第401部:蒲生賦秀(やすひで)
ながらくお待たせしました。久々に投稿します。
休載してる間に、通信で学芸員資格を習得しました。
地域おこしに貢献できるように、下調べをして書いていくことができればと思います。
超鈍足ですが、お付き合いください。改めて宜しくお願い申し上げます。
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9月13日大阪表、桜岸砦。
昨夜の混乱のうちに、砦の搦手門から抜け出した一軍がいた。
忍びの甲賀衆が先導する一軍は音もたてず粛々と進み、砦から少し離れた無人化した集落に潜んだ。
打ち捨てられた民家の陰から戦場の様子を眺める武士のひとり、一団の先頭に立つ、一際目立つ軍装の銀色の鯰尾の兜に取り付けられた赤毛のフサフサの毛先が、小刻みに震えている。
「やっべえ」
「どうしました? 何か言いましたか?」
火縄の湿り気を確認しながら主とも相棒とも呼べる兵者のつぶやきに冷静に反応したのは、先程の銀冑の武者:蒲生忠三郎賦秀の腹心である町野忠兵衛だった。
町野は蒲生家譜代家臣で、忠三郎が幼少の頃より仕え、信長の下に忠三郎が人質に送られた時も追従し、その後も窮地を何度も救ったことによって「忠」の字を忠三郎に与えられている。
「いや。背筋が冷えるこの感覚。久しくなかったので声が出てしもた」
紀州から来た雑賀衆が本願寺方に寝返り、坊主・名主衆が率いる百姓・信徒が集まった数千の軍兵に合流し混ざっている。足利幕府軍の数を上回り勢いを得た一揆軍は、幕軍方に駆け付けた畿内の国人衆や土豪衆の陣地を次々と襲撃、陣屋や柵を破壊し、陣幕や旗指物等の燃える物には、片っ端から火を放っている様子が見える。
建物が類焼する熱と、火薬の破裂音や黒煙に巻かれ居場所をなくした将兵は、圧倒的多数の一揆軍に怯え、敵の囲みの反対側へ逃げ出す。敗走する幕府兵は容赦なく狙い撃ちされ、次々と目ぼしい大将首が取られ、戦場の死体は、落ち武者狩りに身包み剝がされている。
地獄のような凄惨なその光景を眺め、深く被った兜の隙間から見えるその表情は、込み上げる笑いを堪えるようで、危機的状況の中に似合わない。
「なんですか、畿内に名を轟かせた蒲生定秀公の孫ともあろう人が怖気づいて正気をなくしましたか」
「そんなことがあるか。逆じゃ。久々に、暴れられる喜びに、背筋がぞくっと来たのだ」
「ほう、それは頼もしい・・」
軍団長柴田勝家の軍に従軍し、数々の戦場を経験した忠三郎は、戦の劣勢な時や敗戦の退き際に、鬼が憑依したような荒武者となり、柴田の侍大将の拝郷や毛受と武功を争ってきた。ひたすらに大将首を目指して突き進むので、忠兵衛がすぐ隣にいて、危ない時は羽交い絞めにして止めないと、敵陣にひとり突っ込むような勢いだった。父:賢秀の厳命で、甲賀衆が遠巻きに見守っているとはいえ命がいくつあっても足りない働きをする。
「儀我三河守はいるか?」
儀我氏は蒲生家の一族庶流だ。一門衆として信頼厚い老臣だった。
「はいっ ここに!」
「後方にいる森勝蔵のところに使いしてくれ、我が先陣を切り一揆軍の出鼻を挫く故、敵が崩れたら追撃せよと伝えてくれ!」
「はっ!」
素早く使者に立つ三河守を見送る。彼は一目で蒲生家中と分かる、世間に認められる顔の広さなので、於勝(森勝蔵)でも偽情報とは思うまい。
「今日は鬼武者になった俺には、近づいてくるなよ。味方とも分からず斬るかもしれんからの」
「えー?!」
頬あてを装着し、完全武装した忠三郎が馬上の人となる。
「ハイッ!!!」と愛馬の夏風に合図し、夏風は応えて駆け出す。
「おいおいおいー ちょっ 待ってよっ」
(ああっ、単騎でいってしもうた・・。於冬様から頼まれているし、死なせる訳にはいかんのに。仕方ないなぁ)
町野忠兵衛も、火縄を背負いサッと騎乗する。
「若殿を死なせるな!! 行くぞ! みなの衆」
「「おおっ!!」」
蒲生軍団を形成する外池、稲田、北川といった蒲生家古参の譜代衆が、若殿を守るために立ち上がった。
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矜持をもって仕事する。
第二の人生、実践できれば良いなと思います。




