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織田信忠ー奇妙丸道中記ー Lost Generation  作者: 鳥見 勝成
第十一話(岩村城編)
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64部:辻和泉守

思わぬ道草により日も暮れはじめたので、近くの山小屋に宿をとることにした勘九郎一行。

一人ずつ交代で、外の見張りをすることにして、桜と坊丸を抜いた五人で順番に睡眠をとることにした。

襲撃者を警戒しての登山だったので、目に見えない疲労が蓄積していたのだろう。坊丸はぐっすり眠っている。

見張り番となり、外で星の流れを読む熊若老人。

(関係のない旅の人達を巻き込んで迷惑をかけるとは儂の仕事の掟に反する。老いたりとはいえ、儂は忍びの熊若だ。透波衆を、この一命に代えても片付けに行くか)

熊若老人は山小屋を抜け出して、透波衆の根城を調べに出た。同じ忍び稼業、どこに潜んでいるかは直感で判る。熊若は勝手知ったる山の中の獣道を音もなく走る。

この近くには修験者が瞑想に籠る洞窟があるのだ。そこが怪しいと睨んだ熊若老人は気配を消して忍び寄った。洞窟の入り口に人の気配はない。

更に傍に寄ってみようとした熊若の足に縄がひっかかった。

(しまった!)びゅん!と草むらから飛んできた矢が太ももに刺さった。

「かかったな熊若。熊用のからくり仕掛けを試しに使ってみたのだ」と山に詳しい透波の藤蔵。

「それは蝦夷えみしの“仕掛け弓”というものだ」勝ち誇ったように、辻和泉守が言う。

「高坂様から頂いた毒が塗ってある。お主はもう、助からんぞ」

(くっ、人の気配がなく油断した)予想外に毒の回りが速い。矢の刺さった片足が痺れ、思うように動かせなくなる。

「ふふふ、もう動けぬだろう」

「うっ」

「どれ、とどめを刺してやろう」と抜刀した藤蔵が近寄り、熊若を見下ろす。刀が、怪しい光を放ち、熊若めがけ振り下ろされようとする。

グサッ! その瞬間、藤蔵の喉に手裏剣が刺さった。

「ぐぇっ」藤蔵は膝から崩れ落ちるように倒れ込む。

「何奴?!」辻和泉守は、手裏剣を警戒しその場を離れ森の中へと隠れる。森の中から襲撃者の姿を探すが確認できない。藤蔵は致命傷を受け、すでに息はないようだ。敵の数が把握できない辻和泉守は、分が悪いと判断した。

辻和泉守は逃げ去り、そこへ熊若の後を追って来た桜が現れる。

「熊若殿、大丈夫ですか?すぐ毒を抜きます」

「いや、無理じゃ。奴らの仲間がじきにやって来る。早く逃げなされ」

洞窟の外での異変を感じた辻和泉配下の透波衆が、洞窟の中から駆けつけてくる音がする。

熊若が最後の力を振り絞って立ち上がった。仕込み杖を引き抜く熊若。

「儂が熊若じゃ、来い、青二才ども!」

「覚悟!」透波衆が襲いかかる。熊若は仕込杖を引き抜いて、両手に持った杖と仕込刀を振るって応戦する。

「抜け忍には死を!」襲い掛かる十人衆に振り向きざま仕込刀を刺す熊若。

「まだまだやられる訳にはいかん!」

次々と攻撃を繰り出す透波衆。そこへ、桜を追ってきた伴ノ衆も駆けつけて来たが、偶然に辻和泉守と遭遇する。森の中で乱戦が始まった。

伴一郎左と鍔競りあう辻和泉守。

「伴ノ、お主等は元々甲賀で、六角様の加護の下に暮らしてきたことを忘れたか!」

「六角は既に滅んだではないか!」

「織田家には我らの主家・六角氏を滅ぼした罪を償ってもらう、それが筋だろう!」

「我ら兄弟はもともと織田家の臣だ!」

伴ノ衆と、辻十人衆の生き残り七名の元甲賀忍者同士の戦いが始まった。


*****


森のあちこちで伴ノ衆と、辻十人衆の乱戦が続く。

暗闇の中、その様子を森の木々の上から見つめる一団があった。

「あの装備は、甲賀衆か?」

「武田と織田のようです」

「ここは織田方に味方しよう」木立の上で仁王のような逞しい体躯の男が言うと、配下の者が弓を構えた。

「ひゅーーーーーん」と音のなる鏑矢かぶらやが放たれる。

戦場に、第三者として乱戦に加わる合図をしたのだ。

「三河徳川の者でござる!伴ノ衆に助太刀いたす」と森の中に大声が響く。

「おお」低く唸る透波衆。状況が不利になったことを悟ったが、もはやどうする事もできない。

圧倒的戦力差に、辻の透波衆が倒されてゆく。

劣勢になり追い詰められてゆく透波衆が、大きな岩裏の一か所に固まった。状況を打開し脱出する打ち合わせをするつもりなのだろう。

伴一郎左が巨岩の前に立ち弓を構えた。

「大国火矢!火炎弾!」伴一郎左の弓弦が唸る。

ドドーーーーーーーーン!!と爆裂音とともに岩石が崩壊する。

火の海からたまらず飛び出した辻和泉守を、途中から参戦した巨躯の男が槍で刺し貫ぬく。辻和泉守も男に劣らない体格の持ち主だが、男は軽々と持ち上げて谷底へと放り投げた。

「うぉおおおお!」辻和泉守が放物線を描いて転落してゆく。

谷底を見つめる伴一郎左。

巨躯の男が一郎左の方へ振り返り、口を開いた。

「私は伊賀・三河兼任守護の仁木氏に従い、三河に移住した伊賀上忍・服部半三保長の六男、服部半蔵正成(17歳)である。今は縁あって徳川家康殿に従っている。敵は甲州勢とみたので加勢した」

家康の命で木曽を抜け、深志の旧勢力・小笠原氏の残党を集め武田家への一揆を先導する予定だった。しかし偶然この場に居合わせたので、織田家の伴ノ衆に加勢したのだ。

「かたじけない」と返す伴一郎左。

「なぜここに居るのかは言えぬ。我らの事は他言無用で頼む」

「うむ」

「では、さらばで御座るよ」

「この恩は、いつか返す」

「はははははっ」笑い声で返し、服部半蔵と伊賀の手下衆はあっという間に去って行った。

(伊賀衆か・・・、手強そうだな)と伴ノ衆の誰もが感じた。

服部半蔵は、既にもう現場から半里は離れている。

「奇妙丸殿に従う甲賀衆か・・」

(いずれ甲賀の伴氏と忍びの頂点を争う時が来るかもしれぬな)はるか先の事などを考えながら、服部半蔵は信濃に向けて駆けて行った。


*****


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