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織田信忠ー奇妙丸道中記ー Lost Generation  作者: 鳥見 勝成
第十話(飯羽間城編)
57/404

57部:遠山三兄弟

飯羽間いいばま城、切り捨てくるわおとり郭とも)。


ここには大きな剣道場が建てられていた。

「女、お前に用はない」そう言うと、桜を追い払おうとする。

「剣豪に師事されたとのこと。こんな機会は二度とありません。ぜひとも、立合い見学の許可をいただきたいです」

「試合を見学したいと?」

「よろしくお願いします」桜が礼儀正しくお辞儀をする。

「まあよいか、着いてくることを許す」

(仲間が無様に負けるところをみるがよい)

右衛門尉友信がニヤリと笑う。


厩舎に馬を繋いでいる間も、右衛門尉友信の家来衆は槍を持ったまま傍を離れない。逃げる事を用心しているのだろう。

「では、我らが道場に来て頂こう」

勘九郎一行は槍を向けられたまま道場の中へと招かれた。

「甚太郎御爺様、これで九十七人目の対戦者で御座います」

道場の奥から、のしのしと熊のようなゆっくりとした動きで、いかつい顔の男が現れた。

「もうすぐ百人目か」

(この方が信秀様の婿である甚太郎友勝殿であろうか?)

続いて、「私もお前たちの試合の立会人を務めよう」そう言って颯爽と師範代らしき風体の人物も現れる。見るからに鍛えられた戦国武将らしい体格だ。

(こちらが久兵衛友忠殿のようだな。甚太郎友勝と人相が似ている)

「父上、行司(審判)をお願いいたしまする」と長男の右衛門尉友信が申し出る。

「まあまあ、焦るでない」と祖父の甚太郎友勝が、孫の右衛門尉友信を制する。

「試合を受けて下さる皆様はどちらの方々だ」行司(審判)を頼まれた父の久兵衛友忠は相手方の身の上や、技量が気になるようだ。

「まずは名乗って頂こう」と久兵衛友忠。強引な親子である。

勘九郎がズイと前に出る。

「余は、織田奇妙丸である」

勘九郎が名乗ると、驚きのあまり道場が静まり返る。

「し、し、証拠を見せろ!!」動揺し、顔を真っ赤にして叫ぶ右衛門尉友信。

ドンッと床を踏み鳴らし「無礼であろう!」と森勝蔵が一喝する。

奇妙丸が勝蔵を手で制する。織田縁戚とはいえ、下手に動くと全員何をされるか判らない状況でもある。

「証拠はこれだ」

背負っていた太刀袋の紐を解き、中から“相州貞宗”の太刀を取り出した。

いつでも太刀を引き抜けるよう、鍔つばに親指をかける。何かあれば遠山一族を斬る覚悟だ。

「ほっほっほっほっ」と甚太郎友勝が笑う。

「これは甥御殿に失礼つかまった。我が飯羽間遠山は尚武の家風ゆえ、この一件はお許し下され」

「信長様の御嫡子に我が城へ来て頂けるなど、近年稀にみる当家の誉れ」と久兵衛友忠。

「何故、このように試合をするのだ」と勘九郎が聞く。

「以前、剣豪・上泉信綱殿とその弟子・疋田景兼*殿が上洛中に立ち寄られ、我らは剣の指導を受けたのですよ。それから、我が家の剣術の級が知りたくなりましてな」ニヤリとする友勝。

広く日ノ本の剣豪と交わろうと思いまして、中仙道の立地を生かし、関東と京都を往還される武芸者に挑戦させて頂いているのですよ」

(*遠山氏と同じ藤原氏を祖とする疋田氏。後に勘九郎信忠の師となる)


「しかし、このように強引な手法は問題があるのではないか?」

「昨今、試合を受けて下さる腕に覚えがある武芸者の方が、なかなか現れなくなりましたのでな。仕方がないのです」と甚太郎友勝は悪びれた風もない。

突然「俺は織田の家臣になった覚えはないぞ!」右衛門尉友信が言い放った。

「これこれ、友信。控えぬか」と厳しい顔付きで制する久兵衛友忠。

「ほっほっほっ。生意気な盛りでしての、お許しあれ」と髭を触りながら仲介する甚太郎友勝。

(こちらに対して生意気だと言っているように聞こえる)と勝蔵。

「我が息子たちに御座いまする。これ、挨拶せよ」父である久兵衛友忠が即す。

「遠山右衛門尉友信15歳だ」頭は下げない。


次に道場に居た二人が名乗り出てきた。

「遠山次郎兵衛友重14歳で御座る」兄に比べればやや柔和な顔をしている。

「年齢も近きゆえ、奇妙丸殿と兄弟のように御付き合いができればと思いまする」とお辞儀をする。

「遠山三郎兵衛友政13歳で御座いまする」礼儀正しくお辞儀する三男。

「ほっほっほっ、我が孫の三人とも剣の腕前は若にも負けませんぞ」と身内びいきな祖父の友勝。

「お前、腕に自信はあるか」と勘九郎に尋ねる長男の友信。

「誰に向かって言っているのだ」とさすがの勘九郎も友信の無礼な物言いに腹を立てる。

「ほっほっほっ。友信黙らぬか」と甚太郎友勝がすごむ。右衛門尉友信は祖父に一礼する。

「そちらの御供の方々も、若に付き添っておられるのだから、それ相応の腕前なのでしょうな。名乗って頂きましょうか」

甚太郎友勝の挑発的な発言に苛立つ三人だが、勘九郎の手前、素直に名乗り出る。

「梶原家の於八だ」

「森家の於勝だ」

「池田家の九郎丸だ」

「ほっほっほっ、これはこれは、錚々たる面々では御座いませぬか」と甚太郎友勝。

「いずれ織田家の柱石となる方々。しかし、我らに敵いますかな?」と久兵衛友忠。

(嫌味な奴らだ)桜は苛立ちを抑え、じっと事の成り行きを黙って見守る。

「噂に名高い森於勝に梶原於八、池田九郎丸、そして奇妙丸殿。是非、我ら親子との立合いを」と遠山久兵衛友忠が言い出した。

(やはり、生意気な右衛門尉友信の父だ。まぎれもなく親子だな)と於八。

「我らは縁戚の間柄でありますし、ここで遠慮し合うこともありませぬな。どうでしょう、奇妙丸殿、私の息子たちに修行を付けてやってくれませぬか。よろしいですな?」

「どうしても、でござるか」勘九郎が返答に窮している。

「皆さまが大人しく負けを認め遠山家の人質となって頂けるのなら、試合の必要はない」と久兵衛友忠。

「おのれ!無礼な!」と池田正九郎が本気で怒り出したのを、勘九郎は己の怒りをぐっと堪え、手で制す。

「ぜひとも皆様と本気の試合がしたい。我々が勝ったあかつきには、そちらの刀を頂こうか」と右衛門尉友信が言い出した。

「では、こちらが勝った場合、お主らは何を差し出すのだ」と勝蔵。

「お主の事を主君として認めてやろう」と奇妙丸を指さす。

(生意気な奴だ)

心の中で舌打ちする勝蔵。

他の二人も同じ気持ちだろう。

「この試合、受けて立つ!」と勘九郎が言い切った。

遠山親子は何が目的なのか。純粋に剣の試合が目的とは思えぬ、脅しとも取れる友勝達の態度。負ければ織田家を侮るかもしれぬ。

「お主らが負けた場合、今までの無礼、詫びてもらうぞ」勝蔵が睨み付ける。

「はて、何か無礼なことは致しましたでしょうか?」髭を触りながら、甚太郎友勝はまたも悪びれもせず答える。

全員、腸はらわたが煮えたぎっていた。

((負けるわけにはゆかぬ!! ×4))


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