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織田信忠ー奇妙丸道中記ー Lost Generation  作者: 鳥見 勝成
第十二話(苗木城編)
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67部:苗木城主・遠山直廉

霊峰富士を見納め、恵那山頂を後にする勘九郎(奇妙丸)一行。

遠山大和守景任の地図の通り下山する。信濃国に間違って降りると大変なことになるが、地図のおかげで道に迷うことはなかった。勘九郎達は一路、苗木城へ向けて進む。

「坊丸が、武田御坊丸かぁ」突然、坊丸の事を回顧する勝蔵。

勝蔵の言葉に頷きながら男平八も続ける。

「武田義信殿は、息子一人を残して、さぞ御無念だったろうな」

「戦国の大名家にはよくあるのだろうけれども・・」と正九郎。

「私が父になっても息子にそこまでの憎悪を向けることがあるかどうか」と勘九郎。

「信玄公は、自分が父を追い出しているから、自分も同じように息子に追い出されるのではないかと余計に不信感を持つのでしょう」と分析する男平八。

勘九郎が美濃の山並みを眺めながら呟く。

「親子とは近いようで遠いものなのか。同じ願いを持ち、同じ方向を向いて助け合えれば良いのだが」と自分は入道信玄の様にはなりたくないと思う勘九郎である。

「我々、織田家の家臣団は信長様の下に天下を統一するという目標が御座いますから、深い絆で繋がった親子の様なものです」と正九郎。

「私たちは、まるで兄弟みたいですね」と桜。

桜の言葉に同意する四人だ。旅を共にするにつれ、深くなる信頼と絆を感じている。

勘九郎(奇妙丸)一行の前に、遠山家の「丸に格子」の旗印を掲げた騎馬の一団が現れた。

「方々は、奇妙丸様の一行では御座いませぬか? お迎えに参りましたぞ」と先頭の武将が馬を下り一礼する。後ろの者も続いて下馬し控える。

「そうだが、なぜ?」と正九郎が代表して答える。

「私は苗木城主・遠山左近助直廉とおやまさこんのすけなおかど。兄の景任から貴方たちをお守りするように、と早馬で連絡が来ていたのです。我ら御山の管理者、若の安全を守る義務が御座います」

苗木城主の直廉は景任よりもやや丸い輪郭をしているが、二人とも背丈も同じくらいで、よく似ていると思う勝蔵。

勘九郎が、直廉にお辞儀する。

「私が奇妙丸です。大和守景任殿からは、苗木城に立ち寄るようにと言われておりましたので、伺おうと思っておりました」と答える。

「奇妙丸様に合流できてよかった。では、我々が城までご案内いたしまする」奇妙丸一行を発見することが出来てひと安心したという表情の直廉。兄・景任に重責を任されたと感じていたのだろう。

こうして勘九郎一行は遠山大和守景任の弟、直廉の一団に前後を固められ、初対面の者同士なのでやや緊張しながら苗木城に向かう。遠山家は織田と武田の両方に属する豪族だ。昨年の、永禄11年(1568)12月には、武田入道信玄斎の下知に従い、岩村の遠山景任・直廉の兄弟は駿河侵攻に参戦している。血の繋がりもあるが、やはり油断はできない。

やがて、行く手に苗木城が見えてきた。

正九郎が苗木城の壮観さをみて驚きの声をあげる。

「すごい石垣だ」

「私の自慢の城です」と笑う直廉。

苗木城は中津川村の北方、木曽川を眼下に望む自然石の巨岩に覆われた高森山(標高約430m)に築城された山城である。山肌から突き出す巨岩を石垣に取り込み城壁が築かれている。

「後醍醐天皇の建武新政の頃、この近くの広恵寺城に拠っていた遠山景村がこの地に高森山砦を築き、室町期に遠山景長が砦を拡張し苗木城となったのです。別名には赤壁城、霞ケ城、高森城という名があります」と直廉が城の経歴を説明する。

「遠山家が苗木の城を二百年以上かけて造ってきたのですね」と歴史を感じる勘九郎。

「我が一族が守り抜いてきた城です」と得意気に自慢する直廉だった。


*****


苗木城、本丸の居館。〈来客の間〉に通された一行は、休息の後に〈謁見の間〉に招待された。

部屋には内着に着替えた城主・直廉が待っていた。奇妙丸一行の為に山の幸、川の幸をふんだんに揃えた豪華な食事が用意してあった。

「奇妙丸殿、この度は国境くにざかいの城まで来て頂き有難うございまする」

「快くお迎え頂き、ありがたく思っております」と全員でお辞儀する。直廉の丁寧な扱いに勘九郎一行の緊張もほぐれてきていた。

「我が家族を紹介いたしまする」と直廉が隣の部屋に控える美女を二人手招きする。しずしずと入室する婦人達。

「直廉の妻の於苗に御座いまする」と勘九郎一同にお辞儀をした。

苗木城主・遠山左近助直廉の室・於苗御前は信秀の娘で、信長の妹であり、奇妙丸の叔母にあたる。

続けて直廉が、於苗に似た美人を紹介する。

「こちらは、娘の於竜に御座いまする」

於竜は永禄八年(1565)に諏訪勝頼の妻となり、信濃の諏訪に嫁いでいた。二年前に第一子を出産したが、産後の肥立ちが悪く長くは歩けない程に弱っていた。夫の勝頼が生まれ故郷を一目でも見れば元気も出るだろうと、苗木城まで送り届けてくれていたのだった。

「お目にかかれて光栄です」

「私も奇妙丸様にお会いできて嬉しいです。我が夫の勝頼様はとても情のあるお方ですので、織田と武田家は末長く仲良くやっていけると思います」

「勝頼殿は、お優しい方なのですね」

「はい、素晴らしい方です」

(政略婚でもこのように深くお互いを想うことができるのだな。私も松姫と、お二人の様な夫婦になれるといいな)

「私の体調が良くなれば、また諏訪に戻りたいと考えています。勝頼様に会いたいですし」

「しっかり養生なされて、元気になって下さい」

「義父・武田信玄様は、信虎公を国から追い出し、嫡男の義信様までお手に掛けてしまわれた修羅の人です。息子・太郎の身が心配なので、私は必ず戻らねば」

於竜姫も平和の為に戦っているのだと気付いた奇妙丸。

「私も両家の為に出来る限りの事をいたします」と松姫との婚約を成就したいと思うのだった。

「では、まずは苗木自慢の料理を召し上がって頂きながら」と直廉が食事を勧める。皆、緊張がほぐれ、突然に空腹に気付いた。五人の表情が明るくなる。

こうして、食事をしながら、次は勘九郎一行が自己紹介をしていった。

「皆さま、苗木を我が家だと思って、どうぞごゆっくりしていって下さい」と於苗御前。

「ありがたきお言葉」と改めて礼をする五人だった。

食事を終えてからも、しばらく旅の間の出来事など、歓談していた。

やや息苦しそうな様子の於竜姫を心配した直廉が、

「於竜、大丈夫か?」と於竜姫の顔を覗き込む。

「大丈夫です」と気丈な於竜姫。奇妙丸一行に会えた事が嬉しく少し無理をしていたようだ。

「御身体を労わって下さい」と奇妙丸一行も無理をさせてはいけないと感じた。

「では皆様、さぞお疲れでしょう、風呂も沸かしてありますので、ご自由にお入りになって下さい」と直廉。一同頷き、直廉の心遣いに感謝する。

於竜姫が、声を振り絞るようにして、

「奇妙丸様、明日、私の部屋に来て頂いて宜しいでしょうか?」と思い詰めたような表情でお願いをした。

「はい、お加減の宜しい時に、御呼びください」

奇妙丸一行は恭しくお辞儀をして部屋を退出した。


*****


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