6部:乱戦
荒ぶる僧兵が絶叫する。
「この! 仲間をやりやがって!」
「手加減したら調子こきやがって! もう殺してやるぞ!」
僧兵たちが、思いのまま奇妙丸達を罵る。
指導者の山路弾正が後方から叫ぶ、
「こいつらの腕前は侮れぬ。三対一でいくぞっ!」
「おうっ!」
弾正の的確な指図に僧兵たちの連携がよくなった。
「むっ」
この人数に薙刀、さすがに部が悪いか、我らも体制を立て直さねば。と奇妙丸が考えたその時、
「火炎弾!」
於八が懐から球状の塊を取り出し、敵方の足元に叩きつけた。
一面に煙幕がふきだし、周囲はさっぱり見えない。
そして、咳き込む程にとにかく煙たい。
「うわ~、目に染みる」
ゴホゴホ。
敵も味方も咳き込みだした。
「於八、それ使わないほうがいい!」
と動揺した奇妙丸も思わず注意する。
「火薬調合に失敗したでござる」
破裂弾で吹き飛ばすつもりが予想外のことに焦る於八。
「確実にひとりずつやる!それ大事!」
と煙の中なんとか敵を捌く鶴千代。
「若、分が悪うござる」
と於勝も断じる。
全員、引き際とみたようだ。
煙の中から、奇妙丸の背後に近寄る影に、於八が気付く。
「若!あぶない!」
シュッ!と
予想外の方向から何かが空中を飛ぶ。
奇妙丸への背後からの奇襲者に、手裏剣が突き立っていた。
「なにやつ!」
突然の乱入者に、優勢な勢いを邪魔された僧兵方は動揺を隠せない。
「加勢つかまつりまするっ!」
黒装束をまとった集団が、いつのまにか、屋敷や塀の屋根上から中庭を見下ろしていた。
http://17453.mitemin.net/i186816/ 伴ノ一郎左衛門イメージ
「頼む!」と味方と判断した奇妙丸。
たちまちのうちに攻守の形成が逆転した。
得体のしれぬ増援に、劣勢と判断した弾正は退き時とみた。
「逃げるぞ!」
「退け!」
「おぼえてやがれ~!」
寺の中に充満する煙の中、僧兵たちは一斉に寺の裏手へ逃げ始めた。
寺の裏には水路があり。その水門から僧兵たちの乗ったヒラタ船が出港する。
「準備のいい奴らだ」
敵ながら見事な去り際だ。
船のない奇妙丸たちは、見送るしかなった。
「まあよい。これで、この辺りからは手を引くだろう。
城に戻ったらあおの覆面の男や僧兵の事を各地に緊急手配しよう」
奇妙丸は三人の様子が気になった。
「皆、怪我はないか?」
於勝が答える。
「皆、かすり傷でござる」
「そうか、命があって良かった。すまなかったな」
安心したところで、加勢に入った集団が気になる。
「ところで、お主達は?」
「*甲賀流の伴十左衛門が子、一郎に御座いまする」
・・・・*伴家は甲賀五十三家のうちの軍功多き二十一家で最も有力な一族と言われている。
続けて黒装束姿の者達が名乗る。
「二郎」
「三郎」
「四郎」
「五郎にございまする」
一郎が恭しく挨拶する。
「騎馬で駆けてゆくところを見ましたので、一大事かと思い追いかけて参りました」
「隠密での検分のつもりだったんだが、身元がバレていたか」
と舌を出す奇妙丸。
「いや、まさか奇妙丸様が御人数の内におられるとは思ってもみませんでした」
改めて伴兄弟を見渡す。屈強そうな兄弟達だ。
仲間に加わってくれれば大変な戦力だと感じる。
「お主達の腕前、私は気にいったぞ、私に仕えないか?」
伴ノ一郎左達が驚きの顔をする。いきなり仕官が叶うとは思ってもいなかったのだ。
「はい!、有難き幸せに御座いまする!」
「では早速だが、助けたこの人たちを家に送ってやってくれないか」
「承知つかまつりました」
「それから領主の多治見殿も疑わしいので気を付けて様子を見届けて欲しい」
「大役、有り難き幸せ」
「お主たち兄弟に、今日の褒美をやるから、明日にでも岐阜城にきて、紫か青直垂のものに声をかけてくれ、城外で待たせることになるが、必ずあおう」
「承知!」
何か、達成感を得た奇妙丸。
「では、帰ろう」
「「はい! ×3」」
流石に命を懸けた乱闘に、四人とも未だ気持ちが昂ぶっていた。