46部:潜入
勝山猿啄城本丸。城代・川尻下野守吉治が多治見修理亮を呼び出した。
「修理亮、今日城下に行った家来衆が戻ってこぬ。何か知らんか?」
「私の配下の者が聞いた噂によると、御家来衆は町中で与四郎殿に拘束されたのではないかとのことです、それと、奇妙丸様を語る不届き者が城下にいるとのことです」
「なに、奇妙丸様だと?若がここに居るはずがないが」
「きっと、与四郎殿が民衆を騙すために吹聴しているほら話でございましょう」
「おのれ与四郎、何をするつもりだ」
「もしや、吉治殿を川尻家から追い出すおつもりなのではありませんか?」
「このままでは、与四郎に殺される。そうなる前に与四郎を討つぞ」弟を討つ覚悟を決めた吉治だ。
「明朝、私の手の者を差し向けてもよろしいでしょうか」と更にそそのかす修理亮。
「頼んだぞ、修理亮。儂も吉治の最後を見届けるとしよう」
どうやら与四郎の死を確認しないと吉治は安心できないようだ。
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〈三ノ丸〉城外。伴ノ衆が集結した。
一郎左達は、備えのある城内で戦う事は不利とみて、与蔵達を場外におびき出すことにした。
「何か手はあるのですか」と二郎左。
「於八殿から頂いたものがあるのだ」と一郎左には考えがあった。
一郎左は御庭番の仕事をしながら、男平八(於八)の日々の努力を見てきた。いつも長良川で採れた魚を御庭番衆の者たちへと届けてくれるのだ。その魚の量が、日々確実に増えてきている事を一郎左は知っている。
忍びの術も日々の積み重ねが基本だ。一郎左は男平八(於八)に自分たちと同種の匂いを感じていた。
於八から爆薬製造のもととなる硝石の仕入れや、道具の調達も頼まれるようになり、二人のやり取りの中で御庭番の一郎左の中には、いつのまにか男平八(於八)への厚い信頼が構築されていたのだった。
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勝山猿啄城中腹にある〈三の丸〉。
多治見与蔵が透波衆とともに明朝の討ち入りにむけて待ち構えていた。
松明の周辺で武具の装着や手入れをしている。
「よいか、明朝、川尻の下屋敷を襲撃し与四郎を討ち取る。それから、検分に降りてきた吉治殿も亡き者とする」
「ははっ」
「朝駆けまで、しばし休め」
「ははっ!」
透波衆は、夜露から暖を取ろうと焚火周辺に腰を下ろし、仮眠をとりはじめた。仕事柄、朝駆けへの緊張で眠れない者などはいない。
伴ノ衆も忍びの特性を熟知しているので、このような時は任務に備えて寝る事が判っていた。
伴ノ衆たちは、襲撃する自分たちが逆に襲撃されることはないと油断している与蔵たちに、城壁の屋根から矢を降り注いだ。
異変に気づいた透波衆は素早く飛び起き、辺りを照らす焚火を消した。被害は三分の一程だろう。
伴ノ衆は森の中を走り、崖の方へと駆ける。
それを追う透波衆。
いつの間にか木曽川に面する断崖絶壁に彼らはいた。
一郎左が絶壁沿いの獣道を抜け視界の開けたところに待ち受けていた。
手に持っている棒状のものの先端から火花が出ている。
「くらえっ!」一郎左が透波衆にむかってそれを投げつけると同時に、二郎、三郎、四郎、五郎も透波衆の四方から同じ物を投げつけたのである。
「「「ダーーーーーーーーーーン!ダダーーーーーン!」」」という凄まじい爆発音とともに山彦がこだまする。
透波衆は爆発に飲み込まれ、崖崩れと共に谷底へと落ちて行った。
岩場から谷底を見下ろす一郎左が呟く。
「今宵は、魚が餌にありついたな・・」
於八の爆薬の凄まじさを確かめた一郎左だった。
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勝山猿啄城下、川尻屋敷。
城に潜入した桜を思い眠れない勘九郎。
そこへ「「ダーン!」」という地響きがして山彦の様に「ズズーン!」と山崩れのような音が聞こえてきた。
「お、於八?」音に驚いて反射的に於八と呼んでいた。
「はい、若」
「さっき、岐阜城で聞きなれた爆発音がしたのだけれども」
「俺にも聞こえましたよ!」と勝蔵。
「於八のじゃないよね?」と、確認する勘九郎。
「爆薬を分けた一郎左殿のものでしょう」と男平八。
「何かあったということか」勘九郎は事態が悪化している事に気付く。
「城に向かいましょうか」と桜の事が心配になった勝蔵。勝蔵も朝まで待てなくなった。
「うむ」三人とも夜明けを待たず出立することを決め、与四郎に伝えに行く。
その頃、桜は透波衆が兄達を追って出て行ったので苦も無く城内に潜入することが出来ていた。
多治見修理亮と川尻下野守の謀反を確認するため城内に忍ぶ。
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