42部:茶屋の秋
ハルニレの茶屋。
「ここの饅頭美味かったんだよな。若、寄って行きましょうよ」と勝蔵(於勝)。
(さっそく若って呼んでるでしょ!と脳内で突っ込みを入れる正九郎(九郎丸))
「うん、そうだったな」と勘九郎(奇妙丸)は寄り道に乗り気だ。
一行の旅は、城を出ればまず腹ごしらえから始まるようだ。
「いらっしゃいませー」
茶屋の娘が今日は手伝いに出ているようだ。町娘らしい元気な挨拶だ。
於八はこの間来たときはこのような娘がいただろうかじっと顔をみると、視線を感じた娘と目があってしまった。
於八は慌てて視線をそらしたが、娘は於八の事が気になり始めていた。
娘は注文を聞きに、勘九郎(奇妙丸)一行の長椅子に近づいてきた。
「あの、そこのお侍様は“福男”の於八さんじゃありませんか?」
突然に声をかけられ、とまどう於八こと男平八。
「どこかで、お会いしましたかな?」と、とぼける平八(於八)だが、その返事がぎこちない。視線を合わせようとしない於八。
「あの日、私も岐阜城下に行っていたのです」
「おお、祭りを見に来ておられたのか!」と於勝が驚く。
「於八さんの伊奈波神社前の大活躍、素晴らしかったです」と娘は於八を称賛する。
「ほら、於八さんの人相書きも持っているんですよ」と、平八(於八)の名前の入った人相書きを見せる。岐阜城下の絵師によって描かれたもののようだ。
(これは隠しきれぬ)於八は覚悟を決めた。
「そうです、私が福男の梶原です」
娘は福男の到来に大喜びで、団子もおまけに付けると言ってきた。
“福男・梶原於八”の似顔絵が美濃国内では流通しているらしく、城下では鎌倉時代の花武者・梶原景季の再来と呼ばれていると娘が教える。
娘に呼ばれて「一筆お願いします」と店主からの署名サインも求められた。店主は有難がって、更に自慢のお茶菓子をたくさん提供してくれたのだ。
「福男人気って、すごいな」と勘九郎(奇妙丸)。やはり民衆にとって豊作であることは切実なもので、自然の恵みに対してのお祭りや祈りは、どんなに忙しくても欠かしてはならないものなのだと認識する。
腹が満たされ「あー、おいしかった」と勝蔵(於勝)は満足気だ。
「まことに」と正九郎(九郎丸)。於勝に劣らず大食漢のようだ。
店を出る際に、平八(於八)が娘に呼び止められた。
「あの、帰りにもまたお店に寄って下さい。私はハルニレ屋の娘、秋と申します」
といって手を握られる。当然のことだが、奇妙丸の手よりもずっと柔らかい。
「秋さんか、ありがとう。また寄らせてもらうよ」平八(於八)は少し照れながら答えた。女の子にこんなことを言われるのは始めなので、平八はなんだか気恥ずかしかった。
「梶原於八一行」ということで、奇妙丸の存在は注目されないだろうと、於八はなんとか誤魔化したつもりだ。
*****
茶屋を出てしばらく歩き、人混みがなくなった頃、桜が皆に話しかけた。
「あの、皆さん」
「なんだ、桜 ×3」と勘九郎(奇妙丸)、男平八(於八)、勝蔵(於勝)の3人が声をそろえて聞く。
「このままでは、まずいです」と、桜はやや怖い顔で皆に言う。
「まずい、とは?」
「男だんさんの人相が、世間にわれています」
はっと気づく一同。
「そうだ、ね」確かにそうだと納得する四人衆。お忍びで旅をしていることをすっかりと忘れてしまっていた。
「ならば、顔を変えよう」と勝蔵(於勝)。
「いや、無理ですから」と男平八(於八)。
「では、変装をしましょう」
正九郎(九郎丸)の提案に、皆は頷く。
「そうだ菅傘をかぶったら?」と勘九郎(奇妙丸)。
「襟巻などいかがでしょうか」と正九郎(九郎丸)。
「顔半分が隠れるように首に回すといいと思います」
「眼帯は?」と明らかに悪ふざけをする勝蔵(於勝)。
「それは必要ない」と、男平八(於八)は一喝した。
途中の衣服屋や小物屋で、随時変装道具を買い足してゆく。
「福男」を封印するために、男平八(於八)の怪しげな変装が確立されてゆくのだった。
*****
伊勢神戸城
「殿様、生駒三吉殿から書状です」と進上し差し出す万見仙千代。
「・・・であるか」信長は書状に目を通し、いつもの言葉を口にしていた。
「奇妙丸が動き出したか」連絡網が機能していることに満足げな信長。
そこへ仙千代の同僚、菅屋於長が駆け寄ってくる。
「徳川殿から掛川城落城の“早馬はやうま”が参りました」
(武田入道の手出しが出来ぬよう、将軍家に遠江の支配権を認めさせ公にせねばならんな)
「木造の件、瀧川に任せ、一度上洛するぞ」
「はい ×2」と仙千代と於長。
信長はすでに歩き出していた。
第7話 完
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また来週!




