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51部:平井頼母光村

その頃、兼山城の南方にある小原城では、御嶽城の小栗信濃守教久の謀略によって城主の平井頼母たのも光村が苦境に陥っていた。

「小栗の使者は、我が母(宮内少輔光行の室)と正室(以下、妻とします)を帰して欲しくば、小原城を譲れと申してきおったのだ」

「頼母さま、小原城を小栗に渡すおつもりですか?!」と頼母の一族・平井出羽介でわのすけ

「母と妻の命には代えられぬ・・」

「我ら、心血注いで築城したのに口惜しいです」

「無念だが・・・」

「信玄公か、信長様に相談なされてはどうでしょうか?」

「その時点で人質となった母たちは殺されてしまうだろう。小栗教久、姑息な手を使いよって!」思わず拳で壁を叩いた光村だった。


*****


小栗信濃守教久は、人質とした平井親子を御嶽城の地下牢獄に幽閉した。

「小原城、労せずして手に入りそうですな」と山路弾正。

「弾正殿が寺で平井親子を誘拐し、こちらに手引きしてくれたおかげだ」と小栗信濃守教久。

「人質を取られて城を空け渡したなど、平井も恥ずかしくて公表できないだろう」

「平和な城の盗り方で御座る」

「小原城に続いて、奴の本拠地・高山城も奪いたいものよ。父・信濃守重則の望みを叶え、そして仇かたきもとれる」

「平井に対しての織田信長の態度、さぞかしご心痛でしたでしょう」

「まったく。最初に織田方についてやったものを、平井なんぞを重用しよって」

「これからは、本願寺が手厚く支援いたしますぞ」

「よろしく頼みまするぞ」と山路の手を取る教久だった。


*****


兼山城本丸、居館。

久々に兄に再会した弟達は喜び、勝蔵の肩や頭によじ登っているが、勝蔵はそれを乱暴に振り落とそうとしている。森勝蔵の弟達にじゃれられた桜は、子供たちをうまく相手をしている。

(桜にもこのような一面があるのだな)

「お姉ちゃんは、兄上のお友達ですか?」と桜に近づき身なりを観察する於乱。

於乱は、一行の中の紅一点である桜が気になった様子だ。

「こら、於乱。桜は隠密で、強いお姉ちゃんなんだぞ」と弟の態度に少し怒った勝蔵。

しのびのお姉ちゃんなんだ」母の侍女や、城に出入りする女性達とは違う職業の女性なのだと関心を持つ。

「ますます桜に興味を持たせてしまったようだな」と平八。

「なにか忍術みせて下さい」と桜に付きまとうので、桜も対処に困っている。

「これこれ」と御栄御前も於乱を窘めるが、於乱の興味は尽きない様子だ。

「於乱は、桜さんを気に入ったのだな」と正九郎。

日頃から賑やかな子供達を桜が面倒を見てくれているため、御栄御前はご機嫌である。

「桜は、花は好きですか?この兼山城にも花がたくさん咲いているのですよ」と於乱。

「登ってくるときに見ましたが、この城にはきれいな紫陽花あじさいが咲いていますね」

御栄は城の紫陽花が自慢だったので、桜の注意力に喜んだ。

「そうだ、一緒に〈三ノ丸〉に参りましょう。紫陽花の花が咲いている小道があるのです」

「では、私も一緒に行きます」と於乱。

「さあ桜さん、一緒に行きましょう」

桜は御栄御前と於乱と一緒に城内の花を見に行く。

出丸郭でまるくるわに向かう途中、〈二ノ丸大番役〉の為に参勤しこれから帰城する御嶽城小栗氏の家臣・小栗甚衛門とその家来衆が居た。

三人は会釈だけして前を通り過ぎた。

「森家の家族のようだな」と甚衛門、御栄御前の艶やかな着物姿に城主の室と察した。

「あいつらも誘拐したらどうだ」と小栗又兵衛。平井家の親子のように城まで連れてゆき人質にすることを考える甚衛門。

「帰城する前に、手土産にはちょうど良い獲物かもしれぬ」

「よし、平井家に続いて森家も脅迫して金山城も手に入れようぞ」

「そうだな、いずれ平井の一件も明らかとなってしまうだろうし、同じことだ」又兵衛も頷く。

出丸郭の下の小道で紫陽花を見ている三人に小栗甚衛門が近づく。

「わっ!」花を見ていた於乱に突然、大袋が被せられた。

すかさず短刀を構える桜。

「さすが、武家の娘だな。しかし、他の二人がどうなってもよいのか」小栗甚衛門の言葉のとおり、御栄御前もあっという間に又兵衛に猿轡さるぐつわを噛まされていた。人質を捕られては、反撃しても救う事ができない。

唇を噛む桜。

「しかたない」桜は短刀を地面に置く。

「よし、お主らには御嶽山城までついてきてもらうぞ。何かしたらそこで命はないと思え」

三人は小栗勢に身動きが取れぬように縄で縛られ、さらに荷駄隊の荷物に押し込まれた。桜は隙を見て関節を外し、伴ノ衆に行先が判るように目印を荷物の隙間から落としていった。


*****


それからしばらくして、兼山城の本丸。

「三人の姿が見当たらないのだ」勝蔵の平静でない様子で事態の深刻さが判る。

「崖から落ちたか」と悲観的な可能性をあげる男平八に、

「そんな不幸な事を言うなよ」と今にも飛びかかりそうな目で見る勝蔵。

「伴ノ衆、いるか?」勘九郎が天井に向かって声を掛ける。

「〈三ノ丸〉近くの山道で桜の短刀が落ちておりました。〈二ノ丸〉から小栗殿の手勢が引き上げるところでしたので、何か異変に巻き込まれたのかもしれませぬ」

「御栄様と乱丸様、それに桜が小栗信濃守の手の者に攫われたということか」と正九郎。

勘九郎が、御嶽城の小栗氏について関係を説明する。

「現在の御嶽みたけ城主は小栗信濃守教久のりひさだ。教久は永禄8年の美濃侵攻の際は親織田派だった。三人を誘拐するとか、そんなことをするだろうか」

「三人を連れ去ることができたのは小栗衆しかいません」と伴一郎左。誘拐された桜の兄の推理なので説得力がある。

「小栗、血迷ったか」と男平八。

「母上、於乱、桜・・・」拳を握りしめる勝蔵。

「桜が居るので、行く先は押さえる事ができると思います」と伴一郎左は冷静だ。

「では、追跡を頼んだぞ、一郎左」と指示を出す勘九郎。

「隠密を誘拐するとは、命知らずですね」と男平八は、三人のうちに桜が居てくれて良かったと思った。

「桜も御栄殿と於乱が人質に捕られ、無理できなかったのではないか」事件の状況を推測する勘九郎。

「小栗衆を俺も追う」と勝蔵。

「そうだな、助けに行くぞ」と四人の意見がまとまった。


*****

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