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53部:小原城

御嶽城本丸の地下階の牢獄。

入口から四部屋が並んで造られている。手前に御栄。次に於乱と桜、その奥に平井の母、そして妻が閉じ込められている。

幼いという事で桜と於乱は同室である。

「於乱殿、御免なさい油断しました」

「桜お姉ちゃんが悪いんじゃないよ、僕たちを守るために残ってくれたんでしょう」

「賢い子ね、きっとお兄さん達が助けに来てくれるから」

(兄上たちは私の目印に気付いてくれるはず)

別の地下牢には御栄が閉じ込められている。御栄の部屋には蛇がいた、御栄は蛇だけは小さい頃から苦手だった。目が合っただけでも気持ち悪さで卒倒しそうになる。

「へっ、蛇、蛇は嫌いなの、いやあ近寄らないで!」と石垣の隙間から次々現れる蛇をひどく恐れ、逃れようとしている。

御栄の牢獄は石垣に面し、そこは蛇の巣となっていた。

「やああああああ! いやあああああ!!」と御栄の叫び声が地下牢に響く。

「母上・・・・」於乱は自分の母親がこれ程までに取り乱した声を聞いたことがない。

「御栄様!」

「母上!」と於乱が呼びかけても、御栄の元へ声は届いて無い様だ。

地下に響く御栄の声。

「いやあああああ!!!」

御栄の半狂乱の声がやまない。

小栗信濃守と覆面の男が、地下階に現れた。

「煩いぞ、御栄殿」と小栗が怒鳴る。

地下牢入口の小窓にしがみつく御栄。

「お願いです蛇を、蛇をどこかにやってください!」

「南無阿弥陀仏を唱える事だ」と覆面の男。

「ひぃいい!!」と背後の蛇の気配におびえる御栄。

「阿弥陀様の御加護があれば、死んでも地獄に落ちる事はない。ほれ、ほかの牢からも念仏の声が聞こえるであろう」

確かに、複数の小さな声で念仏を唱える声が聞こえた。これは先に閉じ込められた平井親子の声だ。

「お願い、助けて!」涙を流して助けを乞う御栄。

「阿弥陀様に縋るがよい」覆面の下で、ニヤリと笑う山路弾正。

「南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏・・・」

御栄は恐怖から一心不乱にお経を唱え始めた。

(素直なものだ、これで少しは騒がしくなくなる)

「フハハハハハ!」と弾正の笑い声が響く。

「南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏・・・」

地下牢には御栄の念仏を唱える声が続く。

「母様」

母を想う乱法師だった。


*****


大手門を開放し、平井勢の退去した小原城。小原城は西山の丘陵上(標高約230m)に築かれている。大手門前には川を利用した天然の外堀があり、更に無名沢から水を引きこんだ内堀にかかる唐橋を渡って入城する。

先手の物見により人の居ない事を確認した小栗教久が、小栗衆二百騎の進軍の合図を出す。小栗の主力一団が城門に差し掛かる。

小原教久の側は、一門衆の甚衛門、又兵衛が守備を固めていた。

大手門前の唐橋に爆薬を仕掛け終え導火線に点火した男平八は、正九郎が漕ぐ小舟に跳び移り、堀の中を移動する。

導火線の煙を不思議に思い、堀を覗き小舟の二人に気付いた小栗甚衛門と又兵衛が「何者だ」と橋の欄干に詰め寄ったところで、いきなり橋が爆発した。

ドドーーーーーーン!

「うぁあああああーーー!!!」

「謀ったな平井!」堀に落ちた小栗教久と家来衆達。残りの者も騒然となる。

「おのれ!卑怯な!」と堀の中から小栗甚兵衛、又兵衛も叫んでいる。

「お主の浅はかさを恨め」と城内の陰から姿を現した平井光村が、教久達をを弓矢で次々と射ち貫いた。

先に城に入った小栗勢は、城内各所の武者隠しに潜んでいた平井衆が城門前に現れ、一斉に鉄砲や弓を乱射したため郭の内で掃討された。

城外に残った部隊も、城下町に潜んでいた平井衆に包囲され、外堀、内堀に追い落とされる。

続いて堀に落ちた者たちの下敷きになる者、鎧の重さに水の中に沈む者が続出する。

なんとか石垣にしがみついた者も、平井衆に次々と狙撃されていった。

堀に落ちた馬、爆発に吹き飛ばされた馬が力無くいなないている。

光村が堀の中の光景を見降ろし呟く。

「あの世で城主になるのだな」

男平八と正九郎は小舟を漕ぎながら、自分たちの仕事が終えたことを確認する。あとは別働隊の勘九郎一行が、御嶽城から人質を無事救出できる事を祈った。


*****

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