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54部:御嶽城

御嶽城本丸。

小栗教久が小原城を奪いに行き、山路弾正は御嶽城で朗報を待っていた。そして、牢獄の各部屋の人質の様子を見て回っていた。

桜と於乱の部屋の前で立ち止まり中を覗き込む。

「お主たち、子供の割に煩うるさくないのだな」

「・・・」無言で睨み返す於乱、そして桜。

「フフフ、私は子供が嫌いだったが、お主達は好きになれそうだ」

霧が立ち込める御嶽城。この霧は小栗衆でも石垣がどこまで続くか棒で確かめねば誤って落ちるほどだ。

しかし、この霧に乗じて伴ノ衆は城門の各所に於八の特性爆薬を仕掛けていた。

「私たちにとって霧は能力を発揮する舞台なのだよ」と二郎左。

「行くぞ」と一郎左が烽火替わりの“*大国火矢だいこくびや”を射て合図すると同時に、御嶽城の城門や櫓の各所で爆発が起きた。

 (*ロケット花火のような発光する矢)

「なんだ、この爆発音は!?」と慌てた小栗家の牢番が、外へと駆け出して行った。

「弾正様、森家の兵が城門に殺到しているそうです」火急を知らせる僧兵姿の家来衆。

山路弾正は、小栗勢が森・平井の罠に落ちたことを悟った。

しかし、弾正はこの異変にも冷静だ。

「小栗に義理立てしても仕方ない。城が落ちる前にひきあげるぞ!」と素早く見切りをつけ配下に指示を出す。

暗闇と爆発音、そして蛇の進入に怯える御栄。他の部屋の平井親子は、恐ろしさから声も発せず地に伏している。

扉の小窓にしがみつく御栄。

「助けて、鍵を開けて!」と伸ばした手が弾正に触れた瞬間、弾正は御栄の顔を睨みつける。

「自分でなんとかしろ、お主ら一族の者、この弾正が終生呪ってやるぞ」弾正はそう言い残し去ってゆく。

「ヒイイ」と弾正の呪いの言葉と、相次ぐ爆発音に驚いて御栄は気を失ってしまった。

一方、桜は爆発音によって牢番がいなくなったのを見計らい、窓から手を伸ばして錠を外した。

「さあ、この爆発に乗じて逃げましょう」

「母上の牢も頼む!」於乱が桜にすがる。

「もちろんです」

そこへ潜入した伴ノ衆が、桜達と平井親子を救いに駆けつけた。

二郎、三郎、四郎が御栄と平井親子の牢獄をそれぞれ解錠し皆を助け出す。

「兄さん!」

「無事でなによりだ」桜の無事を確認して、安心した一郎左達だった。

牢から運び出された気を失っている御栄に駆けより介抱する桜と於乱。

「母上」


*****


伴ノ衆が破壊した正門から突入した勝蔵の気迫は凄まじかった。

合流した森衆の先頭を懸け、向かってくる者をすれ違い様に一突きにし、当身で吹き飛ばす。二ノ丸、三ノ丸を一人で次々に突破し、御嶽城留守居の小栗一族をほぼ全滅させてしまった。しかし、勝蔵が本丸にたどり着いた時には、弾正達はすでに城から姿を消していた。

桜と於乱の介抱で、やっと目覚めた御栄に勝蔵が駆け寄る。

「母上!」全身を血で赤く染めた姿は、まるで阿修羅のようである。

駆け寄ってくる我が子の血まみれな姿を見て「ひいっ」と怯えた声をあげて御栄は再び気絶してしまう。於乱も兄の姿に驚き、思わず桜にしがみついた。

続いて勘九郎も森衆を引き連れ本丸にやって来た。伴ノ衆と桜、平井・森親子の無事な姿に安心したが、勝蔵の頭から朱色に染まった姿に、

「勝蔵、ここに来るまでに話が通じるものがいなかったのか」と聞いた。

「この城には、人と呼べる者などいませんでしたよ」と勝蔵。

家族を人質にとられた怒りがあまりに強かったのだろう。

平井光村と勝蔵の家族を救出できた事は良かったが、小栗衆の殲滅は残念な結果だった。勘九郎には救える命もあったのではないかと思えてくる。

(勝蔵にこれほどの鬼の気質があったとは・・)日頃の明るい勝蔵からは想像できぬ阿修羅の姿だった。戦場では自分も鬼のようになることがあるのだろうか。

母・御栄を介抱する於乱の姿を見て、

「於乱のような世代には人斬りをしないで済む平和な世を、我らの世代で造らねばな」

誰に語りかけるでもなく独り言を呟き、自分が戦国を終わらせると決意を新たにする勘九郎だった。


*****

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