「静かにしていれば、とても綺麗な方だ」と正九郎。
もう一度、手を振る松姫を振り返る。
(お転婆なお姫様・・・奇妙丸様は、これから大変だな)口には出さないが、そう思う四人だった。
松姫も一行の姿が見えなくなるまで、いつまでも城門で見送っていた。
*****
それから二日後の近江国、百々館にて。
小姓・万見仙千代から書状を受け取る信長。
「奇妙丸め、運がついておったな。これで、武田の動きは暫らく案じなくて良いかもしれぬ」
続いて小姓・菅屋於長が書状を捧げる。
「奇蝶も戻って来たか。儂も一度、岐阜に参ろう。桑名の信広殿にはもう少し影武者をお願いする」
「はっ ×2」仙千代と於長が唱和するように返事をする。
こうして、信長の次の進路も奇蝶の待つ岐阜城へと決まったのだった。
第12話 完
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また来週!
とりあえず、目標だった12話まで書ききる事が出来ました。応援を有り難うございます。
熊本の震災、阪神大震災の時の恐怖が蘇ります。心が痛いです。自分に何ができるか・・・・。
微力ではありますが、この小説が皆様の癒しになれば良いなと思います。
一日も早い日常の回復を願っています。




