41部:出発
明朝、恵那山に向かって奇妙丸一行が旅立つ。
途中で立ち寄る予定の兼山城は於勝の父・森可成の居城なので、何か足りないものがあれば、そこで補給を行う予定である。
岐阜城本丸には生駒三吉が入り政務を代行、岐阜御殿には奇妙丸の変装をした冬姫が常駐する。傍衆の佐治・金森・千秋達が万事備えてくれるだろう。それに、搦め手では茶筅丸達が城を守っている。
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あとはこのお忍びの旅が、世間に知られないようにするだけだ。
「九郎丸殿、旅には御庭番の桜が同行します」と紹介する於八。
(妹たちと歳は変わらなくみえるけど、隠密なのか)と驚く。
「よろしくお願いします」
町娘の姿をした桜が、一礼する。
(この方があの二人のお兄さんなのですね、そういえば双子さんとどこか顔が似ている)
「では、道すがら話すことにして、行きますか」四頭の馬に荷物を載せ、五人組が旅立つ。
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道の途中、人混みの無くなったところで於八が九郎丸に旅の決め事を話す。
「旅の間、我らは偽名で呼び合っております」と於八が説明する。
「“若”などと呼びますと、身分がばれてしまいますので、ここからは偽名を覚え、それで会話をしていただきたい」
「なるほど。皆さんは、なんという偽名なのでしょうか?」
「私の事は勘九郎信重と呼んでくれ」と胸を張る奇妙丸。
「私は男平八郎。平八でいいぞ」と於八。
「俺は勝蔵」於勝は最近、意識して「俺」と言っている。最年少なのが嫌なのだろう。
「ちなみに、桜は、桜のままだから」と於勝が桜に代わって言う。
皆の偽名を聞いた九郎丸は、少し考えてから
「では、殿に倣って正九郎しょうくろうとします」と宣言した。
「桜には皆を“さん”付けで呼ぶように言ってあるから」と奇妙丸が補足する。
「承知しました」と正九郎(九郎丸)。
「他に御庭番の伴ノ衆が交代で護衛してくれているので、正九郎には随時紹介をする」
「承知しました、勘九郎さん」名前を呼び慣れていないため、九郎丸は少しはにかむ。
新たに旅の仲間に加わった九郎丸改め“正九郎”は、忘れぬように頭の中でぶつぶつと皆の偽名を暗唱する。
「勘九郎、平八、勝蔵、桜、正九郎・・・」
「慣れるまでは大変なこともあると思うけど、何でも俺に相談してくれ」と於勝は先輩風を吹かせた。
一行は、於勝の先輩風に笑いを噛みしめながら、一先ず最初の町を目指し歩を進める。
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