60部:飯羽間での勝利
飯羽間城主・遠山甚太郎友勝が、四人の前に進み出て土下座し謝罪する。
「若、すみませんでした」
これには道場に居た飯羽間衆も驚き、一斉に同じように床に額を付けて礼をした。
続けて久兵衛友忠も前に進み出て土下座する。
「この遠山友忠、信長様について行くと決めておりまする。この度の無礼、どうか平に御容赦を」
「うむ、確かに試合は公正だったしな。非礼は不問にしよう」と勘九郎。
再び深くお辞儀をする友勝と友忠に、友重と友政兄弟。友信だけは父・友忠が敗北した時点で道場を出て館に一足策に戻っていた。
「黒幌衆川尻流剣術。織田家中の侍は恐るべしです」と友忠が続ける。
「若は木刀でも剣筋に迷いはありませんでしたな。対鎧武者の真剣剣術の前に、我が飯羽間の陰流は敗北でございまする」
「奇妙丸様の供の者達の腕前も素晴らしかった。織田家は安泰ですな。ほっほっほっほ」と悪びれず三人に笑顔をむける甚太郎友勝。
「飯羽間衆、これからは織田家の為に働いてもらうぞ」森於勝が周囲を睨み付ける。
「お任せくだされ」と再び床に額がつくまで頭を下げた久兵衛友忠だった。さんざん非礼を働いた友忠だったので、勝蔵の非礼に返す言葉はない。
*****
その頃、剣道場の外では伴ノ衆が、奇妙丸達の動静を観察いしていた。
一郎左は、道場内に異変があれば、桜の合図次第で、いつでも飯羽間城を吹き飛ばす準備をしていた。
剣道場周辺や城外に、飯羽間衆の完全武装組が用意されなかったので、遠山甚太郎友勝が奇妙丸一行を害するつもりはなさそうであると読んではいた。
「問題はなさそうだが、油断せず領内を抜けるまでは備えておこう」
「了解した」と伴ノ兄弟衆。
「あとで桜から試合の内容を聞きたいものだな」と二郎左。
「誠に」と三郎左が答えた。
兄弟一同、同じ間で頷いていた。
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剣道場を出てから、甚太郎友勝が是非に本丸の館に寄って行ってくれと頼んだが、急ぎの旅ということで勘九郎は断っていた。
城門までは、次郎兵衛友重と三郎兵衛友政の兄弟が見送りについて来た。
「兄の右衛門尉友信が大変失礼しました」と謝罪をする友重。「兄の友信は我々とは別腹の兄弟でして、織田家の血が薄いのです。なので、家督を継ぐ自分が誰よりも強くならねばと無理をなされているのです」と三郎兵衛友政が兄をかばう。
「気持ちはわからないでもない。しかし、金輪際、立合いの押し売りは止めにされよ」と勘九郎。
兄弟は顔を見合わせたが、決意したようだ。
「我らが必ず祖父に伝えまする」
「うむ。よろしく頼むぞ」勘九郎は二人の方に手を置いた。
「では、さらばじゃ」
こうして、飯羽間城下には僅かな時間のみ立ち寄って、次の城下町へと出発した。
最後に久兵衛友忠の次男・三男が勇気をもって祖父に伝えると言ってくれたことが、一行が飯羽間遠山家に期待してもよいかなという気持ちにさせてくれたのだった。
*****
数日後の近江長光寺城。
「信長様、池田正九郎から書状です」と万見仙千代が捧げる。
「ふむ・・・・・・、であるか」信長が頷く。
「時には力で従わせる事も必要であるからな」
「はっ」と答える仙千代。
「北畠を支援する伊勢湾沿岸の湊の船主、商人、鳥羽の海賊、従わぬ者は討伐せねばならない。津田一安、瀧川一益、尾張・三河の水軍を率いて湊を燃やせと伝えよ」
「ははっ」仙千代が各将への連絡の早馬を手配すべく退出していった。
第10話 完
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