34部:池田双子姉妹
「弐番競ー技 ! 選抜者による綱引き大会」と茶筅丸の司会。
茶筅丸の指示でドン、ドン、ドン、ドンと大太鼓が鳴らされる。
選抜者たちは先程の疲れを癒す間もなく、土手に集まった民衆の中を掛け、用意された綱のもとまで走る。
通り抜ける間に民衆は、ここぞとばかりに競技者の背中や腕に手を触れ、神への願いを注入する。
これから始まる競技は7対7の人数で綱をひっぱりあう単純な競技だ。中央に小川を挟んでいて、先頭のものが小河に足を踏み入れた時点で勝敗が決まる。
全員位置についたようだ。冬姫の合図を待とうと会場が静かになる。
「まいります」冬姫が珍しく大きな声をあげて、扇を掲げる。
ドーン!と冬姫の合図をみた伴一郎左が空砲を討つ。
「東!」綱引きの呼吸に合わせて声援が送られる。
「西!」対岸の民衆も叫ぶ。
「東!」負けずと今度は東美濃応援の民衆。
「西!」今度は西美濃応援の民衆。
先程の強烈な運動で、選抜者たちの上腕二頭筋に、腹直筋、太腿四頭筋はよりたくましくなったように思える。皆の熱戦に会場は大盛り上がりだ。
綱を掴む手に渾身の力を込める。選抜者たちの額には汗がにじむ。
白熱する接戦に選抜者たちの本気が伝わってくるので、それに比例して応援も凄まじい。
右に左に縄端は動き、ついに縄の中央近くにいた先頭の加賀井の足が小河にはまってしまった。
決着がついたので、終了を知らせる爆竹が
パン、パン、パンと景気よく鳴らされた。
「東方、勝利―!」と冬姫の扇の判定も東方を指す。
今回の競技は、茶筅丸の選抜が意地を見せた。
「よっしゃー」と拳を合わせる小坂に土方。円陣になって飛び跳ねて、側衆達が勝利に盛り上がっている。
「惜しかったー」と奇妙丸。見ているだけで手に汗にぎる戦いだった。
ここで、一旦休憩が入ることが、茶筅丸の指示で、民衆に知らされた。
腹の空いた者たちは、この間に食べ物を物色する。
民衆は、長良川の土手から瑞龍寺山の方向へ移動し始めた。
これから、「福男」目指して伊奈波神社まで激走する選抜組を、沿道で応援しようという動きだ。
新参なので今回の競技には参加はしていないが、信長から奇妙丸付きに配属された生駒三吉と、池田九郎丸も祭りの見学に城下町に居た。
九郎丸は、冬姫の傍衆としてお城にあがることになった池田家の双子の姉妹を伴って「尚武しょうぶ祭り」を見学していた。
「京都に負けず、岐阜も賑やかだな」と祭りの観戦に熱の入る民衆を見て三吉は言う。
「うん、本当だ。活気があふれている」と九郎丸。
「お仙さん、お久さんは、尾張津島の祭りも知っていますよね」と二人に話をふる三吉。
「津島も良いですが、私はこの町の雰囲気も好きです」と姉妹は二人揃って仲良く応える。
池田のお仙・お久の姉妹は、見た目だけではなく考え方も同じのようだ。
そこへ、次の競技の出発場所に定められた広場に走って向かう於勝が、立ち話をしている双子姉妹を避けようとして転んでしまった。
「あ、すみません」
「あの、大丈夫ですか?」
お仙とお久は立ち上がらない於勝を心配して声をかけた。
「失礼」と於勝は何事もなかったかのように立ち上がると、服装を整える。
「お怪我は御座いませんか?」
「うむ、身体だけはこの通り、丈夫だ」
於勝は無意味に力こぶを作り、双子姉妹に丈夫さをアピールをする。
「あなたは、於勝殿ではないですか」
「いかにも」
於勝は格好つけるかのように、角度を決めて応えた。
「お怪我はありませんか?すみません、道の真ん中で話し込んでしまって」
「鍛えているから大丈夫!」
於勝はもう一度力こぶを作り、三吉と九郎丸にアピールをした。それを見て双子姉妹は、くすくすと楽しそうに笑っている。
「於勝さん、さっきの競技大活躍でしたね」
「みていてくれたの?」
「次も応援していますよ ×2」と双子姉妹。
於勝は「次も俺の本気、みせるからー!」と謎な言葉を残して、広場へと走り去っていった。
三吉・九郎丸たちは、新参者なので於勝には敬意を払っているのだが、於勝の行動を予測できない性格には未だに慣れない。
「おもしろき人ですね」とお仙。
「今度、家に連れて来てください」と兄に頼むお久。どうやら於勝は、二人のツボに入ったようである。
「わかった、機会があったらね」さすが双子姉妹だなと三吉は思った。
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