第403部:朝倉義景の出陣
江北表 9月13日
松尾山城を出て関ヶ原を北上し、近江に入り、国友要害に進む奇妙丸軍。
「奇妙丸様~」
伝令の到着を慌てて知らせる小姓の佐々清丸(のちの清蔵)。
「そんなに慌てて、なにっ」
金森甚七郎に代わって、太刀持ちを勤める千秋喜七郎が清丸を両手を広げて止める。
「先陣の山田勝盛様から伝令! 浅井・朝倉の連合軍がやっぱり南下してきたみたいです~~~」
「半兵衛殿の読み通りだね」頷き合う小姓衆の金森忠二郎に加賀井弥八郎。
続いて、本陣に駆け込んだ伝令が報告する。
「今回の朝倉軍は総大将に当主の義景自ら出陣のこと、なお国友要害も江北一揆数万の軍勢に包囲されている模様! 横山城も浅井・朝倉の連合軍に攻囲されています!」
大将、奇妙丸が馬上で立ち上がる。
「義景だとぉ!!」
当主自らということは、越前全軍ともいえる大軍勢に違いない。
我々の役割は美濃から京都への街道を守り続けること、その為に前線を維持し続けること。
決して負けることはあってはならない。とにかく時間を稼ぐのだ。
「一刻も早く横山の後詰に向かいたかったが・・、予定通り、兵站戦を確保するためにも、国友から包囲網を打ち破り開放する!」
「奇妙丸様っ、ですが、国友を包囲する相手は数万一揆、民兵です」
従軍武士団の年長者:大須賀は浪人時代に一揆衆との結びつきもあった。そのため、一揆方の心情も分かる。
それに大問題なのは、武田家の婿である奇妙丸が、
本願寺方門徒の一揆と対立することだ。
今は安定している三河・遠江の国境線が、武田家の意向次第で崩壊する。
「一揆の兵士が民草であることは分かっているが、しかし・・・」
「ここは、一撃を入れて、軽く追い払うだけで・・」
しばし、沈黙が流れる。
「そんな余裕が我らにあるのか?! やはり横山城に向かいましょう」
堀部氏俊が、三河の所領をあんじて大須賀の案に異議を唱える。
一揆との直接戦闘を避けて横山城に入城し、籠城戦で浅井・朝倉軍の引き上げを待つ消極策だ。
しかし、この策では国友籠城軍は見捨てることとなる。そのうえ、沿岸側からの敵勢の南下を許し、街道を寸断されるかもしれない。
「苦しい選択だが・・、国友の方で圧倒的な武力の差を見せて、相手を退散させるしかあるまい」
奇妙丸も自分の置かれた立場と状況は分かっている。
「お互いの被害を最小に食い止め、勝敗を早く決する。それが最善の策だ!」
大須賀としては武田家の反感を招くような、一揆方に大打撃を与えそのうえ殲滅するような大虐殺作戦には反対だ。
「そうだな・・」
織田家の跡継ぎである奇妙丸に、町衆・農民の一揆討伐にて民間人大虐殺の汚名を背おわせるのではないか、傍衆の誰もが、浅井・朝倉や一揆軍により悪い噂が広められ、奇妙丸の実績の汚点となること、武田家との同盟関係を壊されることを恐れている。
「殿、よろしいですか」
白い装備で全身を固めた長身の武者が進み出る。
「楽呂左衛門、なにか良い方法があるか?」
「人の恐れる物、視覚的にも、体感的にも、火攻めが最良かと。ここは私にその作戦を一任して頂ければ」
「お主に、任せて良いのか?」
「もちろんです。 それでは殿、全軍を我が指揮の下に預けていただけますか」
呂左衛門が西洋式の礼儀作法で麗しく礼をする。
「うむ。お主の国の戦い方を見せてくれ!
皆のもの、この戦、山科楽呂左衛門に戦奉行を命じる!皆、呂左衛門の命に従え!!」
奇妙丸の手から軍配を預かり、その手を全兵士に見えるように高く掲げた。
「この戦い、いくさ奉行におまかせ あ~~~れ~~~~」
「「おおーーーーー」」
湖北一揆軍討伐の汚名は、戦奉行:山科勝成が背負うという、南蛮武者の心意気に感じるものがあった尾張・美濃衆の頭目たちが声援で応える。
「若殿お気に入りの、南蛮侍のお手並み拝見といこうか」
奇妙丸軍新参の三河与力衆(堀部・大須賀・川口・黒田)も、呂左衛門の覚悟をみて、指示に従うことを了承した。




