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織田信忠ー奇妙丸道中記ー Lost Generation  作者: 鳥見 勝成
第十話(飯羽間城編)
59/404

59部:友信戦、友忠戦

〈三番勝負、副将戦〉

長男の右衛門尉友信に対するは、梶原於八だ。

蹲踞そんきょで呼吸を整える二人。

「始め!」

いきなりの開始の合図とともに、木刀を振り上げ先制を狙う友信。

瞬時に身体をひねり木刀をかわす於八。

反転ざま、走り抜けようとする友信の背中に突きを連打する。

友信も早い反転で対応する。すり足で後ずさる友信の背後にいた観客は、友信の逃げる空間をつくるように慌てて場所を移動する。

徐々に於八の鋭い連続の突きを躱せなくなり、友信は道場の壁際まで追い込まれた。

「オリャー!」於八の気合の一撃に友信は勢いよく後ろに尻もちをつく。

転んだ友信の頭の上の道場の壁には於八の木刀が突き刺さっている。

友信が転んでいなければ、於八の木刀は喉に突き立っていたかもしれない。

カラーン!と友信の放り出した木刀が床に落ちる。

見下ろす於八に両手をあげて降伏する友信。

「むむむ。お見事!」友勝が手を打つ。明らかに不機嫌な顔だ。

於八は友信を一瞥して引き下がった。尻もちをついた右衛門尉友信は、家来衆に助け起こされるもその手をぞんざいに振り払った。


*****


〈四番勝負、大将戦〉

久兵衛友忠と奇妙丸が前に出る。道場は緊張感から静まり返っている。

「息子たちの仇を取らねばなりませぬな。手加減しませんぞ織田奇妙丸殿!」

友忠は三人の息子全員が負けているとあって、同じ大将を背負う奇妙丸を鋭く睨み付け威嚇する。

奇妙丸は黙って試合位置につく。

蹲踞そんきょで呼吸を整える二人。

友忠は何度も合戦の経験を経てきたであろう猛者である。しかし、奇妙丸も気後れすることはない。織田嫡男として課せられた過酷な修行に耐えてきた胆力は、父である信長にも劣らないと自信を持っている。

奇妙丸は、父と肩を並べる武人として歴史に名を残すつもりでいる。しかし、それで満足ではない。奇妙丸の目指すところはその先、遥かなる高みだ。

「はじめ!」友勝が合図の声をかけた。

二人は互いに間合いをとり、跳躍で懐に入る隙を見計らっている。二人は距離を一定にしたまま横に流れるように進み、円を描くように移動し始めた。そして、次第にその速度が上がってゆく。

この速さでは止まるのも厳しい。観客の誰もがそう思った瞬間、奇妙丸が跳躍した。

左方から右方へ流れる奇妙丸の木刀。

(これは実戦の刀を)と友忠が一瞬躊躇ちゅうちょした。ただ首筋をめがけて迷いのない奇妙丸の流れるような動きに、友忠の攻撃・防御の判断に迷いが生じたのだった。防御を優先した友忠の喉元にピタリと木刀があてられて停止していた。

友忠が、胸元で腕を畳みこむように狭苦しい姿勢で防御しようとした木刀が、あとからついてくる。

カーーーーーーン!と木刀と木刀のぶつかった乾いた音が道場に響く。

「川尻流、下弦の月だ」勘九郎が言う。

もし鎧武者同士であれば、友忠がそのまま相討ち覚悟で胴を斬りこんでいいたとしても、刀は胴部の鎧に弾かれてしまっていただろう。また、喉元の防御に走ったとしても、力の入らぬ姿勢で刀は弾かれ友忠の首が飛んでいただろう。いずれにしても久兵衛友忠の敗北だった。

「ま、参った」勘九郎から一歩離れ、久兵衛友忠は頭を下げる。

「お見事!」友勝が拍手をする。面目丸潰れと諦め、なんとか空元気で笑顔を取り繕っている。しかし、その笑みは引きつっている。

飯羽間の一門と家来衆達も拍手を送り始め、次第に大きな拍手へと変わっていった。

「ほっほっほっ、友忠、叩きのめす気で逆に叩きのめされたのう!」

(初陣はまだのはずだが、奇妙丸殿は実戦の経験があるようだの。それも命をかけた真剣勝負の・・)


*****


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